第12話 よし、国家転覆の準備をしよう
これは、千年前から続く一途な片想いの物語。
・影からそっと見守ってる
(なお、認識阻害術により相手に気づかれていません)
・君しか勝たん!(屋敷は君の肖像画でいっぱい!)
・ペアルック
(髪も目玉も、君と同じ色にしてみたよ!)
・愛のあるプレゼント(国まるごとあげるよ)←NEW!
……すなわち
王道の溺愛系ファンタジーです(?)
「おじさん!」
むき出しの土壁の小部屋。
扉のない出入り口の向こうから、ばたばたと足音が近づいてくる。
駆け込んできたのは、そばかすが目立つ若い男。煤にまみれ、ボロ切れのような衣服からは枯れ木のような手足が飛び出ている。
「テス。来たか」
「もう。だからそれは俺のじいちゃんの名前!」
書類から顔を上げた私に、男――まだ少年か、は恨めしそうにこちらを睨みつけた。
痩せた貧相な身体に反して、その瞳は燃えるような火を宿している。
「会議を始める。テス、皆を呼んでこい」
「あー、もう、だから俺はテスじゃないって」
文句を言いつつも、すぐに指示に従う素直な彼は、テスの孫。
上級国民だったテスと違い、魔力がほぼない孫は下層民。頭上の鉱山で、日々僅かな食事だけで鉱石を掘り続ける。
私――ヤータン二世は、無事乗り換えたクローンにて、初代ヤータンの息子として、貴族のような暮らしをしている。これはあくまで、表向きの立場である。
「さあ、国家転覆の準備をしよう」
ゾロゾロとこの小さな地下室に入ってきた炭鉱夫たち。泥にまみれた彼らの顔を見回せば、誰もが強い意志を目に宿している。
――裏では、こうして、国家反逆を企てる首謀者だ。
「国民皆魔力徴収制度。
わが国の、理不尽な差別制度の最たるものだ」
頷く聴衆を見回しながら、私はゆっくり相手に響くトーンで、言葉を重ねていく。
「この制度がある限り、君たちは虐げられたまま。
しかし、国家の監視に隙はない」
視線を受けて、一人の男が大判の紙を机に広げた。折りシワのついた黄ばんだ紙。ところどころに朱でバツ印が書き込まれている。
「魔力監視機構の礎の配置です。特定したものが20ほど。推測するに、この百倍は、各地に秘匿されてるかと」
集まった男たちは一様に紙を覗き込む。腕組みする者。低く唸る者。
「今の我らだけでは、なかなか」
「そもそも、"影"に隠れて行動するのも限度が――」
"影"――それは国民のなかに紛れ込んだ、名もなき国家のスパイである。
「先日も一人、仲間が検挙されてしまいました」
「ヤータンさまにお救いいただき、なんとかなりましたが……」
厳しい、重苦しい空気が流れる。それを破ったのは、まだ声変わりの途中の少年の声だった。
「おじさん。仲間を捕まえた警吏の記憶を書き換えたんでしょ? その、"認識改変の術"ってのは、もっと使えないの?」
テス孫が、期待に満ちた顔でこちらを見る。
私が得意とするのは、人の認識を歪ませる術だ。
反逆罪で連行されかけた仲間。私の術で警吏の頭をいじって助け出したのだが、
「強力だが、数が限られる。あまり多数に用いると、効果も薄れてしまうからな」
国の中枢は闇だ。奴らは、この支配構造を守るために、幾重にもスパイや術を、この国一帯に隙間なく張り巡らせている。
「慎重にいかねば」
いつか、彼女が望んだ時に。この国を、差し出せるように。
世界を治める最強ババア。その隣に寄り添う己を想像し、背筋にゾクリと震えが走る。
「もう少し、仲間を増やそう。なに、焦らずいけばいい」
内心の昂りをおくびにも出さず、私は真剣な目をした鉱夫たちに、計画を語って聞かせた。
お読みいただきありがとうございました。
最強ババア以外の人間には関心のないヤータン。
それでも、かつて戦争で共に戦ったテス(第2話〜第4話に登場)。その孫には、テスの面影をかさねて、少しは気にかけているようです。
残り3話となりました。
明日、6時台に更新予定です。




