玉珠、私の孫より年下の子を産むのですか?
劉明珠でございます。
寧珠が母になりました。
つまり私は三十四歳で祖母になり、環珠は十五歳で叔母、和珠に至っては九歳で叔母です。
……我が家の年齢を並べるのは、もうやめた方がよい気がいたします。
そこへ玉珠が、
「姉上、若い叔母上が増えましたね」
と嬉しそうに申しました。
「なぜあなたが喜ぶのです?」
「仲間ですから」
「何の?」
「上の世代なのに若い仲間です」
考えながら右手を鼻へ向けたところで、夫君につかまれております。
平和ですね。
この時の私は、まだそう思っておりました。
玉珠が――
さらに家系図をややこしくするまでは……
寧珠が子を産んだ翌日から、子初殿は少しおかしくなりました。
いえ、正確には前から落ち着きのないところはございましたが、父親になったことで、それが堂々と表へ出てきたのです。
赤子が泣けば立ち上がり、眠れば息をしているか確かめ、少し顔をしかめただけで産婆を呼ぼうとします。
「義母上、今のは苦しそうではありませんでしたか?」
「眠っているだけです」
「しかし眉が」
「赤子にも眉くらいございます」
「そういう意味ではなく」
朝からこれです。
寧珠は横になったまま、夫を見てため息をつきました。
「母上、何とかしてください」
「なぜ私が?」
「父上を十七年も扱ってきたのでしょう?」
「扱ったとは何ですか!」
文烈様……
娘から、私は猛獣使いにされましたよ。
否定しきれないところが少々腹立たしいですね。
子初殿は、それでも赤子のそばを離れません。
昨日までは「落としたらどうする」と抱くことさえ怖がっていたくせに、一晩たっただけで、今度は自分が誰より近くにいなければ気が済まないようです。
「子初様、少し休んでください」
「私は平気だ」
「昨日からほとんど寝ていないでしょう?」
「お前の方が寝ていない」
そこだけはもっともです。
寧珠は初めての出産を終えたばかりなのですから、今は何より身体を休めなくてはなりません。
子初殿が心配する気持ちは分かりますが、夫まで倒れられては困ります。
「子初殿」
「はい」
「あなたが倒れたら、寧珠が二人分心配することになりますよ」
「……休みます」
「最初からそうしてくださいませ」
素直なのは結構です。
文烈様より扱いやすいところだけは助かりますね。
昼前になると、環珠と和珠もやって来ました。
環珠は部屋へ入るなり声を落とし、眠っている赤子をそっと覗き込みました。
「姉上が、本当に母親になったのですね」
昨日までと何かが急に変わったような顔で、寧珠を見ています。
寧珠も少し照れたように笑いました。
「私も、まだ変な感じよ」
「痛かった?」
「死ぬほど……」
「……聞かなければよかった」
環珠は顔をしかめました。
その横から和珠が首を伸ばします。
「これが甥ですか?」
「そうですよ」
「小さいですね」
「生まれたばかりですから」
「いつ大きくなります?」
「少しずつです」
「明日?」
「そこまで急ぎません」
和珠はしばらく考え、今度は私を見ました。
「母上は、この子のお婆様なのですよね?」
「……そうですよ」
言わせないでほしいですね。
「では、私は?」
「叔母ですよ」
「九歳なのに?」
「私に聞かないでくださいませ」
環珠が吹き出しました。
「私も叔母でしょう?」
「あなたもです」
「十五歳で?」
「なぜ二人とも年齢を申すのですか?」
三十四歳で祖母になった母の前で、十五歳と九歳の叔母が誕生しております。
家族というものは、ときどき計算を放棄した方が幸せなのかもしれません。
そこへ玉珠まで現れました。
「姉上、和珠も叔母上なのですね」
「聞いておりましたか?」
「はい、仲間が増えました」
「何の仲間です?」
「若いのに上の世代です」
あなたは今でこそ数え二十九ですが、確かに初めて叔母になった時は相当若かったですね。
口にすると、また話がややこしくなりそうなのでやめました。
考え込んだ玉珠の右手が、いつものように鼻へ向かいます。
夫君が止めました。
「赤子の前だぞ」
「まだ触っておりません」
「触る前に止めてるんだ」
「最近、早くなりましたね」
「誰のせいだ」
夫君の腕前まで上がっております。
どうして我が家は、子が一人生まれただけで、これほど騒がしくなるのでしょう。
もっとも――嫌ではございません。
少し前まで、何か嬉しいことがあるたびに、私は文烈様のいない場所を探しておりました。
ここに座っていた、この話なら笑った、寧珠を見ればきっと目を細めただろう――そんなふうに、もう会えないあなたの姿ばかりを思い浮かべていたのです。
そこにいないはずなのに、あなたのいた形だけが妙にはっきり残っておりました。
今も消えたわけではありません。
ただ、孫を抱いていると、その空いた場所ばかりを見ている暇が少し減ります。
赤子は眠りながら、私の指を握りました。
小さな手なのに、思ったより力があります。
「……そこまで似なくて結構ですよ」
つい口にすると、玉珠がすぐ反応しました。
「やはり文烈様ですか?」
「違います」
「でも今、似ていると」
「申しておりません」
「力が似ていると」
「あなたは都合のよいところだけよく聞こえますね」
寧珠が笑い、環珠まで肩を震わせています。
和珠だけが赤子の手を覗き込みました。
「父上は握る力が強かったのですか?」
「そういう意味ではありませんよ」
「では何が似ているのです?」
「……私にも分かりません」
本当に分からないのです。
生まれたばかりの子の顔など、昨日と今日でも変わって見えます。
それでも、ふとした瞬間に文烈様を思い出す。
寧珠があまりにもあの人に似ているから、その子にも同じものを探しているだけかもしれません。
それならそれで、悪くはありません。
「母上」
寧珠が私を呼びました。
「何でしょう?」
「抱いている時の母上、父上を見る時と少し似ています」
「どんな顔ですか、それは?」
「自分では分からないのですね」
「分かりませんね」
娘は妙なところばかり見ております。
文烈様……
あなたの娘は、とうとう私まで観察するようになりましたよ。
夕方になる頃には、寧珠も疲れたのか眠り、環珠と和珠も帰る支度を始めました。
子初殿は「今日は自分が見ている」と張り切っております。
「あなたも寝てくださいませ」
「分かっています」
「その返事を文烈様から何度聞いたことか」
「……寝ます」
本当に扱いやすいですね。
私は玉珠たちと一緒に屋敷を出ることにしました。
ところが、門を出てしばらくしたところで、玉珠の歩みが急に止まりました。
「どうしました?」
返事がありません。
見ると、口元を押さえております。
夫君がすぐ横へ寄りました。
「気分が悪いのか?」
「少し……」
珍しいですね。
玉珠が黙って具合を悪くしているなど、鼻へ指を入れようとしない姿を見るくらい珍しいことです。
「何か変なものでも食べましたか?」
「姉上、私は拾い食いなどいたしません」
「そこまでは申しておりませんよ」
「では、鼻をほじった手で何か食べたとか?」
「それは姉上が今、申しました」
夫君がこちらを見ました。
「明珠殿」
「冗談ですよ」
玉珠は眉を寄せたまま、しばらく動きませんでした。
その日は少し休ませれば治まりましたが、翌朝も同じだったそうです。
さらに数日すると、今度は食事の匂いで気分が悪くなり、妙に眠いとも言い始めました。
そこまで聞いたところで、私は嫌な予感がしました。
いえ、嫌というのは違いますね。
ただ、あまりにも見覚えがありすぎたのです。
「玉珠」
「はい?」
「月のものは?」
「……あ」
そこで初めて、玉珠の顔が止まりました。
夫君まで固まります。
私は額を押さえました。
「まさか、数えていなかったのですか?」
「忙しかったので」
「何に?」
「いろいろです」
「鼻ですか?」
「鼻は忙しくありません」
それはそうでしょうね。
念のため医者を呼びました。
玉珠は診てもらっている間も、まだ首を傾げております。
「姉上、ただの食べすぎでは?」
「食べすぎで月のものは止まりませんよ」
「そうなのですか?」
「あなた、一度子を産んでおりますよね?」
どうして私が妹へ初歩から説明し直さなければならないのでしょう。
やがて医者がこちらを向きました。
その顔を見た瞬間、私はだいたい分かりました。
「おめでとうございます。ご懐妊でございます」
玉珠が瞬きをしました。
「誰がです?」
医者が黙りました。
夫君が目を閉じました。
私は頭が痛くなりました。
「あなたですよ、玉珠」
「私ですか?」
他に誰がいるのです。
玉珠は自分の腹を見下ろし、しばらくしてから、ようやく嬉しそうに笑いました。
それ自体は、もちろんめでたいことです。
ただ――私は、つい先日抱いたばかりの孫の顔を思い出しました。
寧珠の息子は、もう生まれております。
その寧珠の叔母が、今になって新しい子を宿したのです。
私の孫より後に生まれるくせに、世代だけは一つ上になります。
……ややこしいですね。
玉珠はそこまで考えていない顔で、のんびり自分の腹を見ています。
やがて何かに気づいたらしく、顔を上げました。
「姉上」
「何でしょう?」
「この子、生まれる前から叔母上の子なのですね」
「あなたが叔母上なのですから、当然でしょう」
「では、寧珠の子より後に生まれても、上の方ですか?」
私は黙りました。
夫君も黙りました。
玉珠だけが考え込み、その右手がゆっくり鼻へ向かいます。
ぱしり、と夫君につかまれました。
「妊娠して最初にすることがそれか?」
「考えていただけです」
文烈様……
三十四歳で祖母になっただけでも、十分おかしいと思っておりました。
どうやら曹家だけでは足りず、今度は劉家まで家系図をややこしくするつもりのようです。
しかも、まだ生まれてもいないのに――
この子はもう、「叔母上の子」なのでございます。
劉玉珠でございます。
どうやら、私のお腹に子がいるそうです。
「姉上、驚きました」
「私の方が驚きましたよ。あなた、一度産んでおりますよね?」
「昔のことですので」
「忘れるものですか?」
姉上は難しい顔をしております。
寧珠の子は、もう生まれました。
私の子は、これからです。
「ということは、この子は寧珠の子より年下なのに、上の世代なのですね」
「そこを楽しそうに確認しないでくださいませ」
なるほど。
考えながら右手を鼻へ向けると、夫につかまれました。
「お前、身重なんだから少しは大人しくしろ」
「鼻は関係ないでしょう?」
ところで姉上――
この子が生まれたら、お孫様には何と呼ばせるのでしょう?
隣で姉上が、ものすごく嫌そうな顔をしております。
……今から楽しみですね。




