水を拒む若馬
若馬は、水桶が鼻先へ来るたびに顔を背けた。
前の晩から一滴も飲んでいない。唇は粉を吹いたように乾き、呼吸のたびに鼻孔だけが細かく震えている。それでも騎手が口元へ水を垂らすと、顎を引き、耳を伏せた。桶の縁が触れただけで首筋が強張り、伏せた耳の付け根に深い皺が寄る。
「押さえて飲ませます」
「やめてください」
私はまだ曲がりきらない指で、騎手の腕を止めた。力を込めたつもりでも、凍えの残る指先は袖を掴みきれず、布の上を滑った。
一頭目を夜通し冷やしたせいで、今朝まで指は氷水の中に残されたように固まっていた。昼を過ぎ、布で包んでようやく親指が掌へ届くようになった。それでも今夜もう一頭に付き添えば、明日の朝にはまた何も握れなくなる。
使える一晩は、一頭分だけだ。
雪上には横たわったままの馬が三十五頭いる。団長の馬は中でも最も重く、厚い毛布の下で浅い呼吸を繰り返していた。吐く息は短く、毛布越しに見える脇腹も小刻みにしか動かない。別の一頭は腹の右側が張り始め、後脚で何度も腹を蹴ろうとしている。蹄が腹へ届く寸前に力を失い、濡れた藁へ落ちるたび、鈍い音がした。
どちらも、目を逸らせる状態ではなかった。
それでも私は、水を拒む若馬の前へ膝をついた。雪解け水が染みた膝当てから、すぐに冷たさが這い上がってくる。
「今日は、この馬を看ます」
「団長の馬ではなく?」
騎手の声には責める響きより、恐れがあった。選ばれなかった馬がどうなるか、皆が分かり始めている。
「今は騎手が含ませた水を少し飲み込めています。体位を替え、保温を続ければ今夜は支えられる。でもこの若馬は、飲めないのではなく、飲むことを拒んでいる。理由を見つけなければ、朝までに水を受けつける力まで失います」
選ばなかった馬を放置するわけではない。騎手たちには二人一組で体位を替え、濡れた藁を除き、唇を湿らせるだけの水を少量ずつ与えてもらう。腹の張る馬は歩かせず、左を下に寝かせたまま呼吸と腹音を記録する。
「嫌がって首を振ったら?」
「水も体位替えも中断してください。押さえつければ、痛みなのか恐怖なのか見分けられなくなります。落ち着いてから、同じ量をもう一度です」
ただし、蹄を冷やし続け、飲める量を探り、夜明けまで変化を見る仕事は一頭しかできない。冷却だけでも、布が温まるたびに外し、絞り、冷水へ戻さなければならない。その合間に腹音を聞き、水と飼料の量を変え、蹄へ乗る重さを確かめる。一つ抜けば、次の判断ができなくなる。
団長は若馬と自分の馬を順に見た。自分の馬の荒い鼻息が聞こえても、視線を戻さなかった。
「押さえて飲ませるな。嫌がったら、そこで止めろ」
先ほどまで桶を抱えていた騎手が、黙って腕を下ろした。
私はまず若馬の鼻先へ空の掌を見せた。馬は匂いを確かめたが、触れようとすると顎を上げる。そこで手を止め、鼻息が掌へ戻ってくるまで待った。乾いた息が、途切れ途切れに皮膚を撫でる。
首筋には乾いた汗が板のように固まっている。毛を逆立てないよう指の背で辿ると、肩の手前で皮膚がぴくりと縮んだ。腹へ手の甲を当てると、かすかな音が一度したきり、長く途切れた。前脚の蹄は四つとも熱いが、特に右前の外側が硬く張っている。雪と泥を掻き出すと、外縁だけが長く、横たわる直前まで内側へ荷重を逃がしていた跡があった。
削蹄刀を近づけると、若馬の右耳が後ろへ伏せた。肩が硬くなり、右前脚が腹の下へ引かれる。
私は刃を置いた。
「削らないのか」
「今は嫌だと言っています。脚を奪われると思っているうちは、正しい角度でも危険です」
暴れる脚を押さえて削れば、外縁だけでなく、生きた部分まで刃が入るかもしれない。傷を作らなくても、次に蹄へ触れた時点で拒まれる。今夜必要なのは一度の成功ではなく、冷却も給水も削蹄も繰り返し受け入れてもらうことだった。
先に蹄を冷やす。冷水を含ませた布で蹄壁を包み、その上から雪を詰めた袋を当てた。直接雪へ埋めれば冷え方が強すぎる。若馬が前脚を引いたら袋を外し、落ち着いて蹄を戻したら、また布だけを当てる。
一度目は三呼吸も続かなかった。二度目は布が一周した。三度目には、若馬の肩からわずかに力が抜けた。嫌がらずにいられた時間だけを重ね、熱が戻りきる前に次の布へ替える。
その短い冷却を繰り返す間に、三つの桶を用意した。
一つ目は、これまで差し出されていた雪解けの冷たい水。二つ目は、湯を足して私の手首と同じほどに温めた水。三つ目は、それより少し低い温度にし、舌でようやく分かるほどの塩を溶かした水だ。凍えた指では温度を読み違える。手首を順に浸し、騎手にも確かめてもらった。
「どれを飲ませる?」
「私たちは選びません」
三つを、鼻先から同じ距離に並べる。桶の高さも向きも揃え、人の手が選択を誘わないよう全員が離れた。
若馬は初めの桶へ鼻を向け、冷気に触れた途端、唇を閉じた。二つ目には鼻先を近づけたものの、湯気を一度吸って顔を外す。
騎手が桶を追わせようとしたので、私は首を振った。
「背けた桶は下げて」
三つ目を嗅いだとき、若馬の耳が左右へ動いた。舌が一度だけ水面を叩く。小さな波が桶の縁に当たった。すぐ顔を上げたが、顎を引いてはいない。
私は桶をその場へ置き、一歩離れた。
しばらくして、若馬が自分から首を伸ばした。唇が水面を探り、二口飲んだところで桶を下げる。もっと飲もうと鼻先がついてきた。
「なぜ止める」
「乾いた腹へ一度に入れれば、痛みが強くなって、選んだ水まで嫌いになります」
呼吸を二十数え、腹音を聞く。もう二口。次は一口。若馬が舌を出して桶を探しても、腹が鳴るまで待った。待つあいだ、桶を隠しはしない。水が奪われたのではなく、また戻ってくると覚えさせる。
夜が深まるにつれ、選ばなかった馬たちの荒い息が暗闇を満たした。冷えた革の匂い、濡れた毛布の重い臭い、温めた水から立つわずかな湯気が混じる。騎手たちは交代で毛布を替え、肩と腰へ藁束を差し込み、二刻ごとに向きを変えている。腹の張る一頭が脚を振れば、そのたびに全員の目がそちらへ向いた。
私も見た。団長の馬が息をするたび、毛布の端が浅く持ち上がるのも見えた。だが、若馬の蹄を包む布から手を離さなかった。
今この一頭を選んだ以上、途中で工程を欠けば、二頭とも失う。
若馬の蹄の熱が戻る前に布を替える。水を三口。休ませる。腹が低く鳴ったところで、濃い飼料ではなく、ぬるい水で湿らせた干し草を掌半分だけ置いた。乾いた茎が弱った口内を傷つけないよう、指でほぐして硬い部分を除く。
若馬は匂いを嗅ぎ、最初の一束には口をつけなかった。鼻先で押し返したので、すぐに下げる。新しい束と替えると、鼻先で散らしたあと、柔らかい葉だけを選んで噛んだ。
数は少なくても、顎は左右へ動いている。飲み込んだあとに腹を蹴る仕草もない。私は次を足さず、蹄の布を替えた。
夜半、もう一度削蹄刀を見せた。
今度は耳が伏せない。まず空の掌を嗅がせ、柄で肩へ触れ、脚へ下り、蹄を持ち上げる。膝の上に預かった蹄は重く、熱が皮手袋を通して伝わった。外縁の伸びた部分を紙一枚ほど削ったところで、尾が強く振られた。
すぐに脚を下ろす。
「まだ途中だ」
「だから止めます。途中でも、拒まれたまま続けるよりいい」
半刻休ませ、少量の水を与え、再び掌を見せる。若馬は匂いを嗅いでから、自分で右前脚の力を抜いた。残りを一度だけ薄く削り、左右の蹄へ同じ厚さの柔らかな当て布を敷く。これ以上は触らない。削りすぎた蹄は朝までに戻せない。
明け方、冷却した蹄の左右差がほとんど消えた。外側だけに集まっていた硬い熱が和らぎ、蹄を包む私の掌へ均等に返ってくる。腹へ当てた手には、短い音が間を置いて三度返る。若馬は水を五口飲み、濡らした干し草をもう掌半分食べた。
やがて前脚が胸の下へ折り込まれた。
首が伸び、鼻先が雪すれすれをなぞる。立つ場所を探している。
「手綱を引かないで」
騎手たちが距離を取る。私は滑る場所へ乾いた藁を押し込んだ。尻へ手を添えようとした瞬間、若馬の尾が振れたので離れる。支えも今は拒まれている。
一度目は、右前が痛みに耐えきれず崩れた。
肩から藁へ落ち、若馬の鼻孔が大きく開く。駆け寄ろうとする足音を手で制し、倒れたまま呼吸が落ち着くまで待つ。蹄を確かめ、二口だけ水を置く。若馬は自分で飲み、濡れた鼻先を一度藁へ押しつけてから、再び首を起こした。
二度目は、前脚を広く置いた。後脚が雪を掻き、腰が上がる。右前が震えたが、削った外縁ではなく蹄の中央へ体重が乗った。前脚の震えが肩まで伝わり、歯を食いしばるように顎が固まる。それでも手綱にも人の肩にも頼らなかった。
若馬は誰にも引かれず、自分の四本の脚で立った。
騎手が駆け寄りかける。団長が片腕を上げて止めた。
「立てたことと、歩けることは別だ。休ませろ」
それは昨日、私が言った言葉だった。
若馬は脚を踏み替えようとはせず、広く開いた姿勢のまま息を整えている。私は胸の動きが落ち着くまで待ち、若馬が自ら鼻先を寄せたときだけ首筋へ掌を当てた。汗で固まっていた毛の下に、今は確かな温かさがあった。
若馬の前には選んだ水を少量だけ残し、蹄を冷やせる乾いた馬房へ移す。移動も歩かせず、足元へ藁を継ぎ足しながら数歩だけ自ら進むのを待った。濡らした干し草を少量、横になれる厚さの敷藁、同じ厚みの当て布。どれも欠かせない。
私は桶へ手を沈めたまま、ようやく息を吐いた。指は白く固まり、もう布を絞ることもできない。握ろうとしても関節が軋むだけで、親指は掌へ届かなかった。
そのとき、背後で藁を蹴り裂く音がした。
団長の馬が全身を硬直させていた。首が反り、奥歯が鳴り、毛布の下で後脚が痙攣して雪を打つ。
同時に、腹の張っていた馬が苦しげに寝返ろうとし、右腹が樽のように膨れ上がった。
団長が自分の馬の手綱を放し、私の前へ膝をつく。
「明日の一頭を、今ここで決めてくれ」
私の動かない指先へ、二頭分の荒い息が届いていた。
残り三十四頭。
(第3話へ続く)




