9 激烈化と激甚化
「今までの我々の同胞の仇だ……艦隊全艦、多重衝撃面隊形! 今までの訓練通り、第一支艦隊全艦は第五惑星に向けて一斉射撃の後、後続の第二支艦隊に場所を空けよ」
新たに編成なったシムーン33艦隊は、旗艦ゼルノック艦長ネルノルテ・テルメイロルの号令とともに、ラグランジェポイントからアウトレンジ攻撃をまさに開始しようとしていた。
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アクサル星系第五惑星アクサルでは、遠距離光学測定によってシムーン33の動きを察知していた。
「本拠要塞司令官レア・ブラックへ報告……第六惑星方向に敵艦隊の集結が観測されています」
観測員たちが報告に来ると、レアは少しばかりその観測画像を見つめると、まずはいくつかの考察点を口にした。
「了解……彼らはラグランジェポイントに艦隊を置き、地上に向けて遠距離砲撃をして来るに違いない……ただし、どんな攻撃をして来るかな……おそらくは、最終的にこの星に上陸してくるに違いない……とすると、惑星表面のみを破壊若しくは焼尽させる程度の砲撃を惑星全体に向けて放つというところか......」
そこに遅れてやって来たレオン・ブラック提督が口を開いた。
「惑星の表面全体か……それなら砲撃の間、我々は地中深く隠れていればよいというところかな」
「レオン、水上艦隊はどうするのか? 基地の中に隠れていてもよいが、ここを集中攻撃された場合、私たちが有効に対抗できる戦力が失われてしまう可能性がある」
「それはその通りだ……そうだな、そこで、出来るだけ住民たちを収容したのち、水中を逃げ回ることにしよう....…そうだな、あのへんな二人の言ったようにな……」
「逃げ回るとはいっても、敵から観察されて狙い撃ちされないようにね」
「その心配はないさ……彼らはどうやらラグランジェポイントに艦隊を展開している……あのあたりから我らの水中行動を観察するには、相当の波動光学技術を有していなければならないと思う……それは疑問だな……我々のレーザー砲を見てもそれとは理解できなかったと見える......彼らの知識の貧しさからすると、奴らは波動光学には疎いようだからな」
レオンはそういうと、水上艦隊に含まれていた潜水艦群を率いて本拠地要塞をあとにした。
ちょうどそのころ、ラグランジェポイント上に再集結した敵艦隊が、一斉射撃隊形をとったことが観測された。それと同時に、敵艦隊がロングレンジ攻撃を開始したことも観測されたのだった。
「マダム・レア・ブラック 報告します……ラグランジェポイントより多数のイオンビーム束の発射反応がありました……40分後に着弾する計算になります」
「地上の要員は直ちに地下へ退避! 我々も大深度地下拠点へ撤収を急げ!」
「はい!」
「レオン提督にも連絡をせよ……なお、光学測定は、着弾後はおそらく不可能になる……艦隊からの光学観測を強めて、その観測結果をこちらにも伝えてほしい、とも伝えておけ」
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シムーン33のビーム束は予想通り本拠地周辺に降り注いだ。地上は、半径500キロにわたって全てが一瞬にして焼尽してしまった。また、一帯の海水も全て蒸散し、海底が露出した。焼尽で燃え上がった煙と大量の水蒸気は、成層圏にまで達するほどだった。
その後、シムーン33からの砲撃は、第五惑星アクサルの地表をなめまわすようにして繰り返された。その間、惑星アクサルからの反撃は一切なく、不気味な沈黙が惑星全体を覆っていた。
「ほお、アクサルの地上から一切反撃がないのかね……彼らはもう、壊滅したのだろう……それなら、そろそろ地上へ上陸部隊を下ろしてもよいだろう」
旗艦ゼルノックでは、旗艦艦長のネルノルテがフウとため息をつきながら、次の作戦へ進もうとしていた。そこに大神官兼提督のチュライがやってきた。それは少々珍しいことだった。
「そんなに早く惑星からの反撃が無くなったのかね」
「ええ、初めから一切の反撃はないですね」
ネルノルテは、今回はチュライの前でも自信をもって報告した。しかし、またまたチュライはネルノルテの報告を疑問視した。
「初めから一切の反撃がない……それは、おかしいな……前回の戦闘では衛星軌道上でこちらも手痛い打撃をこうむったんだぞ……単に、彼らがこのラグランジェポイントまで届く攻撃手段が無いからだろう」
「では、まだ斉射を続けるべきなのでしょうか……既にアクサル第五惑星の地上は半分ほど焼き尽くしています」
「彼らは、何処かに潜んでいるに違いない……惑星表面をまだ半分残しているではないか」
「ええ、確かに……それは表面を海洋面が占める部分です……今までの戦闘の履歴を振り返ると、彼らの戦力は海洋の占める残りの表面部分にては一切なかったと思いますが……今頃、残りの表面部分を逃げ惑っているに違いありません」
「そうだな……残りの健在な部分はなるべくそのままにして、のちに活かすことにしておこうか……もうこれ以上惑星表面を焼き尽くすのは必要ないだろう……焼き尽くした側の惑星表面に地上部隊を上陸させろ」
チュライの同意の下、旗艦艦長ネルノルテは艦隊の上陸部隊に惑星降下命令を下した。
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潜水艦隊の提督レオン・ブラックは、地表と海洋が徐々に焼き尽くされ蒸散されるに従い、逃げ場を失いつつあった。それでも、まだ焼け残っている海洋の奥深く、地表全体に深く刻まれた海溝部分に沿って、逃げ回り続けていた。
この日、潜水艦の艦橋には、本拠地要塞近くにあった市町村の長たちが集められ、状況の説明が行われていた。
「敵の砲撃が止まった.......おそらくは、こちらからの反撃がもうないだろうと彼らが判断したのだろうと思われる……それでも、想定した以上に広範な砲撃だった......惑星表面の半分以上が焼き尽くされてしまった……ただ、表面全てを焼き尽くすとはいっても、惑星全体を破壊するほどではなく、惑星の内部を含めた規模からみれば、さっと表面を焼くだけのものだったな......都合のいいことに、我々の本拠地要塞とその動力炉群は健在であり、大地動力線も温存されている」
「これからどうなるのですか?」
「敵は、これから上陸部隊を惑星表面へ派遣するだろう…それが反撃のチャンスだ……ただし、全ての敵艦が衛星軌道上に集結し、上陸部隊が全て上陸するまで待つ.......敵を引き付けて、一斉に砲撃を加えるのが肝要だな」
レオン・ブラックは、戦闘配置図を眺めながら、そう説明して見せた。その集まりに、アフマドとハディージャが大声を掛けた。
「再び戦うのですか? せっかく海洋がまだ十分に広がりを有しているのですから、かれらが上陸する前に、本拠地要塞の人員をも潜水艦隊に収容して、逃げ回るべきではありませんか?」
「海洋の健在な部分が少なくなっているからこそ、移動しつつ反撃するのが必要なのだよ……逃げ回るにしても、惑星周辺と地上の敵を十分に削っておかないと、逃げ回ることはできないからね……それに、すでに我々は君らを含む収容されていた住民たちを収容しているんだ……もう余裕はない」
「しかし、それでは本拠地要塞はどうなるのですか? 大地動力線が発見されれば、本拠地要塞は必ず攻撃されて壊滅してしまいますよ」
「本拠地要塞は壊滅覚悟でみな残留している……」
「そ、そんな、みすみす犠牲にするのですか?」
「そうではないが……とにかく今は、我々が預かった住民たちを生き延びさせることが第一だ……それに、そんなに簡単に本拠地要塞は落城しないさ」
レオンは淡々と説明し終えてしまった。アフマドもハディージャもそれ以上言うべき言葉を見つけることが出来なかった。そうしているうちに、敵艦隊が大挙して衛星軌道上に出現した。
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「揚陸艦船群は、焼き払った陸地を中心に、陸上部隊を上陸させよ……打撃艦、爆撃艦は地上に中止せよ……動きを見つけ次第、その地点を集中的に爆撃し、反撃を許すな」
旗艦艦長ネルノルテの指示によって、多くの打撃艦群に守られていた揚陸艦船群が一斉に上陸行動を始めた。各揚陸艦は、大型であれば、多数のアームを拡大させルと、各アームが形成する力場に沿って、多数の上陸用舟艇が地上へと次々に射出され、それらが一気に地上へと降り注いだ。他方、小さな揚陸艦はそのまま陸上に向かい、多数のアームが拡開されて地上に接触させるようにして着陸した。着底した艦艇からは、大量の陸軍部隊を吐き出した。これらの小型揚陸艦は、四方の地上に向けて発砲できる砲塔をいくつも備えており、その後の橋頭保となる機能を有していた。
「地上からの攻撃は、一切見られません」
「地上の動きも全く観測されません」
「敵の大規模な地上施設だったと思われる跡を発見しました……ただし、全ては焼き尽くされた後のようです」
「上陸部隊全軍に連絡……上陸地点ばかりでなく、周囲にも注意を払え……われわれは敵が壊滅したとはまだ考えていないぞ」
「了解しました.......提督」
彼らが着陸した地上は、文字通りすべてが焼き尽くされ、広大な溶岩原で覆われていた。上陸部隊は上空衛星軌道上に多数展開した艦隊から様々な警報や情報を受けつつ、何の抵抗を受けることなく溶岩原の上を四方八方へと軍を進めていった。こうして、彼らは数週間をかけて広大な溶岩原を隅々まで調査し、いくつもの駐留橋頭保を築き上げていった。
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「ようし、もうすぐだ」
レオンは深海底に潜ませた潜水艦隊をゆっくり動かしながら、徐々に発射隊形へと編成しなおしつつあった。
この時、アフマドがレオンの許を訪ねてきた。また、アフマドの後には心配そうなハディージャとアフマドを止めようとするアイゼンとシャルレ、マズールをはじめとした収容されていた住民たちが群がっていた。それ等の表情から、アフマドと収容されていた住民たちが激論を交わしていたことがうかがわれた。
「レオン・ブラック提督、何をしようとしているのですか?」
「ああ、君か......」
「提督、やはり攻撃をしようとするのですか? 止めてください! これでは私たち全員は全滅してしまいます」
アフマドの訴えに、横からマズールが遮るように大声を出した。
「アフマド、お前、このまま逃げ続けろというんだろ! そんなことでは我々は勝てないぞ、生き残れないぞ」
「勝てない? 生き残れない? この戦闘に勝てなくても、逃げ続けていれば、生き残れるじゃないですか! そうすれば勝利じゃないですか!」
「いや、このままでは勝てるどころか、生き残れないぞ! この戦闘をやり過ごして生き残っても、敵艦隊の砲撃で我々の惑星は表面全体が焼き尽くされてしまうじゃないか! これで我々が生き残れるというのかよ!」
議論は平行線のままに、アフマドたちや収容されていた住民たちは、レオンの前に来たのだった。レオンはその議論を聞きながらも、戦いの準備を緩めなかった。
「アフマド、今は生き残るために少しでも敵艦隊を撃滅し削っておくことが大切なんだよ……」
「しかし……」
アフマドはそう口を開いた。しかし、それ以上はハディージャに止められて口を閉ざさざるをえなかった。その横で、潜水艦隊全艦は準備を進めていた。
「二番艦より報告! 艦隊全艦、共鳴構造薬室形成まであと二分!」
「提督、励起光源艦は光源位置へ、あと一分です……二番艦より、約室内へのガーネット結晶体の形成準備開始の報!」
「了解……共鳴構造薬室形成完了! 共鳴構造約室内に安定ガス供給中、あと五分で有機金属補給開始!」
「衛星軌道上に、敵艦隊の一部を確認!」
「ガーネット結晶体形成中! あと5%!」
「出射光路形成完了! 続いてガーネット共鳴構造薬室形成完了」
「全艦、発射隊形完了! これより発射まであと10秒、9,8,7,6,5、4」
「提督! 最終安全装置解除!」
「艦隊全艦、衝撃に備えよ! 発射!」
この時、海洋から衛星軌道上に向けて、高密度のコヒーレント光が放たれた。
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何の兆候もなかった。今まで惑星側の抵抗の動きが一切記録されていなかった海洋面から、突然のパルスビームが次々に衛星軌道上へと放たれた。それは、シムーン33が今まで経験したことのない、従来より50倍強のビームウエストと強大さを秘めたコヒーレント光だった。
「旗艦へ報告! こちら、シムーン33-第6支艦隊....90%壊滅……我が艦も融解…」
この報告とともに、惑星衛星軌道上の一角が一瞬にして光瀑に包まれて消散した。
「テルメイロル艦長、わが艦隊の打撃艦群第6支艦隊が第5惑星衛星軌道上で壊滅し、支艦隊旗艦も消息を絶ちました!」
「なんだと!?」
「突然に連絡を絶ったということで……詳細は調査中……」
そこに、別の報告が入った。
「テルメイロル艦長、第4支艦隊が攻撃を受けています……壊滅です!」
「艦長、第8支艦隊も攻撃を受けて.......第8支艦隊旗艦が連絡を絶ちました」
こののち、衛星軌道上では、いくつも光瀑とともに次々に支艦隊が消滅し続けた。旗艦ゼルノックでは、旗艦艦長のネルノルテが顔面を蒼白にしていた。だが、最後の方で別の報告もなされた。
「支艦隊壊滅の際、いずれも惑星海洋部分が強烈に光ったという報告がありました」
「な、なんだ? それは?」
ネルノルテは事態が呑み込めておらず、いくつもの支艦隊が一挙に壊滅したことに、ただただ慄いていた。そこに、提督兼大神官のチュライがやってきた。
「やはり、かれらの巨大兵器が待ち受けていたか......」
「提督! あれはいったい……」
「わからないかね? あれは巨大なビーム兵器だよ……おそらく以前の50倍の威力なのだろう……我らの支艦隊を一撃で仕留めるほどの威力だ....」
「しかし、惑星上の奴らはいったいどうやって……」
「今は推測しかできないが、今回の彼らの主砲もまた、いくつかに分かれていた部分が合体して巨大な薬室を形成し、そこから何らかの仕組みで巨大で高密度の光を得たうえで、一気に放つ光線兵器だと、私は見ている………そうだな、分からないかもしれないが、あれは我々も過去に失った古代の武器、共振構造薬室とガーネット魔石媒質を使った光線兵器だよ」
「しかし、提督、その兵器が以前とは比べ物にならない強度で砲撃してくることとなると……」
「そうだな、我々が戦力を拡大すると、それに応じて彼らも激烈な力を発揮するようだ……我々は、奴らを甘く見ていた......これは今の最大戦力を以って一気に攻勢に出て、決着を急がなければならない......ネルノルテ、惑星の海洋面から砲撃されたということであれば、とりあえず残存艦艇を惑星海洋面とは反対側に集結させろ。....さすれば、海洋からの砲撃をしのげる」
チュライはそう指示すると、その先の戦闘をどう進めるか、ネルノルテやほかの士官たちと議論を始めた。
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「衛星軌道上の敵艦隊は、この惑星の反対側へと退避していきます」
レオンは、予想していたこととはいえ敵艦隊を全滅できなかったことを悔やんだ。
「わかった、それでは、これより深海へと退避する。これからは、神出鬼没の特性を生かして、地上の掃討作戦を開始しよう」
潜水艦隊はこの時から海洋の中を絶えず移動し続けた。彼らは、浮上しては多数の艦載機によって陸上の敵部隊を攻撃し、水平線上に衛星軌道上の敵支艦隊を見つけては、遠距離砲撃によって殲滅しつづけた。こうして衛星軌道上の敵艦隊は次第に海洋面側上空の制空権を失い、陸上部隊もまた全滅していった。
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「えーい、奴らはどこに隠れている!」
ネルノルテは、観測艦をぎりぎりのエリア一杯に衛星軌道上に展開しつつ、いつまでたっても見つからない惑星側潜水艦隊にいら立っていた。
「い未だ発見できていません」
「たかが惑星表面の、しかも海面部分だけではないか!」
ネルノルテの声は、もはや苛立ちを越えてほとんどパニックになっていた。それに気おされて艦橋の観測員たちは口々に言い訳をつづけた。
「それが、我々艦隊が展開している側は海面の反対側であり、ここから彼らを探すのが困難です」
「観測艦が海面側にスキャナーを展開しても、海中深くに潜伏しているらしく、発見するのが困難です」
「それに、我々旗艦ゼルノックが位置するラグランジェポイントからの光学観測では、到底無理ですし.......」
これらの言い訳を次から次へと聞かされて、さすがのネルノルテも落ち着きを取り戻した。
「ああ、そうだったな」
「では、いかがいますか」
「それなら、我々旗艦ゼルノック旗下の旗艦艦隊が展開するラグランジェポイントから、絨毯爆撃をしかけてこの星を全滅させてしまえばいいではないか」
「艦長、それでいいのですか?」
「どうせ、彼らが残っている限り、我々はあの地上で無傷ではいられん.......かまわん、惑星表面のすべてを爆撃せよ……その間に、残存艦のすべてをこのラグランジェポイントに集結させよ……最後に笑うのは我々だ」
ネルノルテはそう言って、艦橋の要因たちの前で高笑いをした。そこに、提督兼大神官のチュライ・マーゼルがやってきた。
「待て、このラグランジェポイントでも危ういぞ……あの兵器はあまりに強力だ……あの一撃で支艦隊が壊滅するのだぞ」
「チュライ様、そうなのですか?」
「いいか、あの光はおそらくここまで力を及ぼす……となれば、ここにいつづけてはアウトレンジ攻撃を仕掛けることが出来ない……すると、残るは……」
「チュライ様、それでは、我々に残された道は、残存艦群が圧倒的火力を維持している今こそ、ラグランジェポイントに残っている我が旗艦艦隊と、衛星軌道上の残存艦隊とをどこかで再集結しましょう……そのうえで、あの惑星へ再進撃して飽和攻撃を加え、敵を圧倒することになります……ただし……」
「ただし……何かね? ネルノルテ?」
「しかし、それでは惑星表面ばかりか、惑星深部まで破壊し尽くすことになります……」
「もはや、惑星上の人類を支配することはあきらめるしかないのだよ……今となっては、あの惑星の戦力を無力化して支配し、人類が生き残っていればせめてそいつらを我らの生贄にし、至高ラーメックの名によって大神ルシファーに捧げようではないか」
チュライはそう言って、ネルノルテに艦隊全艦をして、対惑星砲撃をしつつ突撃させることを指示したのだった。
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「う! こ、これは!」
「ただ今、潜水艦隊提督レオン・ブラック様から送信された映像の解析が終わりました」
「レア司令官……どうやら、敵艦隊はこの惑星に向けて進撃の途上にあります」
「奴らは、友軍の大火力によって支艦隊単位で壊滅しつつも、進撃を止めません」
「どうやら、敵は決死の覚悟でこちらに突撃しているのでしょう」
惑星に向けて進撃してくる艦隊は、潜水艦隊の砲撃によって支艦隊単位で削られることをいとわず、旗艦を先頭にして一心に惑星へ向けて進撃し続けていた。それは、レオン・ブラック提督率いる潜水艦隊から転送された観測映像でも、認められた。
その直後、本拠地司令官レアのいる司令本部で、大きな衝撃が感じられた。敵艦隊の決死の猛攻撃が、不幸な偶然により本拠地に直撃した。その直撃による地下上層部の壊滅は、本拠地大深度地下に設けられた緊急司令部でも感じられた。レアはすぐにマイクを取った。
「被害状況報告!」
「レア要塞司令官、宇宙空間からの砲撃が、直撃しました……すでに上層部からは要員が避難済みですが、動力源回路が焼き付きました」
「そう……ここも長くはもたないかもしれませんね」
「ですから、今のうちに救難信号をレオン提督向けに発信しておくといいと思います」
「そうね……この基地を捨てなければならない時が近いわね……」
「司令官、そこで一度だけ救難信号を発信しましょう……ただし、発信し続けることはできません」
「そうね……」
「こののちは、此処に潜み続けることはできなくなります……早めに迎えに来てもらうことも一手かと......」
「そ、うね」
レアは涙声だった。
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「これはまずいな」
レオンは、艦橋のボードに表示された戦闘空間投影図を見ながら、つぶやいた。
敵艦隊が惑星近くまで進撃した時、宇宙空間からの艦砲射撃と、潜水艦隊が隊形を整えて放つ光線砲との撃ちあいは、激しさを増した。
たしかに惑星表面から大地動力線の膨大なエネルギーを利用した光線砲のエネルギーは、一撃ごとに進撃してくる支艦隊をまるごと消し飛ばした。しかし、艦隊からの艦砲射撃は、惑星表面を焼き、海水を徐々に蒸発させ、潜水艦隊の逃げ込む深海を徐々にむき出しにした。
「このままでは我々はじり貧だ……たしかに大地動力線を利用した砲撃は、奴らよりはるかに強大だ……しかし、われらは次第に追い詰められている……」
「提督、前方大陸棚の崖が迫っています」
「艦長、ここまでだな」
「はい」
「そうか......」
「提督、我々の艦隊が此処にも大地動力線があります……我々が此処でとどまることで、今までの規模の10倍での砲撃が可能になります……二番艦以下の我々は、ここで最後の攻撃に移ります……貴方は救難信号のもとへ行ってください……そこで、本拠地に残る我々の同胞と行動を共にしてください」
「しかし……」
「我々はこの星で戦い抜くのです......我々にはもう後がないのでしょう……今我々にあるのは祈りです」
提督の下に届いていた音声はそう語ると、交信を断った。
レオンブラックの一番艦は、潜水艦隊を離れてふたたび深く海溝へもぐった。その後一番艦、基地司令官であり、彼の最愛の恋人レアの待つ本拠地基地へ向かった。その後方では、大地動力線の近くに最後の陣を張った潜水艦隊が、大地動力線に接続したままの膨大な砲撃を連続して放ち始めた。それは進撃してくるシムーン33艦隊の十分の一づつを壊滅させ続けた。
他方、シムーン33は十分の1程度にまで艦隊を損耗させつつ、惑星に突撃し続けた。彼らはついに惑星表面上で砲撃に用いられている大地動力線を発見すると、そこを断った。すると、今まで連続砲撃をしていた惑星側の潜水艦隊は力を失い、その直後彼らは壊滅したのだった。
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「海洋面側からの攻撃が、沈黙したようです」
「そうか......やっと何とか壊滅できたようだな」
提督兼大神官のチュライは、今までの激烈な砲撃戦を何とか生き延びられたことで、安堵のため息をついた。艦長のネルノルテやほかの士官たちも同感だった。
確かに、これで、衛星軌道上のシムーン33は辛うじて勝利を得たと、考えた。実に味方艦隊の90%が損耗しており、薄氷を踏むかのようなかろうじての勝利だった。
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「友軍潜水艦隊の信号が消えました……全滅です……」
「そうか......」
「これからどうするのですか?」
「提督、逃げ回るよりほかに手はなかったのですか?」
「本拠地には、出撃時にはまだまだエネルギー炉が残っており、人員も残っていたじゃないですか?」
「そうです、本拠地基地周辺にとどまって、防御しつつ敵に攻撃を加え続けていれば……」
「本拠地基地のエネルギー炉をもっと効率的に使えば、敵艦隊に対してもっと打撃を与えられたはずです」
「今じゃ、本拠地基地も健在なのかどうか……」
レオンを囲む者たちは、口々に彼の戦術に疑問を呈し始めた。レオンは無言のまま、彼らを一瞥したのちに、自分の座席に身を任せ、目をつぶった。
アフマドは我慢できなくなって、彼らに反論し始めた。
「本拠地基地周辺で敵を迎え撃った方がよかったというのですか? それであったら、この潜水艦隊などすぐに見つかって、敵艦隊の斉射によって全滅していましたよ!」
「なんだと!?」
「逃げ回っていたからこそ、今まで生き延びられたのです」
「それでも、奴らを徹底的に食い破ることが出来たさ」
「全滅してでも、ですか? それが意味のあることだというのですか?」
「ああ、そうさ!」
収容されていた住民たちは全滅する危険も顧みずに、ただ敵意だけを燃え立たせていた。対するアフマドはそれが理解できなかった。
ここで、ハディージャがアフマドを止めに入った。また、レオンも自分の座席から立ち、口を開いた。
「収容されていた住民さんたち、あんたたちの言う戦い方では、全滅してもいいということらしいな……それじゃあ、我々は誰も生き残らない……生き残ることが最後の勝利につながると、私は考えているんだよ」
そこに、一報が入った。
「レオン提督! 本拠地地下残存部分より微弱な入港用信号を検出しました」
「な、なんだと」
「コールサインは「レア」とあります……そしてあとは......」
それ等の信号は、確かに文章になっていた。微弱ではあったが、確かに明確な意味をレオンに伝えていた。
「愛しい人、迎えに来て」




