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8 戦い続ける者たち

 祝賀会という名の大騒乱が始まっていた。体を傷つけてまで踊り狂う男女たちに、アフマドとハディージャは目を背けるしかなかった。


「勝利に感謝するなら、祈るだけで十分なのに……」

 ハディージャの言葉は騒音に消される。アフマドは、この地の人々が啓典の語る「本当の救い」から遠ざかっていることを痛感していた。彼らは陶酔の中で、迫りくる絶望を塗りつぶそうとしているのだ。


 二人は人混みを抜け、物陰で声を潜めた。

「……ハディージャ、彼らは敵の規模を分かっていない。私たちが軌道上で見た艦隊の規模を考えれば、今回の奇跡的な砲撃など、敵にとっては『学習の材料』に過ぎないんだ」

「ええ......彼らの砲撃能力は確かに素晴らしいけれど、敵が本気になれば、この程度の惨事では済まないわ……それなのに、彼らは感謝の祈りさえ捧げようとしないなんて……」

「ああ......このままでは、彼らは大切な『啓示』さえ見落とすだろう……啓典の父は自らの托身の身を木に掛けさせ血を流す姿、そしてその先の栄光の復活の姿を示して、彼らに神がどのような思いと力とを伴って傍らにいてくださるかを、祈りを通じて教えてくださる良い機会なのに……準備をしよう! 敵は必ず、今回とは比べものにならない規模で戻ってくる!」

「冷静に考えれば明白よ! 衛星軌道上の艦隊規模を考えれば、先ほどまで空を埋めていた爆撃機部隊など、ほんの先兵に過ぎないわ」

 ハディージャの鋭い指摘に、アフマドは重苦しく頷く。

「ああ......敵は今回の一撃で、こちらの防衛火力を学習したはずだ! 次にやってくるのは、前回とは比較にならない大規模な主戦力になるだろう」

 二人の視線の先には、勝利に酔いしれ、浮かれている住民たちの姿がある。彼らが反撃の凄まじさに慢心する一方で、二人は絶望的なまでの戦力差を理解していた。


 このとき、二人の脳裏にいにしえの預言が鮮烈に蘇った。

「『荒らす憎むべきもの』を見たなら、直ちに山へ逃れよ――」

 まさに今、目の前で起きていることがそれだった。アフマドは即座に決断する。

「ハディージャ、ここを離れよう! 近くの高い丘へ向かうんだ」

「ええ、そうね……でも、私たちだけではダメよ」

 アフマドは頷き、周囲で浮かれている住民たちを見渡した。勝利に酔いしれ、浮かれている人々の中で、わずかでも希望を捨てていない者を探すために。

「ああ。話を聞いてくれそうな人、一人でも多く連れて行こう。……一人だって見捨てたくないんだ」


「衛星軌道上の敵艦隊は、以前の数十倍の規模です。あれだけの規模が総攻撃をかけてきたら……」

 ハディージャの切迫した声に、住民の一人が鼻で笑った。

「ああ、あんたたちがさっきから騒いでいることだろ? だがな、俺たちには無敵の艦隊と惑星動力線砲がある! 敵が来れば来るほど、返り討ちにするだけだ」

「そうさ。奴らの艦隊など、俺たちの防衛網の前ではただの的に過ぎない」

 住民たちは勝利の興奮に沸き、アフマドたちの忠告を「弱者の妄想」と決めつけていた。彼らの顔には、慢心が張り付いている。アフマドは、敵の戦力を直視しようとしない彼らの姿に背筋が凍る思いだった。

「皆さんは、軌道上の敵の全容を知らないのですか? あれは先ほどの先兵とは比べものにならない規模ですよ!」

「あんたたち二人は知らないだろうが、俺たちの主砲は奴らの30倍の戦力だって一撃だ。敵が来れば来るほど、俺たちの戦果が増えるだけさ」

 勝利に酔いしれ、理屈が通じない住民たち。ハディージャはハッとした。彼らは戦っているのではない。圧倒的な兵器という「麻薬」に溺れ、破滅が迫っていることに気づいてさえいないのだ。それでもアフマドとハディージャはもう一度という気持ちを込めて、静かに語りかけた。


「戦って勝てると思うのですか? 確かに戦いは勝てるかもしれません……でも、その後はどうなるのでしょうか」

「その後も、戦うのですか」

 ハディージャは、涙目になりながら訴えた。二人の説得は、住民たちの頑なな壁に阻まれていた。

「勝つことばかりを考えて、その先に何があるのですか?  また、戦うのですか?」

 ハディージャの切実な訴えに、長老格の住民が冷徹に言い放つ。

「滅びるか、戦い抜くか、我々に残された道はそれだけだ! 我らは禁欲と修行によって、戦う力を手に入れた! この窮地を切り抜ける力こそが、我らの信仰の証なのだ」

「違うわ……戦いを繰り返す場所に、主はいらっしゃらない!」

 アフマドが食い下がっても、彼らの眼差しは虚ろなほどに揺るぎない。

「じゃあ、戦わずにどうしろというんだ!」

住民たちの怒りが頂点に達し、罵声が飛び交う。だがアフマドは、彼らの殺気に一切怯むことなく、静かに、しかし断固とした響きで言い放った。


「逃げるのです」

「……逃げるだと? そんなものは初めから負けだ!」

「ええ、負けてもいい。……いいえ、負けても生きるのです」

 ハディージャが目を伏せながら続ける。

「祈る命と、逃れる身体さえあれば、どこへでも行けます! 啓典の主は必ず、その先で新たな希望を示してくださるから!」

「たとえ神の定めたことわりに背いて逃げたとしても、生き延びて祈り続ける者には、必ず主が臨在してくださる……それが我々の信じる道です」


 住民たちの顔から色が消え、次々と侮蔑の言葉が投げつけられる。

「敗北主義者め……いい、消えろ!」

「ああ、二度と顔を見せるな」


「……行きましょう」

 ハディージャは、なおも説得を続けようとするアフマドの袖をそっと引き、制した。言葉はもう届かない。二人は静かに翻り、狂乱する群衆を後にした。

 ハディージャとアフマドの後に続いたのは、アイゼン、シャルレ、マズールを含むわずか三百人。残された大多数の住民たちは、勝利の祝杯と防衛網を信じ、迫りくる絶望の足音に気づくこともなく、再び狂ったような宴の中へ消えていった。

________________


ハディージャたちが離脱した直後、上空では死の帷が下ろされようとしていた。

 衛星軌道上の艦隊は、小康状態を装いながら、獲物を確実に仕留めるための重層的な包囲網を完成させていた。突如、平和を断罪する死の雨が降り注ぐ。広大なジャングルと沿岸は瞬く間に干上がり、一面の火の海へと変貌した。

 つづいて、雲を切り裂き、無数の着陸艇がその姿を現す。中から溢れ出たのは死の軍団だった。土を汚す怨躯、獲物を狩る人狼と吸血鬼、そして全てを塵に還す破壊部隊。逃げ惑う住民たちは瀕死の状態で蹂躙され、抵抗する術も持たぬまま、次々と捕獲されていく。

だが、焼け跡の奥からは、なおも狂気じみた抵抗が続いていた。生き残った住民たちが、手製の武器を抱えて魔族の軍勢に挑みかかっていた。それはあまりに無謀で、あまりに痛ましい蛮勇だった。しかし、その必死な叫びが敵の計算を狂わせることはない。むしろ、住民が激高して挑むたび、敵はより巨大な火力を投下し、彼らをまとめて焦土へと変えていった。

逃げ場を失い、抗うほどに自滅の罠へとはまり込んでいく住民たち。その凄惨な光景を、はるか山の上から見下ろすハディージャと避難民たちの間には、ただ重苦しい絶望だけが沈んでいた。

__________________________


「こちら第33-97-3中隊長ビユヌ、哨戒中。各機、状況報告を」

「バッコス機、異常なし」

「ペレ機、異常なし」

「イライザ機、異常なし」

「ガチャルバ機、報告! リーダー、水中より浮上する物体を多数確認!」

「ベラル機、同報告! あれは先ほどの水上艦隊です。……ただ、何かがおかしい。複数の艦が異常な速度で接舷合体し、巨大な空間を構築しています!」

「ビユヌ了解。全機、警戒せよ! 母艦、敵艦隊の構造に異常あり。巨大な薬室と砲身のような構造物が構成されつつある!」


 衛星軌道上の旗艦ゼルノックへ映像が転送される。艦橋のネルノルテ艦長は、モニターに映る異様な光景に眉をひそめた。

「なんだ……? まるで巨大な薬室と、砲身のような……」

「……馬鹿な!」

 チュライ・マーゼル提督がその映像を見た途端、血の気が引いた。薬室の中に設置されつつあるのは、超高純度のガーネット魔石。

「ネルノルテ! あれはただの巨砲塔ではない、巨大なレーザー発振用の共振構造キャビティだ! 全艦、即時退避! 射線軸から外れろ!」

 提督の絶叫に、ネルノルテ艦長は反射的に退避命令を叩きつけた。だが、もはや時すでに遅かった。


 地表から放たれた数十条のエネルギーパルスが、空間を薙ぎ払う。ビームウエストを自在に操り、死のダンスのように振り回される光の奔流。それはもはや砲撃ではなく、空を切り裂く「裁きの刃」だった。

衛星軌道上に展開していた帝国軍第33艦隊シムーンは、抗う間もなく光の中に飲み込まれた。硬い装甲も、強固なバリアも、この光の前では無力。わずか数秒のうちに艦隊の80%が、熱と光に変換されて消滅した。


「被害状況を報告しろ!」

「艦隊損耗率、80%! もはや全滅に近い!」

「全艦、即時撤退! 残存戦力で空域を離脱しろ!」

 ネルノルテ艦長の絶叫が艦橋に響く。対して提督兼大神官のチュライは、モニターに映る地表の閃光を呆然と見つめ、悪態を吐いた。

「古代兵器だと……? まさか、ガーネット魔石を媒質とした共振ビーム砲など、先史人類ごときが扱えるはずがない!」

 それはかつての彼らの祖先と家畜人類の祖先たちが持ち、そして失ったはずの「技術」だった。地上の人類たちが、自分たちの神性を脅かす力を持っているという事実。チュライはその背後に、自分たちが踏み込んではいけない禁忌タブーを感じ、激しい動揺を隠せなかった。

________________


 丘の上から望む戦場では、水上艦隊が敵を追い散らしていた。水上艦隊は、トラの子として残していた艦載機によって、魔族や怨躯たちから構成された上陸部隊へ激しい機銃掃射を浴びせ始めた。

 水上艦隊が掃討戦をしている間、アフマドたちの瞳に勝利の歓喜はなかった。むしろ、敵艦隊を追い払ったことで、本拠地に残された要塞が次の大規模攻撃の主標的になるという戦慄が、二人の仲に広がっていた。

 

「今が最後のチャンスかもしれません……あの艦隊に頼み込んで、私たちに伴ってくれたあなた方を、収容してもらいましょう……この地から早くのがれるのです」

アフマドの叫びに、住民たちは困惑した笑みを浮かべた。

「何を言う。ここは星の活動を統括する本拠地要塞が隠された聖域だ。水上艦隊が戦っているのは、我々の要塞が無事だという何よりの証明ではないか」

「そうだ、我々には力がある。この地の防御を信じて、忍び続ければ生き残れる」


「そんなもの、敵の餌食になるだけです!」

 ハディージャが声を荒らげる。

「あなた達は、敵の狙いが何であるかを理解していないんじゃないですか? 彼らはこの星の人類そのものを根絶やしにしようとしているんですよ!」

「戦わずして逃げるというのか。それは敗北を認めることだ!」

「違う、これは勝つための撤退なんですよ!」

 住民たちの敵意は、救いの手を差し伸べるアフマドたちへと向けられた。要塞という名の幻想にしがみつき、破滅へ向かって結束を強める彼らを前に、ハディージャは無力感に押しつぶされそうになっていた。


「まあ、待て!」

 怒号を上げたのは村長だった。住民たちの不満を鋭い視線で一喝し、彼は沈黙した場に言葉を紡ぐ。

「……彼女の指摘が正しいことは、誰もが分かっているはずだ! 陸上に残れば、我々は次の砲撃の的になるだけだぞ! だから今は、水上艦隊に頼み込もう......この地を棄てるのではない、生き延びて、我らの力を適所で生かすためだ」

 それは、誇りを捨てず、かつ生き延びるための賢明な決断だった。彼らは危険を冒して小舟を出し、水上艦隊の懐へと飛び込んだ。


「ええと、艦長さんかな」

 甲板で彼らを待ち受けていたのは、レオン・ブラック提督その人だった。

 村長は、艦隊側の数人の兵士たちが揃ったのを見計らって、収容された者たちを代表して前に出た。すると、上官らしい人間が応えた。

「全員、収容する」

 提督は迷いなく告げた。その瞳には、単なる慈悲だけでなく、戦術家特有の冷徹な合理性があった。

「現在、我々は大地動力線を地殻深くまで延長し、防衛陣を再構築している。人手が足りなくて困っていたところだ。……君たちに、作業従事者としての大役を任せたい」

 単に守られるだけの避難民ではなく、戦う艦隊の一員として。その提督の言葉が、一度は絶望に沈んだ住民たちの目に、再び輝きを灯した。大地動力線の接続という極めて重要な任務が、彼らの新たな戦いとなっていく。


「収容人員も多い。まずは本拠地要塞へ帰投し、補給を行う」

 レオンの号令とともに艦隊が動き出した。水上の艦船が海岸線に停泊する傍ら、潜水艦群は次々と千メートルもの深海へ没し、巨大な水中基地へと吸い込まれていく。

 そこは、灰と化した地上の惨状とは別世界の光景だった。地下深く、堅牢な岩盤の下に築かれた要塞には、行政から兵員宿舎、さらには造船設備までが完璧に配置されている。特に住民たちを戦慄させたのは、地底エネルギーを熱狂的に回転させる巨大な動力炉群だった。


「おどろいたかね?」

 レオンは、脈動する動力炉を見つめる住民たちに、静かに告げた。

「この動力炉から、海底網の隅々までエネルギーを循環させる。潜水艦は大地動力線に接続するだけで、無限の火力を引き出せる。我々は、この星そのものを巨大な砲塔に変えるのだ」

 地上の焦土とは対照的な、この地下深くの規律と力。アフマドとハディージャは、要塞の全貌に触れ、この地の守備隊が抱く鋼鉄の防衛意志を肌で感じていた。だが、彼らの目には依然として、この強大な要塞さえもいずれは飲み込まれる「絶望の未来」が映っていた。


「私たちは、あなた方、この星の住民であるあなた方に、戦いではなく祈りつつ逃れ続けることをお勧めに来たのです! 今が最後のチャンスかもしれません……この艦隊の規模であれば、本拠地要塞を引き払ってこの地から逃げ出すことが出来ます……この地から早く去るのです」

 アフマドは、地下基地に居並ぶ潜水艦群の規模を、提督のレオンに確認しながら、そう進言した。レオンは、戦いを前にして変なことをいう奴だ、というような表情をしながら、アフマドに振り向いた。アフマドの横にはハディージャも立ち、レオンを見つめていた。レオンは、思案顔のまま口を開いた。

「祈りつつ逃れ続けることを勧めるために、ここに来たのか? どこからあんた達は来たのか? 服装も、その纏う霧のような気配も、この星の人間じゃないね!」

 レオンの問いかけに、アフマドは言葉を返さない。ハディージャと共にレオンを見つめるその姿は、この地下要塞の巨大な動力炉の熱気の中でも、どこか隔絶された静寂を帯びていた。


「敵の再来襲は確実です! それも、この星を物理的に消滅させるほどの規模で……だからこそ、この要塞を捨てて逃げるのです」

「逃げて、祈れと?」

 背後から現れた要塞司令官レア・ブラックが、冷ややかに会話を遮った。彼女の視線は、アフマドたちに向けられた好奇心と、兵器を否定されたことへの苛立ちが混じり合っている。

「あんたたちは、何処から来たの? 戦う力も持たず、ただ祈ることでこの要塞を棄てさせようというの? 私たちにとって、この要塞はこの星の誇りであり、未来なのよ! 私たちの生きざまと信仰と挑戦する姿勢を、示し続ける必要があるのよ!」

「誇りも未来も、滅びてしまえば無に等しい......私たちが勧めるのは、血を流す戦いではなく、生きて祈り続けることです……傍らに主がいれば、そこに新たな希望が生まれるからです」

 二人の言葉は、この地下要塞の堅牢な壁にはあまりに無力に響いた。レオンとレアの顔には、彼らを「狂人」と見なす冷ややかな色が浮かび始めている。それでも二人は語り続けた。

「自分たちがどこから来たのか、それは私自身にも分かりません......ただ、これだけは確信しています......戦いを避けて、祈りつつ逃れ続けることが唯一の道であると」

 レオンは鼻で笑った。

「逃げ回れと言うのか? それでは何の解決にもならん......我々は今、軌道上の全敵勢力を一撃で消し飛ばす『超高出力コヒーレント光波砲』を構築している。敵の規模が百倍になろうと、一斉共鳴させて放てば全滅だ。……敵もそこまで叩かれれば、正面からの攻撃を諦め、隠密着陸に切り替えるだろうよ......その時こそ、こちらの対人防衛網で徹底的に狩る」

 彼の戦術理論は極めて精緻で、論理的だった。しかしハディージャには、その自信こそが、敵の果てなき悪意を過小評価している証拠のように思えた。提督はチェスを指しているつもりでいるが、相手はボードごと食い尽くす獣なのだ。

________________


「報告! 中央艦隊より補充艦船が到着。至高ラーメックの命により、シムーン33の再編が完了しました!」

 艦長ネルノルテは、玉座に座るチュライ・マーゼルへ急ぎ報告した。

「よし。ではすぐに艦隊運動の演習を始める」

「えっ……いえ、その、習得には日数が……」

「分かっている......しかし第五惑星への攻撃は、精密な艦体運動が前提だ......第五惑星と第六惑星のラグランジュ・ポイントに艦隊を置き、そこからロングレンジ砲撃を行う。狭いポイントで艦を入れ替えながら、何度も正確に撃ち込む必要がある」

「……高度すぎます」

「だからこそ、最初から現地で訓練する。今は第五惑星から遠く、敵の監視も薄い」

「了解しました」

 ネルノルテは艦橋に戻り、全艦へ通達した。

「シムーン33艦隊、全艦。第五惑星・第六惑星間ラグランジュ・ポイントへ集結せよ!」

 こうして艦隊は、第五惑星の宙域から姿を消した。

________________


「レア司令、レオン提督。報告します。衛星軌道上に展開していた敵艦隊が、全艦消失しました」

「……消失? 撤退したのか?」

 レア・ブラックは眉をひそめた。


 レオン・ブラックは報告を受け取ると、即座に状況を解析する。

「撤退ではない。再編だ。軌道を離れたということは、広域宙域で艦隊運動の訓練を行う意図がある。つまり――彼らは“整った戦力”として戻ってくる」

「……ならば、こちらも迎撃態勢を急がねばなりません」

 レアは静かに結論を下した。


 その後、本拠地要塞と周辺海域では、敵の再来を想定した設置工事が急速に進められた。そして工事完了から数日後――敵艦隊は、予測通りのタイミングで再来した。

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