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8 戦い続ける者たち

「禁欲と修行を続けて来たから救われた、というのだろうか?」

 アフマドは、住民たちのおののきとその直後の根拠のない勝ち歌に戸惑った。ハディージャもまた、住民たちがあまりに自分勝手に物事を解釈するのに驚いていた。

「そんな傲慢な……」


 住民達は、喜びのあまり、順序だっていたはずの祝賀会をさえ、単なる大騒ぎの会にしてしまった。それはアフマドとハディージャにとって赤面して顔を背けるほどに、あってはならない多数の男女達の乱痴気騒ぎであり、陶酔のあまりに体を傷つけて踊り狂うものにもなっていた。その光景を前にしてアフマドは赤面し、ハディージャは目を背けながら戸惑いの声を上げた。

「勝利に感謝するなら、祈るだけで十分なのに、彼らは何を始めたのかしら?」

「こ、この星の人間たちは、啓典を蔑ろにしている……いや、忘れ去ったのだろうか? それにしても酷すぎる」

 アフマドは、住民たちのふるまいを改めて振り返り、肩を落とした。彼の表情に疲れを見たハディージャも、先ほどの指摘を繰り返した。

「これは、冒涜よ……これはまずいことだわ……本来なら、いまこそ別のことに思いを馳せて祈り、感謝すべきなのに……啓典の父は自らの托身の身を木に掛けさせ血を流す姿、そしてその先の栄光の復活の姿を示して、彼らに神がどのような思いと力とを伴って傍らにいてくださるかを、祈りを通じて教えてくださる良い機会なのに……」

「そうだな……彼らのあんな騒ぎで、神に感謝することにはならない……祈って神が共にいてくださる際の姿とともに、悟りの智恵をも与えてくださるいい機会なのに……彼等はこのままでは、大切なことを見落すことになる」

 アフマドは、啓典の主を聞いたことがあるという住民たちが、大切な祈りをなぜかえりみようとしないのか、不思議だった。しかも、それは彼らにとって大切な現状とその未来について、彼らが気付ける機会を逃すことに繋がるのだった。

「確かにそうなりそうね……彼らにしてみても、冷静に考えてみれば、大気圏外の衛星軌道上から攻撃してきたのであれば、衛星軌道上の他の部分に彼らの友軍が支援体制を整えて待機していると考えるべきよね……現に、今まで私たち2人だけが見てきた衛星軌道上には、膨大な敵艦隊の規模があったわ……この地域の上空に派遣されていたのは、この星の衛星軌道上の大艦隊から見れば、ほんの少しだけの規模のはずよね……それてもあれほどの艦載機、艦上爆撃機、宇宙艦からの爆撃を行えたのよ……彼等の能力を冷静に見積もると、彼等が本格的にここを襲い来たら、こんな程度の惨事では済まないことは明白なのに……」

「そうだな…敵を一度に消した砲撃技術と全員の若々しい行動力からみると、たしかにこの地の人々は永遠の生命と高度な技術を有しているようだが……此処にはおそらくもう一度敵がくる……しかも、敵はここにあった防御側の火力を知ったはずだから、今後は遥かに規模の大きい戦力で迫ってくるに違いないよ!」


 このとき二人は預言の言葉を思い出した。

「荒らす憎むべきもの......を見たなら、人々は直ちに山へのがれよ」

 二人は、急ぎその地を離れ、離れたところにある高い丘へ逃げ出すことを決めたのだった。ただ、二人だけで脱出することは考えられなかった。

「僕たちの話を聞いてくれそうな、素直な人たちは、連れて行こう」

「そうね」


「ここは危ない」

「衛星軌道上には大艦隊が展開している......彼らはもうすぐここに群がるように来る……此処から早く逃げないと……」

 二人はそう言って、冷静そうに見えた住民たちに声をかけた。しかし、ほとんどが二人の勧めを嘲笑して受け付けなかった。

「俺たちには、水上艦隊が控えている」

「海辺に棲む限り、俺たちの水上艦隊が力を発揮する」

「我らの同胞が艦隊を動かし、艦載機を飛ばすんだ」

「それに、無敵の大地動力主砲も備えているんだ」

 冷静そうに見えた現地の住民たちは口々にそう言った。アフマドは彼らの勢いに押されながらも、静かに指摘した。

「皆さんは、衛星軌道上に敵の大艦隊が待ち構えていることを御存じですか?」

「あんたたち二人がそう言っているんだろ?」

 彼等もまたアフマドの指摘を聞き入れるような雰囲気ではなかった。それでもハディージャは、アフマドの指摘に重ねて言い続けた。

「あなた達は見ていないから実感がわかないでしょうけど、衛星軌道上の敵艦隊は、以前にここに来た敵勢力の数十倍の規模です」

「ハディージャの言うとおりだ.......その艦隊が大挙して此処へ来襲したらどうなるかわかるだろ?」

「そうさ、分かるさ……あんたら二人は知らないだろうが、我々の水上艦隊が有する主砲は、この前来た奴らの30倍でも一撃さ」

「そうさ、敵が来ても俺たちは負けないさ!」

 彼等は聞く耳を持たなかった。それでもアフマドとハディージャはもう一度という気持ちを込めて、静かに語りかけた。

「戦って勝てると思うのですか? 確かに戦いは勝てるかもしれません……でも、その後はどうなるのでしょうか」

「その後も、戦うのですか」

 ハディージャは、涙目になりながら訴えた。冷静さを保っていた住民たちは、よそ者二人の懸命の説得に戸惑い、彼等は静かな声ながらも主張を繰り返した.

「俺たちは、負けたらまもう滅びるしかないんだ……だから、最後まで俺たちは戦って、戦って、戦い抜くしかない」

「俺たちは禁欲と修行、そして啓典によって、永遠の命を持つ力強い人類となったんだ……だから、この窮地でも戦って戦い抜く力は有している」

「そうだ、俺たちは勝利を得るのさ」

 住民たちは淡々とした口調ではあっても、その主張を曲げなかった。アフマドとハディージャは最後だと思ってもう一度語った。

「戦いを繰り返すところに、啓典の主は伴ってくださらない……」

「啓典の主は、祈る者の傍らにだけいらっしゃるのです」

「じゃあ、どうしろというんだよ」

 静かに語り合っていた住民たちは、ついに怒りを込めた声で答えた。だが、アフマドは彼らの反発する言葉を返した。

「逃れるんです」

「逃れるだと? そんなことでは初めから負けではないか!」

「そうです……負けでもいいのです」

「なんだと!」

「負けてもいいから、逃れるのです.......そして祈り続けるのです……のがれる身体からだと祈る命があればどこへでも……逃げられる場所へ、何処へでも……」

 ハディージャは目を伏せながら、静かに主張し続けた。それを補完するように、アフマドが続けた。

「たとえ負けたとしても、たとえ啓典の主の定めたことわりさえ破って逃げても、祈り続けて、生き延び続けるのです……その者に啓典の主は必ず傍らに静かにいてくださり、新たな希望を示してくださいます」

 住民たちは次第に怒りを再び増した。

「お前たちは敗北主義者だな、もういい!」

「俺たちとお前たちは考えが違うらしいな」

「そう……」

 ハディージャはそういうと、なおも言い続けようとするアフマドを制した。二人は、大多数の住民たちをジャングルの奥地に残すと、その場所を去っていった。アフマドとハディージャに続いて去っていったのは、アイゼンとシャルレ、マズールをはじめとしたわずか300人程度の住民たちだけだった。

________________


「こちら、第33-97-3上陸機中隊長、ビユヌ! これより上陸ポイントへと下降、敵前面に上陸します」

「バッコス機、出撃!」

「ペレ機、出撃」

「イライザ機、出撃」

「ガチャルバ機、出撃中!」

「ベラル機、同じく続きます」

 その後、このジャングル奥地の低地一帯には、無数の群れとなった上陸用舟艇が降り立ち、そこから大量の怪物たちからなる上陸群が下りてきた。今まで敵の攻撃がなかったのは、小康状態というより上空の敵が地上勢力の油断を誘うものだった。と、同時にハディージャ達が危惧したように敵艦隊がこの地表めがけて重層的な攻撃を行うための配置への移動時間にすぎなかった。

 ハディージャ達が離脱した後、広大なジャングルを要する低地と沿岸一帯の海は、やがて敵の衛星軌道上からの砲撃の的となった。そして、その砲撃の後に、地表にはあらゆる魔族たちからなる部隊が降下して来た。いわば魔族がアンデッドと化した怨躯たちの上陸占領部隊、吸血鬼と人狼たちの人間捕獲部隊、雑多な魔族から構成される破壊部隊だった。


 砲撃の後は、海は干上がりジャングル全体が火の海となった。生き残った住民たちは、瀕死か逃げ惑うだけであり、瀕死の住民たちはそのまま、次々に魔族たちに捕らえられていった。抵抗する者たちは皆無に見えた。

 ジャングルから逃げ出し、はるか離れた山の上からその様子を観察したハディージャたちや同行者たちは、その光景に絶望するしかなかった。彼らが見下ろすジャングル周辺には、逃げ隠れて生き残っていた住民たちが、何やら武器のようなものを携帯して反撃を開始した。彼らの反撃は、魔族たちの圧倒的な戦力の前にしては無謀すぎる蛮勇というべき狂気の抵抗だった。その狂気はさらに狂気を呼び、怨躯からの攻撃を受けるごとに激高し、まるで自殺するかのような勢いで、挑みかかって行った。すると、そんなその反撃の大きさが、今度は「人類たちが思ったより手ごわい」と感じた怨躯たちが、今までよりも巨大な火力による攻撃を加えるに至った。そして、その大規模な攻勢が住民たちの自滅的な攻撃を誘い、住民たちはまるで罠にかかった虫たちのように、簡単にまとめて撃滅されていくのだった。ジャングルの焼け跡とその周辺でそのような抵抗が繰り返され、次第に住民たちの反撃は壊滅していった。

 それで終わりのように感じられた。


「こちら、第33-97-3上陸機中隊長、ビユヌ……周囲を飛行して哨戒中……各機報告せよ」

「バッコス機、異状ありません!」

「ペレ機、異状見られません」

「イライザ機、異状なし」

「ガチャルバ機より! あ、あれは! リーダーに報告! 水中より浮上する物体多数」

「ベラル機より、同報告を確認! 彼らは先ほどの水上艦隊と同じと思われます……ただ、おかしな形で合体して、何やら空間を構築しつつあります!」

「こちら、中隊長ビユヌ、確認した……こちら、第33-97-3上陸機中隊、ビユヌリーダーより母艦へ報告! 敵水上艦隊が浮上してきます....おかしな合体をして、何やら巨大な薬室とその先に銃身とを構成しつつあります」

「こちら、第33-9号母艦、報告了解! 旗艦ゼルノックへ映像転送....旗艦のネルノルテ・テルメイロル艦長へ報告、敵の水上艦隊が再び姿を現しました……何やらおかしな合体を成し遂げています」

「こちら旗艦ゼルノック、了解した」


 報告を受けた旗艦ゼルノックでは、映像を見て艦長のネルノルテ・テルメイロルが首をかしげていた。

「なんだ、あれは、まるで巨大な薬室と巨大な砲身のような......」

「ネルノルテ! あれは巨大な砲塔だ、合体して構成されつつあるあの薬室のような構造は......中に巨大なガーネット魔石を設置しつつあるではないか? いかん、あれは巨大なレーザー発振用の共振構造(キャビティ)だ! 全艦隊退避行動をとれ!」

 チュライ・マーゼル提督は映像を見た途端、そのように大声を出した。艦長のネルノルテは反射的に艦隊全艦に退避行動指令を出した。しかし....


 地上から、巨大なエネルギービームパルスが数十回出射された。しかも、ビームウエストを可変にしたうえでビームを振り回すように打ち出したために、衛星軌道上の帝国軍第33艦隊シムーンは、瞬く間に80%が蒸発した。

「被害報告!」

「艦隊全艦損耗率80%!」

「惑星上に派遣した全艦載機を引き上げさせろ。全艦隊衛星軌道から離脱せよ!」

 艦長のネルノルテは顔面蒼白でそう大声を上げた。その報告を聞きながら、提督兼大神官のチュライは独り言若しくは悪態をつくように、苦しそうな声を出した。

「先史人類め、こんな武器を用意していたのか……あれは......われわれのこの艦隊では、古代武器の研究をしている神官の私ぐらいしか知らんだろうが……我々も過去に失った古代の武器、共振構造とガーネット魔石媒質を使ったビームに違いない……地上の奴らめ、こんな武器を隠していたのか!」

________________


 丘の上から状況を観察してきたハディージャの二人とそれに同行した人間達は、巨大な反撃をおこなった水上艦隊の武器の威力に圧倒された。水上艦隊は、衛星軌道上の敵艦隊の大部分を壊滅させて四散させると、トラの子として残していた艦載機によって、魔族や怨躯たちから構成された上陸部隊へ激しい機銃掃射を浴びせ始めた。

 

「今が最後のチャンスかもしれません……あの艦隊に頼み込んで、私たちに伴ってくれたあなた方を、収容してもらいましょう……この地から早くのがれるのです」

 アフマドは、丘の上に避難していた住民たちに水上艦隊を指さし、この地から遠くへ逃げることを提案した。ハディージャもまた彼の試みを助けることを考えた。

「ねえ、みなさんも、そう思いませんか?」

「せっかくのお勧めだが……俺たちは、この地で生まれ、この地に育った……それに、ここはこの星の中心だ......じつはこの星の様々な活動や秩序を統括する本拠地要塞が、ここに隠されている……だからこそ、ジャングルで戦った者たちは抵抗し、俺たちはなんとかその本拠地要塞にたどり着いて守りを固めるために、恥を忍んでここまで逃げて来たんだ」

「それに、あの水上艦隊が健在であるということは、私たちの本拠地要塞が無傷でこの戦いを乗り越えたということです」

「それだけ私たちにも力があるのです……だからこそ、静かに忍んでいたのです……そうすれば私たちにも生き延びるチャンスがあるのです」

 住民たちは、あくまでこの大地に残ることをアフマドたちに言い続けた。アフマドはそれでも彼らを逃げるように説得を続けた。

「その意味することを、本当に分かっているのですか? たとえこの本拠地要塞が無傷で残り、それを当てにしてここにとどまって抵抗するとしても、彼らは必ずこの星の人類を獲物として狙っているのです……だからこそ、逃げて、逃げて、逃げることが大切なのです」

「戦わずして、なのか? それでは勝てないではないか?」

「奴らには絶対対抗してやるんだ.......そうあるべきだろうが!」

 住民たちは敵意を燃え上がらせており、かたくなだった。ハディージャはなおも陸上から退避するよう説得を続けた。

「私が言いたいのは、本拠地要塞を含めてこの陸上にとどまることが危ない、と言っているのです……だから、少なくとも水上艦隊に収容してもらえれば、次の攻撃の際、逃れ続けることが出来るから……」

「逃れ続ける、だと!」

「まあ、まて」

 住民たちから、反対の声そして村長らしい人の窘める声が聞こえた。村長はさらに続けた。

「陸上にとどまることが危ないという彼女の指摘はもっともだ……あの水上艦隊は神出鬼没じゃ……さすれば、水上艦隊に我々を収容してもらい、必要に応じて我々を戦力として使ってもらえるよう、水上艦隊に頼み込んでみようじゃないか」

 彼らはこうして、危険を冒して小さな船で水上艦隊に合流した。


「ええと、艦長さんかな」

 村長は、艦隊側の数人の兵士たちが揃ったのを見計らって、収容された者たちを代表して前に出た。すると、上官らしい人間が応えた。

「全員を受け入れるよ」

 彼は、水上艦隊の提督レオン・ブラックだった。

「我々は、ちょうど今、次の作戦行動のための準備工事をしているところだ....水上に工作船を多数展開しなければならない段階だから、工作従事者の人員を必要としていたのだ」

 水上艦隊は、既に陸上の地下深くに設けられていた防御陣地のエネルギー炉から延長される大地動力線の数本を新たに設置強化する作業作戦中だった。それもあって、水上艦隊のレオン・ブラック提督は快く収容してくれたのだった。


「収容人員のこともあるから、まずはいったん我々の本拠地要塞にある港に帰投して補給をしよう」

 レオンはそういうと、水上艦隊の帰投を命じた。

 水上艦隊は、水面上に露出し続けている水上艦船と、多数の潜水艦とから構成されているようだった。水上艦船は、破壊され尽くした海岸線の沖合に停泊したものの、潜水艦群は千メートルの海底深く設けられた水中基地へと、入り込んでいった。

 本拠地要塞の地上部分は、破壊され尽くしていた。しかし、敵の来襲を予想して設計された本拠地要塞は、地下の千メーターより深い地底に、行政本部、作戦司令部、兵員宿舎、造船設備、などが設けられていた。中でも住民たちを驚かせたのは、様々な地底エネルギーを基にした巨大動力炉群だった。

「おどろいたかね?」

 レオンは港からも見えた巨大動力炉群を案内しながら、動力炉とそれらを用いた作戦を艦隊の兵士たち、士官たち、そして設置工作に従事する住民たちに説明し始めた。

「設置工作は、この動力炉から補給されるエネルギーを、移動可能な砲塔に供給する大地動力線を、広範な海底に網目のように設けることだ……我々の潜水艦が神出鬼没に水中を駆け回り、潜水艦に設けた主砲が大地動力線からの巨大エネルギーを増幅して大空へ放つんだ」

 レオンの説明を待つまでもなく、士官・兵士や住民たちが見たのは、水上艦隊の本拠地要塞である地下防御陣地が、この星の最後のよりどころとなる本拠地要塞であることだった。これらの説明や見学は、アフマドやハディージャにとって、特にこの星の兵員や住民たちの防衛の意志が強いことを再確認することになった。それでもアフマドとハディージャは、レオンに逃げることを進言したのだった。


「今が最後のチャンスかもしれません……この艦隊の規模であれば、本拠地要塞を引き払ってこの地から逃げ出すことが出来ます……この地から早く去るのです」

 アフマドは、地下基地に居並ぶ潜水艦群の規模を、提督のレオンに確認しながら、そう進言した。レオンは、戦いを前にして変なことをいう奴だ、というような表情をしながら、アフマドに振り向いた。アフマドの横にはハディージャも立ち、レオンを見つめていた。レオンは、思案顔のまま口を開いた。

「あんた達は誰なのかね……住民たちとは服装からして雰囲気が違うし、霧か何かのようなものを纏っているように見えるが……ところで、その指摘はこの地に再び来る敵の規模が膨大であることを確信しているようだね……以前、敵を蹴散らした、わが水上艦隊の主砲の威力を、確かに彼らはよくわかっている......つまり、我々も予測していることだが……敵が再来襲の際は、さらに規模と戦力を拡大したもので襲い来るのだろう」

「それなら、対抗できないじゃないですか.......だから、この地から早く去るのです」

「しかし、敵がそれだけの規模だとすると、この星自身が崩壊するほどの攻撃を受けると言っていい……つまり、何処にも逃げられないということだ」

「いいえ、ここから去ればいいのです……そして、祈りつつ彷徨うのです……そうすれば、傍らに啓典の主が共に居て希望を与えてくださいます」


「ここから去る? どこへ? それは、今言うべきことではありませんね……祈りつつ? それで希望が与えられる、と?」

 その声は、レオンを慰労のために訪ねて来た本拠地要塞司令官のレア・ブラックだった。

「あんたたちは、どうやら住民たちとは違うらしいわね……あんたたちはどこから来たのかしら?」

「私たちは、あなた方、この星の住民であるあなた方に、戦いではなく祈りつつ逃れ続けることをことをお勧めに来たのです」

「祈りつつ逃れ続けることを勧めるために、ここに来たのか? どこからあんた達は来たのか?」

「私たちは、アフマドとハディージャです」

「それは答えになっていない」

「私たちは、自分自身がどこから来たのか、分かってはいません……ただ、あなたたちに戦いを避けて祈り続け逃れ続けることをお勧めに来たのです」

「逃れ続けるということは、逃げ回ることではないか! 逃げ回ることで、再来襲する彼らの武力から逃れられるのかね? いや逃れられまい......それゆえ、我々はさらに効果的な兵器を用意しているのだよ……複数の離れた地点で共鳴させながら一斉に放つコヒーレント光波砲だ……これによって、敵勢力が、最近来た際の敵勢力の百倍の規模で衛星軌道上に群がっていても、一気に粉砕できる.......そうなれば、彼らも大規模な攻撃を考え直すであろう……そもそも彼らは新人類ともいえる魔族であって、先史人類である我々を餌食にするために来襲したのだから……つまりは、この一戦の後は、我々の砲撃に対抗するのではなく、隠密行動によって我々に知られないようにして上陸して獲物を捕らえにくるはずだからだ」

 ハディージャは、提督のレオンが多面的に考察しているにしても多少楽観的である、と感じた。

「提督はそう予想しているのですね」

「いや、確実な想定ではない……もし、彼らがさらに規模を大きくして再来襲するならば、この惑星は、惑星ごと破壊されるに違いないよ……そうなれば、逃げ回ることなど意味がないではないか? また、もし、彼らが闇にまぎれて人類捕獲のために上陸してくるのであれば、我々は逃げずに撃退することを選ぶね……結局、我々に残された道は、この星で戦いぬくことだけなのだよ」

 ハディージャは提督の説明を聞くと、目を伏せた。そして、横にいるアフマドを促し、提督と本拠地要塞司令官の前を去ったのだった。

 その後ろ姿を見つめながら、レオン・ブラック提督はレアに話しかけた。

「我々は、戦わなければならない……そうして、空に群がるやつらに絶対対抗してやるんだ」

________________


「中央艦隊より、至高ラーメックの命によりほぼ壊滅状態のシムーン33に対し、補充艦船が届きました」

 シムーン33艦隊旗艦ゼルノックの艦長ネルノルテ・テルメイロルが、旗艦玉座に座る提督兼大神官チュライ・マーゼルの前に身をかがめ、そう報告した。

「おお、ようやく到着したか……直ちに艦隊運動の演習をはじめよ!」

「は、はい! しかし、そのような艦体運動の習得にはそれなりの日数を必要とします」

 ネルノルテは、大神官の手前ではあっても艦隊司令の専門家らしく、必要なことは言わなければならなかった。大神官のチュライも、そのことは心得ていた。

「それはそうじゃな......これから行われる攻撃は、精密な艦体運動が前提になる……攻撃対象である第5惑星と第6惑星とのラグランジェポイントに艦隊を配置し、第5惑星に対してロングレンジ攻撃を掛けることになる......その際、狭いポイント上で何度も対惑星砲撃を繰り返し精密に行うよう、艦隊をかわるがわる出射位置に着かせるように動かさなければならない」

「それは......非常に高度な艦体運動になります…精密で繊細でしかも大規模なものに……」

 ネルノルテは躊躇いながら指摘した。チュライはネルノルテに対してうな好き、同意した。

「そうだな……それゆえ、艦隊運動の演習は、初めから当該ラグランジェポイントを用いるのがよいであろうよ……ちょうどよいことに、今はそれが第5惑星から遠い位置にある......」

「はい」

「全艦隊をそこで訓練すればよいであろう……あとは任せるぞ」

「は、了解いたしました」

 ネルノルテは玉座の前を辞し、艦隊司令をする艦橋へと戻った。

「艦隊全艦、支艦隊を含む艦隊全艦に指示を出せ……当該星系の第5惑星、第6惑星間のラグランジェポイントに集結せよ」

 こうして、チュライ・マーゼル提督率いるシムーン33艦隊は、第5惑星周辺から姿を消したのだった。

________________


「レア司令、レオン提督、報告します…衛星軌道上の艦隊が全て消えたということです」

「なに!?」

 本拠地要塞司令官レア・ブラックはそれを聞いて、顔色を青くした。レオン・ブラックはその表情を見つめ、確認するように言葉を継いだ。

「彼らは、戦力を補充するのだろう……だが、この衛星軌道を去ったということは、ほかの空間、広大な空間で艦隊運動の演習をするということを意味するのだろう……つまり、彼らは十分な体制を整えて再びやって来る......」

「十分な体制を整えて、か……これは設置工作を急がなければなりませんね」

 本拠地要塞司令官レアは、そう言ってレオンを見た。レオンもまたそれはよくわかっていた。その後、第5惑星の本拠地要塞とその広い周辺海域での設置工作は、急ピッチで進められた。それは、打ち払ったとはいえ、ふたたび来襲するであろう敵を想定してのことだった。そして、敵の来襲は、工事の終わった数日後のことだった。

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