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「じゃあ、脱出だ」

 アフマドはそういうと、守衛室の制御ボードを一気に破壊した。ハディージャがそれをとどめようとした。

「あ、ちょっと、待って!」

 ハディージャの言葉は一瞬間に合わず、辺りは真っ暗になってしまった。

「あれえ?」

「あっ!」

 ハディージャはアフマドを止めようとした勢いのまま、アフマドに倒れこんだ。アフマドはハディージャを受け止めながら、早とちりしたことをあやまった。


「あれ? 問題があったかな?」

「もう! 何で照明を全部切ってしまったのよ!」

「だって、脱出しなくちゃ!」

 しばらくの間この巨大で暗い空間の中で二人だけで過ごすことになってしまい、その気まずさが二人を暗闇の静けさに沈めた。ハディージャは気が動転し、アフマドも彼女の少しばかりの焦りを感じ取り、彼もまた気が動転し始めた。


「第二波の時限発火には、まだしばらく時間があるのに......」

「そうだね、第二波の発火までまだ時間が残っている......」

「あ、あの、何かしないと......」

「暗い中で、何かする……のか?」

 アフマドは、彼女の心の内を理解することなく、無神経な言葉を吐いてしまった。当然ながら、ハディージャの返事はつんけんしたものになった。この時のアフマドは良からぬことを想像したわけではないのだが、恐る恐る語ったものだから、ハディージャは彼の問いかけにどぎまぎしたのだ。

「なんにもしないわよ!」

 ただし、普段から大人しいアフマドは、普段は優しいはずの彼女にたしなめられた上にツンケンされたために、すっかりしょげかえった。


「ねえ、どうするの?」

 このハディージャの問いかけも、アフマドにとっては謎だった。ハディージャは苛ついてさらに畳みかけた。

「ねえ、第二波の発火まで、まだ時間が残っているの! よ! ね!」

「は、はい! 助け出す対象が大きいと想定していたから……幽閉された空間がこれほど巨大なものだったから......時間がかかると思ったから……」

「そうね、それなら、確実に脱出できるように、もう少し工作しましょう! そうでしょう!」

「え、どうするの?」

「ここに来るまでに、多くの人間たちが寝かされていたわよね……」

「そ、そうか! 彼らを逃がすと、さらに騒ぎが大きくなるよね……そのどさくさにまぎれて、僕たちも脱出するということか!」

 こうして、二人は暗がりの中、寝かされていた人間たちを次々に解き放って脱出させ、彼らもそのまま神殿の地下牢を脱出した。小さな虫は意識のないままアフマドに抱きかかえられ、ハディージャは杖の指し示す方向へ彼らを導いた。

__________________


 地上では、いたるところで火災が発生していた。だが、魔力の切れた怪物たちはいたるところで倒れており、誰も地下都市を火災から守ろうとする者はいなかった。後ろを振り返ると、アフマドとハディージャの後を追って、地下牢を脱出してきた人間たちが全員ちょうど地上に出てきたところだった。


 多くの人間たちは、生命エネルギーを大きく奪われていたため、なにも理解できない状態のままやっとのことで神殿の外に出たところだった。このとき、人間たちの中で比較的元気な男が話しかけてきた。

「なぜ俺たちを解放した?」

「え!?」

「俺たちはせっかくカミーユの兄弟の皆さまに、この身を捧げられたのに!」

「え あの怪物たちに?」

「お前達も、お前達の両親ニールとカーラの態度とそっくりだな! ニールとカーラもお前たちも、なぜ素直にカミーユブーバル様に身を素直に捧げなかったのか?」

「え?」

「そんなことだから、お前達の両親は今ごろ裁判の上、罰を課されたうえでカミーユブーバル様の処断を受けることになっているのさ」

 彼は、数日前に此処に連れて来られたばかりの村の人間だった。

「俺は、村の中で特に選ばれて、ここに連れて来られたのさ……一生懸命にカミーユブーバル様の事業を手伝ったのさ……牛鬼たちの観察と報告、そして監視と規制、カミーユブーバル様の力を用いて、手伝ったのさ……」

「あなたは、カミーユブーバル様の守護する私たちの村の......?」

 ハディージャは、ようやく男の顔つきが誰かに似ていることに気づいた。それを感じたのか、相手の男がハディージャ達の同級生の名前を口にした。彼は、スティアーの父ディスポロだった。

「そうだ……俺はカミーユブーバル様によって選ばれて、ここに送られたのさ……そう言えば、こう見ると、お前たちはスティアーと仲が良かった同級生か?」

「そうです、僕たちはスティアーと仲良しでした」

 アフマドは単純に答えたが、ハディージャはスティアーへの嫉妬を思い出した。

「私はちがうわ……スティアーは私に意地悪だったもの!」

「へえ、スティアーがそんなに意地悪だったのかい? ああ、あんた、ハディージャだね……スティアーが言っていたが、あんたはスティアーに嫉妬したんだろ? スティアーが他の男やそこのアフマドと家庭を構成しようとしたことに反感を持った……それは、確か、村のおきて、三人以上で家庭を構成することに反していたはずだよな」

ハディージャとアフマドは、ディスポロを説得して真実を知るように働きかけた。しかし、彼は反論し、反発した。

「......そうか、そんなことだから、あんたたちの両親、ニールとカーラは裁判を受けることになったんだな」

「裁判を? お父さんとお母さんが? どうして?」

「ニールとカーラは、村の掟に反していた、そして、あろうことか、カミーユブーバル様のご意向に反対して、お前たち二人を逃がしたことが分かったのさ」

 彼によると、村では二人の育ての親ニールとカーラが二人の子供、ハディージャとアフマドの逃亡を予め用意していたことが露ど見したらしかった。

「まあ、裁判はまだ続いているだろうよ.......そして最終的には、あの二人はあんたたちの親だから、責任を取って死刑になるんだろうね」

 スティアーの父ディスポロの言葉に、二人は衝撃を受けた。ディスポロはさらに続けた.

「あんたたちも、捕まるべきだよ…そうだ、ここで俺の力を見せよう」

 彼はそういうと、近くに倒れていたカミーユ族の一人に身を投じた。彼の体は、直ぐに全てが吸い取らら、カスカスの乾いた死体になった。同時に、カミーユ族の怪物が活発さを取り戻した。しかも、それがきっかけで、他のカミーユ族の怪物も動き出し、周囲にいた人間たちを襲って活力を取り戻してしまった。


「お前たちか? 俺たちをここまで追い込んだのは?」

 この言葉とともに、途方もない数の怪物たちが、ハディージャとアフマドの周囲に押し寄せてきた。おそらく、体液と生命エネルギーのすべてを吸い取られたディスポロは、ハディージャとアフマドの情報まで怪物たちに伝えたらしかった。その知識を共有したのか、途方もない数の怪物たちがハディージャとアフマドを包囲した。

「ブーバルが連絡して来た逃亡者というのは、お前たちだな」

「おお、ブーバルの守護する村の人間のうちの二人か?」

「罰当たりな家族、ニールとカーラが拾い育てた子供たちだということだが……」

「そうか......だから、お前たち二人は、身の程をわきまえずに我々守護神に逆らったのだな......罰当たりめ!」

「待て待て、兄弟たち! お前たち二人は、ここで我々につかまったことは幸いなことだぞ......此処で我々に身を任せよ」

「そうすれば、あそこに転がっているディスポロのように存在のすべてを我々に奉献できるのだぞ!」

「いや、その前に、お前たち二人を産まれたままの姿にして、互いに絡ませてやる......そうすれば、生命エネルギーがあふれた状態で、我々が吸い取ることが出来るぜ」

 怪物たちは、アフマドとハディージャの扱いを、互いに勝手に言い合い、それが二人を震え上がらせた。


「退け、カミーユ族!!」

 このとき、この言葉とともに杖から強烈な光が発せられ、ハディージャとアフマドの背後から、大きな雷のような声が四方に轟いた。今までに聞いたことのない地響きを伴う疑似声音だった。その地響きが、ハディージャとアフマドの周囲を包囲していたカミーユ族と呼ばれる怪物たちを四散させた。

 アフマドは、彼が背後で庇っていた六翼の虫のことを思い出し、急いで足元を探した。だが、そんなものは見当たらず、その代わりに彼らの背後には、いつの間に出現したのか、六翼の巨大な黄金龍ドラゴンがそびえたっていた。六翼ドラゴンの上半身は、アフマドやハディージャの位置からははっきり見えなかったが、その眼光は辺りのすべてを睥睨し震え上がらせる圧倒的なオーラを発していた。


「あ、貴方は......」

 アフマドとハディージャは、ドラゴンの威容に躊躇いながら小さく声を上げた。すると、はるか頭上のドラゴンからは、ハディージャの持っていたシェイベットと共鳴して地響きを響かせながら、疑似声音が発せられた。

「二人の愛をもって最も弱き者を助けたのは、私を助けたことと同じだ……それゆえ、愛し合うお前たちに祝福を与えよう!」

 二人は思わず応えていた。

「私は啓典の主のしもべに過ぎません」

「そうです、私たちは......」

 だが、その言葉を強く打ち消すように、地響きのような疑似声音がふたたび響いた。

「私は救おうと思う者を救うのだ......さあ、この星を出るのだ」

「え?」

 ハディージャとアフマドは、ドラゴンの誘いを聞き、戸惑った。その反応を確かめたドラゴンは、説明を加えた。

「この星の悪は満ちた……それゆえ、この星の大地は呪われ、全ては滅びの裁きに至る......既にこの星にはミーカールたち呪縛司の一団がお前たちの育った村の辺りに着くころだ......彼ら呪縛司達は、最初にこの星を呪縛したうえで、地上のすべての者たちをこの星の呪いに縛り付け、滅びに至らしめるであろう……さあ、私がお前たちを此処から連れ出そう」

「お、お待ちください……実は......」

「そうそう、名乗るのを忘れていた......私は六翼の使い「チカ」である」

 この時、「チカ」と名乗ったドラゴンの背後には、何かの文字のような印が見えた。それは、漢字で表せば「愛」ということだろうか。

チカ様、そうではなく......」

 アフマドは、普段から一般の人間に比べて非常に控えめ(つまり引っ込み思案で大人しい)であり、それゆえドラゴンに自分たちの言いたいことをなかなか伝えることが出来なかった。彼の代わりにハディージャが手を少し上げて、小さいアピールをした。ドラゴンはそれにやっと気づき、二人に続きを促した。

「この星に心残りがあるのか? こんな悪が満ちた星に、どんな心残りがあるのかね?」

「お、畏れながら……」

 こういうとハディージャは言葉が続かなかった。彼女の位置からドラゴンの顔を見上げようとしたのだが、恐ろしさもあって彼女の位置からはドラゴンの顔が見えなかった。このときは、ただ背中の高い位置にゆっくりと揺らぐ六翼が見えただけだった。その代りに、アフマドが勇気を出して大声を出した。

「僕たちの村の人たちはどうなるのですか?」

「エリアスは? ディンゴは?」

 ハディージャは気になっていた男児たちの名前を口にした。アフマドは意外そうな顔をしながらも、彼からも問いかけた。

「先生のゼニスはどうなるんでしょうか? スティアーはどうなるんでしょうか?」

 アフマドがスティアーの名前を出して問いかけた時、ハディージャはスティアーに覚えた嫉妬を思い出し、顔をしかめた。だが、ドラゴンも杖も一切答え方なった。アフマドやハディージャはは、何回も何回も問いかけたのだが、彼らはずっと無言のままだった。


 アフマドとハディージャは、ドラゴンたちの無言から、村に残してきた友人やその家族がこの星に残され、滅びる運命へ裁かれたことを、やっと理解し始めた。

「そうか、滅びる運命へ裁かれてしまったのね......」

「ここで滅びるのか......では、僕たちの親はどうなるのですか?」

「育ての親? ニールとカーラか? だが、彼らはお前たちから杖を奪ったことがあったはずだ…それは到底許されることではない……」

「で、でも、僕たちの育ての親です……僕たちを逃がし、僕たちの未来を見据え、様々に準備をしてくれたのです」

「だが、彼等もこの星の住人だ......それゆえに、この星とともに滅びるのだ! いや、大声を出してしまったな」

 ドラゴンは、地響きを伴う疑似声音を発したが、途中でアフマドとハディージャがすっかり怯えていることに気づき、ささやき声に近い音量に変化させた。しばらくたってから、ようやくハディージャが意を決したようにか細い声を出した。ただ、その顔は恐怖で涙をあふれさせていた。

「あ、あの......もし、私たちに憐れみをいただけますならば......わ、私たちの命を代償として、あの育ての親二人ニールとカーラを裁判からお救いください」

「なぜ、そこまでの思い入れがあるのか?」

「彼ら二人は、男女の二人だけで家庭を築いたために、この星の神々が苦々しく思っているのです」

「確かに、私は救おうと思う者を救うのだ......それゆえに救う対象をどうするかは任されている.......確かに、啓典の教えには、愛し合う一人の男と一人の女が家庭を築くことが定められている......カミーユ族が支配するこの星で、その教えを固く守ったのはたしかにあの二人だけだ......だが、お前たちこそが、私の目的であるから……」

 こういうと、ドラゴンは固まってしまった。彼は誰かと話をしているかのように見えた。

 ドラゴンは、ニールとカーラが男女二人だけの家庭を構築したことに、この星の神々たるカミーユ族が苦々しく思っていることを、改めて知った。ニールとカーラは子供二人を逃がしたことをきっかけにして、今までのことについて責め苦を負うことになったのだった。


「わかった......それならば、これからニールとカーラを裁判から救いだせばよいのだな」

「あ、あの……既に裁判にかけられて、死刑に処されることになっています……もう、間に合わないかもしれません」

「待て、慌てる必要はない……私が必ず裁判を止めよう」

______________


「…以上の罪により、ニールとカーラの両名を引き裂きの刑に処す......即執行せよ」

 神官ケチェット・ベリナウアーによって死刑の宣言が為されると、ニールとカーラは神殿の前で縛られ、鞭で打たれた。その後、ニールとカーラは彼らの息子たちと執行役人とにより神殿から湿地帯の刑場へと連れて来られた。


 湿地帯は元々牛鬼たちの生息域だった。その湿地帯の一角に、牛鬼たちによって襲われて引き裂かれる死刑の刑場が設けられていた。その湿地帯を見下ろす丘の上では、村の人間たちが騒いでいた。

「異端の二人が、ついに牛鬼たちによって引き裂かれるぞ」

「おお、二人が岩に縛り付けられたぜ」

「奴らは、カミーユブーバル様の教えに、ずっと反抗していたからな」

「牛鬼たちは、まだ来ないのか?」

「おお、牛鬼たちが匂いを嗅ぎつけて、やってきたぞ!」

 牛鬼たちが大群となって刑場のニールとカーラを囲み始めた時、村人たちの興奮は頂点に達した。

「おお、たくさんの牛鬼たちだ! これはきっと面白い光景がみられるぞ!」

 この時、刑場の岩に縛り付けられていたニールとカーラの恐怖に満ちた大きな悲鳴が、村人たちに届いた。

「おお、ついに、あいつらが罰を受ける時だ!」


 ちょうどこの時だった。最初に異変に気付いたのは、刑場に殺到していた牛鬼たちだった。

「お仲間たちよ、あの方角から何かが飛んで来るぞ」

「黒い巨大な……黒い巨体は黒雲か?」

  湿地帯の周辺上空には、既に「呪縛司」の巨体達が一つ二つと現れつつあった。


「湿地帯の上に、次々にやって来る者たちは何者なのかしら?」

「黒い怪物たちだね」

「うむ、既に呪縛司達が到着していたか!」

 ドラゴンが、行手のはるか先の上空に大きな黒い巨体群が次々に到着している様子を指し示した。その巨体は既に湿地帯の空を埋め尽くしつつあった。幸いなことに、まだ引き裂きの刑は執行されてはいなかった。


「今は裁判からお前達の育ての親達をすくい出そう」

 ドラゴンは混乱のさなかの形状へ降りて行った。その下方の湿地帯では牛鬼たちが右往左往し始めていた。


「おい、あの黒雲の下から、何かがここへ降りてくるぞ!」

「黄金色? なんだ?」

「ドラゴンか?」

「六翼だぞ」

「六翼の黄金龍だ!」

 牛鬼達はそう叫ぶと、各々武器を手に取って戦う姿勢を示した。その近くの丘の上では、村の守護神のはずのカミーユブーバルや神官達・村人達が慌て始めていた。

「あれは、何だ」

「六翼の黄金龍!?」

「おい、あの空の黒いのは?」

「黒雲が?」

「いや、牛鬼達やあのドラゴンよりも遥かに大きいぞ」


 黄金龍「チカ」は、刑場に縛り付けられているニールとカーラを確認すると、彼ら二人をかばうように、地上に降り立った。すると、牛鬼たちはドラゴンを嘲り、大勢が黄金龍に殺到した。だが、ドラゴンは殺到して来た牛鬼たちを一瞬にして黒焦げの炭にした。すると、牛鬼たちはいっせいに逃げ出した。ドラゴンは飛び上がり、彼らの退路をたつように着地した。牛鬼たちは逃げ惑い、大混乱となった。

「これで、お父さんとお母さんは、この裁判の茶番劇から自由だぞ!」

 ドラゴンの背中に乗っているアフマドとハディージャは、そう叫んだ。これでアフマドとハディージャは一安心のはずだった。

チカさま、ありがとうございます」

「これで、僕たちの両親は無罪放免です!」

 ドラゴンは、二人の姿を確認するように二人の目を黙って見つめた。


 ちょうどこの時、呪縛司達が上空から地上に一斉に降下して来た。

「カミーユ族よ、そして彼らを偶像崇拝する人間どもよ、この場で滅びよ!」

 呪縛司はそう言って、牛鬼たちで混乱する湿地帯と、村人たちがひしめいていた丘の上を火の海にした。その業火は、岩に縛られたままのニールとカーラにまで焼こうとしていた。

 アフマドとハディージャは、慌ててドラゴンから飛び降りて呪縛司達の前に立った。彼らは、ニールとカーラに火が近づくのを何とか防ごうとしたのだった。だが、呪縛司はアフマドとハディージャの姿に一切かまわずに火を強めた。


「あ、ばかな!」

 ドラゴンは慌てて六翼を最大限に広げ、呪縛司達の業火からアフマド達をかばい覆った。

「まて! アフマドとハディージャよ! お前たちはなぜそのようなことをするのか?」

「ニールとカーラを救うためです」

「ニールとカーラは、裁判から救ったのだ......だが、彼らはこの星の者たちゆえ、星とともに滅びるのだ」

 だが、ハディージャとアフマドは、ニールとカーラの前から去ろうとはしなかった。

「ニールとカーラをお救いください」

「ニールとカーラは私たちの育ての親です」

 だが、ドラゴンは聞こうとはしなかった。

「チカさま どうか、彼らをお救いください」

「もう一度言う……私は彼らを裁判からすでに救った。だが、彼らも呪縛司達によってこの星とともに滅びるのだ」

「それなら、私たちを代償として、代わりに彼らをこの星からお救いください」

 ハディージャのか細く、しかし眼とした意思を伴った声があがると、ドラゴンはだまってしまった。同時に、呪縛司たちもまた、しばらくうごくのを止めてしまった。彼らは話し合っているようだった。


「ニールとカーラは小さな存在です......彼らを救わずとも時空の解放にはほとんど関係はないはずです!」

 呪縛司達はそう主張した。だが、六翼のドラゴンは呪縛司達を制した。

「まて、それでもハディージャとアフマドは、彼ら二人を救い出すことにこだわっている......ハディージャとアフマドの二人は救われるべき者として選ばれたのだぞ!」

「だからと言って、その者たちの言い分を聞くのですか? 彼らの物言いはあまりに僭越ですぞ」

「それでも! それでも、だ! それこそが、啓典の父がハディージャとアフマドとを選びあそばした理由だ…..私は六翼の使いだからこそ、啓典の父の御意向を直接理解しているのだ! 彼らが互いに愛し合い、彼らが愛する育ての親に愛を注いでいる......この姿こそが、彼らが啓典の薔薇の美しさを帯びた理由なのだ」

 ドラゴンは、このように指摘して、引き続き呪縛司達をとどめた。


 ドラゴンは、再び目を開き、すっかり焼け野原となった周囲を睥睨した。呪縛司達が全く動かなくなったのをみて、ハディージャとアフマドは彼らの育ての親ニールとカーラの許に飛び込んでいき、持っていたナイフで縄を切り、脱出させた。

 ドラゴンは、呪縛司達からカプセル2つを受け取り、そこにニールとカーラ、またハディージャとアフマドを収容した。そこからニールとカーラの乗ったカプセルは、呪縛司達によって空へと脱出していった。他方、ハディージャとアフマドの乗り込んだカプセルは、ドラゴンによって抱えられながら、別の方角へと飛び去った。こうして、ミーカールはハディージャとアフマドを旅へと連れ出した。

______________


 こののち、一連の戦いを振り返った際、再び(シェイベット)とドラゴンの疑似声音は、アフマドとハディージャに、無感情のまま語り掛けた。

「二人とも、このようにして神の義を求めたわけだ……弱き者の傍らに立ち支え続け、注目されず、見られもしないところで弱き者のために神の栄光つまり慈愛を現わしたのだ……安心しなさい、ニールとカーラだけは、これから聖なるところへ連れて行くことになる。地球というところだ……そして、ここの人間たちは引き続き、カミーユブーバルの名前に狂いつづけ混乱しつづけ、呪縛の下に残された……かれらは、呪縛司達の残した大地の呪縛によって、いずれ徐々に自滅していくだろう……彼らが、ニールとカーラのように啓典の教えを守ったならば、救いに至ったものを……彼らがそうではない道を選んだことが、そのまま彼らの裁きになったのだ……さて、君たちについては、私がこれから旅に連れて行ってあげよう」


 この語り掛けを聞きながら、ハディージャとアフマドは村の人々と友人だった者たちの名前と顔を思い出していた。

 選ばれた二人と置き去りにされた者との差によってもたらされた行く末の大きな違いを思い、二人は背筋が凍るほどの戦慄と厳粛さを感じた。そして、選ばれた二人にも、そんな選びの違いの理由は分からず、ましてや二人がなぜ選ばれたのかについては、本当のところ理由はわからなかった。

 困惑と戸惑いの中、二人は、ただ、置き去りにされた友人やよく知った仲だった村の者たちの名を繰り返すことしかできなかった。

「ゼニス先生、スティアー、エリアス、ディンゴ......」


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