31 新たな反抗
旧型と見えるシャトルは、スキャナーに発見されないようにぎりぎりの低空をゆっくり飛ぶ。操縦席の前方窓ばかりでなく、キャビンに設けられた窓からも広葉樹一つ一つが見える。
さらに、樹林を裂くように流れ来る川に出る。そこから先は、広葉樹林の裂け目の川に沿って速度を上げ、水しぶきを上げるほどの勢いで上流へ向かう。
やがて見えてきたのは、高くそびえる山岳地帯の谷あい。ちょうど湧き出した雲によって雨が降り出した中へ入っていくと、山腹の横に巨大な洞窟が見えてきた。その一角には、きれいに整備された水平なフロアが設けられ、そこにシャトルは着陸する。
「もうすぐ着くわよ、ハディージャ」
「ダイアナ、ここをすすむと反抗人類の拠点なのかしら?」
ハディージャは、目まぐるしく変化する光景に見入った。その後ろから、アフマドがひりひりする尻を撫でながら感想をいう。
「すぐに隠れる場所があれば、怖くないってことかな。だからコリオレイヌスもダイアナも心置きなく暗躍出来たのかあ」
「そうだ、アフマド。見つからない場所があれば、そこに逃げ込めるんだぜ」
アフマドは、無邪気にコリオレイヌスに応える。
「じゃあ、女の人が怖い時も、隠れればいいんだよね……あっ」
彼はそう言いながら、背後に冷たい気配を感じとる。それは明らかに感情を抑えた娘の声。
「そうね、でも、アフマド、あなたが今まで逃げおおせたことなんてあったかしら」
「ハ、ハディージャ、こ、これはハディージャのことじゃなくて......」
「いいわよ、気を使わなくて。口に出した後につくろったって意味がないわ」
「気を使っているんじゃなくて、怖いんだよ」
「へえ、怖いの? それどういう意味かしら? 誰のせいなのかしら?」
「ねえ、ハディージャ……機嫌が悪いの?」
「いいえ、いつもと同じよ」
「そう、ということは、やっぱり怒っている」
アフマドはそう言いながらハディージャの傍から後ずさりする。
「へえ、私がいつも怒っているって言いたいのね」
「ほら、やっぱり怒っているじゃないか。アタタタ。お尻がまだ痛い.......そうか、さっきのことをまだ怒っているの? あんなに叩かなくたっていいのに……僕は子供なんだよ」
アフマドは、叩かれたお尻を強調するように摩りながら言う。ハディージャは眉間にしわを寄せてアフマドを睨んだ。だが、ダイアナやコリオレイヌスの後ろに逃げ込んだアフマドを捕まえられそうにないことを悟ると、眉をぴくぴくさせながらも、再び強張った笑顔にもどる。
「アフマド、都合よく子供であることを言い出さないでよね。それに、私、子供になっているからって、容赦しないわよ。後でしっかり教育してあげるからね」
「ハディージャ、出来ればもっと優しく丁寧に、分かるように言葉で説明してよ。シャトルに乗り込む前のことだって、もう少し言葉で説明してくれればいいのに」
「だって、そんなこと、恥ずかしくって」
「何が恥ずかしいんだよ。僕が摘まんだのは出ているところだよ。出てるところは出てるんだからいいじゃない」
「出てるところは出ているって、胸とか腰とかのこと? スタイルがいいって言ってくれるの?」
一瞬、ハディージャは、アフマドがご機嫌を取ってくれたと思った。だが、アフマドの次の言葉はそれを否定する。
「スタイル? 何のこと? 胸? 出ているところは出ていると言ったのは、いろいろな所だよ。臍だって出ているし、お腹だってぜい肉で出ているし、同じようなものでしょ」
ハディージャのぴくぴくが頻度を増す。
「憎たらしいのよね、この坊や。私も手伝ってあげるわよ」
ダイアナが笑いながらアフマドの首根っこを掴む。
「アフマドには、女性を怒らせない方法を学んでもらわないと、ね。これから、アフマドはハディージャと仲良くしてもらわないといけないのよ。これからの作戦行動にも影響があるわ。ハディージャも、小さい子を相手にそんなに怒っちゃだめよ」
「フウ、分かったわよ」
「そうだよ、ハディージャ、分かったのかな」
アフマドの一言に、ハディージャはふたたびピクピク眉を震わせる。しかし何も言わない。アフマドは、それが何を意味するのか理解できなかった。
着陸したシャトルを出迎えたのは、気候がら半裸に近い服装のハーフサキュバスなどの半魔族や家畜人類たちだった。
彼らはおとなしく、どうやら素直に命令を聞く者たちらしい。男女ともコリオレイヌスの命令を素直に聞き、笑顔を絶やさない。
「みんな優しそうな人たち。ハディージャも、あの人たちみたいに怒らなければいいのに」
アフマドの無邪気そうな一言に、当のハディージャは先ほどから眉をぴくぴくしながら笑顔を返す。大人ならその意味を察するのだろうが、今の小さなアフマドにそれは無理だった。
「へえ、ハディージャ、ずいぶん素直じゃないの? いつもそうならいいのに」
ハディージャは、アフマドの肩をポンと叩いて彼の顔を歪んだ笑顔で覗き込むと、そのままダイアナたちの後を追って行ってしまう。
「今日のハディージャは、なんか不気味だな」
アフマドはあわてて彼女の後を追った。
シャトルから降りた一団は、コリオレイヌスを先頭にそのまま管制塔のような建物の中へ入っていく。何層か下って行くと、そこにあったのは十数名の指示員が忙しく働く指令室だった。コリオレイヌスは、ダイアナを従えて、指示員たちの間を抜ける。後に続くアフマドとハディージャは、キョロキョロと周囲の指示員たちを見ながらも、どんどん進んでいくしかない。
行き当たったのは司令官室。驚いたことにコリオレイヌスは司令官席に座る。そして、ダイアナは副官の位置に立った。
「この機会に乗じて作戦行動を開始しよう。ダイアナ、城塞の構造地図、これからの作戦遂行上の中間目標、最終目標であるカイン皇子とアガメムブーバルたちのいるであろう場所を示してほしい」
「はい」
返事とともに、卓上に簡単な三次元投影が現れた。途端にアフマドが首を突き出す。
「上から見ると、あの城塞は六星の城塞構造なんだね。堅牢な構造……突き出ている部分に数門の狙撃砲台が設けられているし、城塞の内郭部分には砲門台がいくつも設けられている。これを魔族が建設したなんて信じられない」
「これは魔族の来る前からあったのさ。約900年前、ここは抵抗人類の守備要塞だった。この城塞以外にもあったんだが、それらは全て放棄されて、今では樹木の山に覆われている」
コリオレイヌスの説明にアフマドはうなずく。
「そうか、それがとても古く見える理由なんだね」
「お前、いろいろなことがよくわかるな」
「え、そんなに難しいことじゃあないと思うけど、ね、ハディージャ?」
「え、ええ」
ハディージャは突然アフマドに振られたことに驚きつつも、違和感なく答えた。
「私も、彼もこの程度の工学や戦術、戦略は、幼い時に教えられていたので……」
「お前たち、どこから来たんだ?」
コリオレイヌスは、驚きの余り声を失う。ダイアナも、ハディージャを見てアフマドを見つめる。彼らの視線を感じたのか、アフマドはにこりと笑う。
「たいていのことは、僕達が学んできたことの延長で推定できるしね。例えば、ここに備えられている軍備とか、機械や機器の仕組みとか、生物学や化学もね。ただ、わけがわからないのは、ハディージャだけなんだけど」
「へえ、私のことが分からないの? じゃあ、今教えてあげようか!」
ハディージャは、先ほどからのアフマドの口の利き方についに我慢できなくなってアフマドを抱える。アフマドは逃げようとしたが遅かった。
「そう、私はとても怒っているのよ」
「あ、この怒りは何が原因で起きたの? あ、やめて!」
ハディージャの怒りは、ダイアナが仲裁に入ってアフマドを抱き上げるまで続いた。半べそのアフマドは困惑した顔をハディージャに向ける。
「まるでカーラみたいに怒るんだもの。僕は子供じゃないよ」
「貴方は、子供なの! 私から逃げないでよね」
「逃げたいよ。だって、ハディージャは、寝ているときに僕を両脚で抱えて悶えるじゃないか。起きているときだって、手持無沙汰の時は僕をいじくっているし……それを我慢しなけりゃいけないの?」
この言葉に、ハディージャは黙った。
ダイアナは首を横に振る。
「あんたたち、何やっているのよ。作戦会議なんだから、静かにしなさいよ」
「お前たちは、「夫婦」とか言う特別なペアとして愛し合っているんだろ? 互いを唯一の相手とするところは、理解できないが....そんな仲良しが、なぜそんなに怒ったり怒られたりしているんだ?」
コリオレイヌスも苦情を言った。たまらずハディージャは言い訳をする。
「だって、大人の時のアフマドは肝心な時に私に触れてくれないし、子供になったら今度は私を変な風に扱うし……妻の私を愛するなら、それなりの時に触れてくれればいいのに……」
「へえ、だから触れているじゃあないか!」
アフマドが反論すると、ダイアナが口を開いた。
「確かに、アフマドは女性の身体を満足に扱えないわね。というより、何にも知らないみたいよ。このままじゃあ、とても満足させるなんてできやしないわえね」
コリオレイヌスも、笑いながら問う。
「なんだい、ハディージャもアフマドも、小さい時の学びの際、異性のことは学ばなかったのかい」
「私はしっかり学んだわ。一人の男と一人の女とが互いを唯一の相手として誓い合い、愛し合うことを。そして、二人は雅歌に謳われる啓典の主と人間との愛のように、互いに触れ合って愛を確かめることも、ね」
「僕だって、学んださ。だから、妻のハディージャだけを愛することを誓えるし、愛も最高に表現できる。ただ、肌に触れるところからは『ハディージャの身体を想像しろ』なんて言われたから、それ以上は無理だったんだ」
「それじゃあ、仕方ないなあ。まあ、戦いの後で、我々反抗人類と共に過ごしてみろよ、我々も啓典は大切にしているつもりだから、いい学びができるかもしれないぜ。さあ、今は作戦会議をしよう」
コリオレイヌスを中心にして作戦会議が始まった。
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作戦会議の後、全員が滑走路上に集められた。そこで、コリオレイヌスは司令官として檄を飛ばす。
「あの城塞には、長年我々の頭を押さえるようにカイン皇子とその傀儡のアガメムブーバルが君臨してきた。我々は、この未開の地に潜伏し、反抗の機会をうかがっていた。
昨日、あの城塞では帝国海軍提督とカイン皇子との間で対立が起きた。どうやら、カイン皇子がラタノルライ提督の暗殺に失敗し、ラタノルライ提督は城塞から脱出し、帝国艦隊本拠へ戻っている途中らしい。
今、カイン皇子とアガメムブーバルは、暗殺失敗に慌てているにちがいない。今こそ襲撃の好機だ。我々は、家畜人類や半魔族たちとともに、城塞を急襲する計画を立てた。
この第二リングには、皇帝府とされたあの城塞と、テオンルライの実験施設、アガメムブーバルの放牧場、この三つだけが魔族帝国の施設である。我々と仲間達はこの第二リング全体で一斉に蜂起することになっている。我々はこれから城塞を占領し、第二リングの支配権を我々の手に取り戻すのだ」
コリオレイヌス以下、数百名の急襲部隊は出撃した。
数機のシャトルが樹林すれすれの高さで飛行する。城塞が混乱にあるとみることはできるが、それでも肉眼で発見されないように、ある程度の距離で全員がシャトルから降り、地上を進んだ。
しばらく進むと、周囲の広葉樹林の中に、広大な湖水が見えてきた。その湖水を濠と言っても良いように、湖水の中央には、尖塔を擁した城郭が見えた。
「城郭には見張りが居ません」
兵士の一人がそういうと、コリオレイヌスは突撃の命令を出そうとする。
「よし、全員突撃用意!」
「待って!」
アフマドは首を振りながら兵士の一人から望遠鏡を受け取り、城塞をもう一度観察する。
「コリオレイヌス、単に見張りがいないということだけで観察を終わりにしないでほしいね。ほら、あの飛び出した城郭部分を見て。あそこには狙撃砲門があるんだよ。狙撃手がいるかいないかを確認しないと」
「そ、そうか」
コリオレイヌスはアフマドの指摘に驚いて、命令を発しようとした口を閉じる。
「で、どうなんだ?」
「いくつかの飛び出した城郭部分は、いずれも無人だね。城塞の主たちは、きっと帝国艦隊が攻め込んでくることに気を取られているんだ。攻めて侵入するには、たしかに今がチャンスだね」
「そうか、よし! 全員突撃せよ」
コリオレイヌスの檄と共に、兵士たちは、静かな波紋と小さな音を煌かせながら、一斉に湖水を渡る。数名が城壁に取り付くと、その後は次々に城壁を登った。それを確認しながら、アフマドはコリオレイヌスに提案する。
「快速艇が破壊した城門は破壊されたままなの?」
「それはそのとおりだ。よし、我々は城門へ向かう」
コリオレイヌスは、テキパキと作戦をどんどん進める。彼らはあっという間に城門を占領すると同時に、城塞の内部の要所を占領してしまった。
「守備兵たちは、帝国海軍の襲撃だと叫びながら逃げ惑っています」
兵士たちは拍子抜けしたように報告する。コリオレイヌスは畳みかけるように追加命令を出した。
「一気に城塞全体を占領してしまえ」
「いいか、簡単に占領できそうだが、ブービートラップと、隠れたところからの攻撃に気をつけろ」
コリオレイヌスは兵士たちに次々に指示を出す。アフマドは、その勢いに驚きながら、一言を添えた。
「彼らには攻め込まれてから逃げるのに時間がなかったはずだね。どこかに隠れているんだろうね」
コリオレイヌスは、アフマドの言葉になずきながらも、どんどん進撃した。
ブーバル族の敵兵たちは、反撃のための陣地を構築する暇もなかった。それでもブーバル兵たちは、持ち前の獰猛な性格そのままに、いたるところから飛び出す。その度毎に、コリオレイヌスと兵士たちは猛烈な銃撃を加えた。ブーバル兵の抽粋節理の皮膚が粉砕され、焦げたたんぱく質や油脂の白い煙が立ち込める。コリオレイヌスと兵士たちは、その中を奥へ奥へ進撃した。
彼らは、あっという間に謁見室、皇子の居室に達した。しかし、どこにも皇子たちは居なかった。コリオレイヌスは困ったな、という顔をアフマドに向ける。
「奴らは隠れているんだろうが、いったいどこに」
「司令官殿、地下牢の中、尖塔の幽閉室は?」
「それはそうだ」
コリオレイヌスは、アフマドとハディージャにうなずきながら兵士たちに目で合図する。兵士たちは、尖塔や地下牢へと殺到していく。
そこでもブーバル兵たちが飛び出す。其ればかりでなく、皇族直属の近衛兵までが飛び出す。
「おそらく、だれかがちかくに隠れているぞ」
コリオレイヌスが独り言ちるとともに、兵士の一人が大声を出した。
「隠れているアガメムブーバル様を見つけました」
暫くたつと、兵士たちが隠れていたアガメムブーバルと側近のウェヌスを連れてきた。
「こいつら、尖塔の部屋に隠れていました」
コリオレイヌスはアガメムブーバルとウェヌスの顔を確認するために、彼らを謁見室の残骸の中に引き出した。
「お、コリオレイヌス! この裏切り者。ダ、ダイアナまでもか!」
アガメムブーバルの怒鳴り声が謁見室に響いた。コリオレイヌスは、アガメムブーバルのあまりの剣幕に気おされて応えられない。横からアフマドが顔を出す。
「アガメムブーバル、あんた、カイン皇子に見捨てられたんだね」
「お、お前! ついに正体を現したな、小さいアフマド! 私を電撃した時といい、今回の襲撃といい、お前は小さい姿でやりおった。やはり、お前の正体は小さい姿だったな。今回も、お前が黒幕だったんだろう」
アガメムブーバルは、驚愕と恐怖とを顔に表しつつ、叫んだ。アフマドはアガメムブーバルの狼狽ぶりにあきれつつ、指摘する。
「指揮官はコリオレイヌスだよ」
「嘘だ、その証拠に私の前で口もきけないではないか。こんな状態でこんな素早い襲撃が出来たはずはない」
「いいえ、コリオレイヌスが先陣を切って進撃して来たんだよ。あんた達は家畜人類といって彼を馬鹿にしているみたいだけど、彼は優秀な指揮官さ」
アフマドはそう言ってコリオレイヌスを見る。しかし、コリオレイヌスは蒼い顔をしたまま、アガメムブーバルとアフマドの会話を聞くだけ。
「コリオレイヌス。勝利宣言をどうぞ」
「ハディージャ、ありがとう。そうだったな」
コリオレイヌスは、蒼い顔をしながら勝鬨の声を上げた。
兵士たちは、まだカイン皇子の居所を発見できていなかった。
「カイン皇子がどこに隠れているか、見当もつかないな」
コリオレイヌスは独り言ちる。
「そうだ、隠し部屋がどこかにあるに違いない。兵士たち、空間が隠れていそうな壁を探せ」
「わかりました」
兵士たちは、これと思った壁を壊し始める。ところが、ある所で爆発が起きた。
「どうしたんだ?」
「壁の石材を破壊したとたん、爆発したんです」
アフマドははたと脚を叩くと、コリオレイヌスを見た。
「内部の厚い壁の部分は、何か別のものを隠しているかもしれません」
「どういうことだ?」
コリオレイヌスが二人を見る。ハディージャがアフマドの言葉を補う。
「ここは、元々反抗人類が建設した城塞なんでしょ。それなら、建設と同時にトラップを仕掛けたに違いないわ」
「それならどうしたらいいんだ」
「反抗人類が城塞建設と同時に作りこんだなら、トラップも含めて同じ建材で作り上げられているんじゃないかな」
「そうね。隠れ場所を探すなら、周囲と色合いや肌触りの違う建材の場所を探すべきではないかしら」
「そうか」
アフマドたちの指摘によって、兵士たちはトラップを避けることができ、同時に確かめるべき箇所はぐっと絞られた。しかし、それでも隠れ場所をを探し出すことはなかなかできなかった。
「コリオレイヌス司令官殿、この場合、もう一度城塞の三次元投影図を細かく見直すべきだよ」
アフマドはまた指摘する。
「外と中を隔てる壁にも空間が隠れている。こういうところに、脱出可能な隠し部屋があるものだよ」
「どういうことだ?」
「外へ逃げることのできる箇所がどこなのか、という視点で探してみることが必要じゃないか、ということよ」
ハディージャの指摘に、コリオレイヌスとダイアナはうなずいた。
アフマドたちの指摘したいくつかの箇所を、兵士たちはしらみつぶしに探す。だが、それでもうまくいかない。アフマドは三次元投影図を見入ると、数人の兵士たちと共にある壁に到達した。
「ここも、調べないと」
「アフマド様。此処は先ほど調べました」
「兵士の皆さん、ここは確かに先ほど調べたのでしょう。でも、この奥の壁も、周囲の建材と異なると言えるでしょ? 細かいところをしっかりチェックすれば、分かる筈なんだけど……」
兵士たちは、半信半疑のまま壁を壊す。すると、中から皇子たちが飛び出してきた。兵士たちはいとも簡単にカイン皇子たちを拘束した。
「お、お前たちに、隠れ場所を突き止める知恵があったとはな」
謁見室にひいていかれる途中、カイン皇子は皮肉を言う。兵士たちは一応に首を振りながら答えた。
「私たちは、言われたとおりに動いているだけです」
「いったいどうやって俺の隠れ場所を突き止めたのか?」
カイン皇子は、あきらめたように首を振りながら謁見室へ引っ張って行かれた。
コリオレイヌスは、カイン皇子たちを玉座に座らず、床に膝づかせた。そこに、縛られたアガメムブーバルが連れて来られる。
「おお、カイン殿下!」
「アガメムブーバル、お前も捕まったのか?」
「殿下、申し訳ございません」
「コリオレイヌス、お前が黒幕だったのか?」
「まあ、そうです」
「お前たち家畜人類に、こんな能力があったのか……」
カイン皇子はアガメムブーバルとともに天を仰ぐ。
「こんなに迅速にこの城塞を占領してしまうとは......そして、俺の隠れ場所まで簡単に見つかってしまった。これでは、敵うわけがないのだろうな」
「殿下、私たちは確かに蜂起し、ここまでやってのけました。私たちにはこれだけの力があります。そして、今や私たちにはそこのアフマドとハディージャもいるのです。彼らの助言も大いに参考にしました」
「野良人類のアフマドとハディージャか」
カイン皇子たちは一応に首をうなだれた。
「そうか……これで俺たちはおしまいだな……父上に露見するのも時間の問題だし……いや、それならばここで種馬もろともおしまいにしてやる」
その言葉に、アフマドは驚き、ハディージャがアフマドをかばうように近くに立つ。他方、コリオレイヌスたちはカイン皇子に殺到し、彼の手から自爆装置を奪った。
「この馬鹿皇子は、やはり馬鹿だ。最後に暴発して済ませようなどと」
この時、ウェヌスがハディージャの影に隠れていたアフマドを抱え上げ、玉座の方へ走り去った。
「カイン皇子、あんたはここでおしまいなんだね。それなら私がこの種馬をいただくわ。ラタノルライ提督たちへアフマドを持ち込むことは、既に計画されていたことなのよ。じゃあね」
ウェヌスがこういったとたん、ハディージャがウェヌスを追いかける。途端にアフマドがハディージャの目を見つめて大声を出した。
「ハディージャ、来るな」
「だめよ、行かせない」
ハディージャは何も考えず、ただアフマドしか見えていない。
「君が来ちゃだめだ。君は僕を動かすのに利用されて捨てられる」
「愛しているの」
「知っているよ」
アフマドは、優しい目でハディージャを見つめ、微笑みで彼女を止めた。アフマドはそのままウェヌスに抱えられ、脱出艇へ引き込まれる。そして、アフマドとハディージャの間のやり取りは中断された。
「アフマド……貴方を守れないなら、私は生きる意味がないわ」
アフマドが連れ去られた後、ハディージャはフロアに手をついて、こういうのが精いっぱいだった。ほかの全員も、アフマドがウェヌスに連れ去られたことに驚き、立ち尽くした。
嗚咽するハディージャ。ダイアナはゆっくりハディージャの傍に寄り添う。周囲は、その姿を見守るほか、何もできなかった。
その横で、カイン皇子がゆっくりと靴のかかとから何かを取り出す。
「これで、露見してしまう。もうおしまいだ」
「殿下」
アガメムブーバルがカイン皇子を見つめる。カイン皇子はアガメムブーバルを一瞥しながら笑みを浮かべ、目をつぶった。
「皆、道連れにしてやる!」
カイン皇子は、取り出したのはもう一つの自爆装置。だが、彼は慌てたのか、起動に手間取る。カイン皇子の血走った顔つきに、コリオレイヌスがやっと気づく。
「全員退避、巻き込まれるぞ!」
コリオレイヌスの掛け声とともに、全員が室外へ。へたり込むハディージャも、ダイアナによって引っ張られるようにして室外へ出た。
自爆装置のスイッチの音。しばらくの静寂ののち、閃光が謁見室全体を満たす。カイン皇子は爆散し、アガメムブーバルの断末魔の声や轟音が響くと同時に、謁見室の壁や天井が全て崩れた。




