見知らぬ天井
――ジャニス基地、医療・隔離ブロック。
「こちら地上第3捜索隊。巨大魔法少女が消滅した現場周辺を捜索中、現場に倒れていた要救助者を1名発見しました。――おい、息はあるか!? 早く医療班を呼べ!」
無線から伝えられたその一報を受け、保護された少女――つまり元サラリーマンの俺は、そのまま地球防衛組織「ジェニス」の最先端医療施設へと運び込まれていた。
白いベッドの上で、俺は静かに目を覚ます。
頭痛は引いていたが、全身の感覚がどうにもおぼつかない。
手足の重心が変わり、呼吸をするたびに肺の容積まで変わったような奇妙な違和感があった。
それもそのはず、今の俺の身体サイズは完全に少女のものになってしまっていたのだから。
そして極めつけは、現在着用しているその衣服だった。
――フリルとリボンがこれでもかとあしらわれた、およそ戦闘とは無縁の煌びやかなコスチューム。
「嘘だろ、夢だよな、これ」
かすれた、鈴を転がすような高い声が自分の喉から漏れる。
恐る恐る布団をめくって自分の体を確認してみる。
見慣れたはずの男の身体の面影は微塵もなく、そこにあるのは絹のように滑らかな白い肌と華奢すぎる手足だった。
何より、腹部や胸元を飾るあまりにも過剰な装飾の数々が、今のこの非現実的な状況をこれでもかと突きつけてくる。
パステルピンクと白を基調としたコスプレめいた衣装。
見るだけで発作が起きそうになるほど、恥ずかしさがこみ上げてくる。
背中には、ご丁寧に小さなリボンまで結ばれていた。
さっきまで、赤く染まった夜空の下で怪獣と殴り合い、巨大化して暴れ回っていた記憶は鮮明に残っている。
残念ながら、夢や幻覚の類ではない。
俺はあの暗い山頂で何かと遭遇し、少女の姿に変えられた。
そして、巨大魔法少女として怪物と戦い地球の危機を救ってしまったらしい。
(あれ?ここはどこだ?)
ようやく、自分の置かれた状況を冷静に判断しようと周囲を見回す。
無機質な白い壁、天井に備え付けられた監視カメラ、そして二重のロックがかけられた頑丈な鉄製の扉。
どう見ても普通の病院の一室ではない。
俺の正体がバレているのか?いや、そもそも俺だって被害者だろ。
絶望感に浸りかけていたその時、病室の片隅のテーブルの上にぽつんと置かれた「それ」が目に入った。
丸っこい体型、つぶらな瞳、そして頭の上の奇妙な突起。
――全ての元凶、怪しいぬいぐるみ様だった。
そいつは何食わぬ顔で、ちょこんと座り俺の視線に気づくと、小さく片手を上げてほほ笑んだのだ。
「やあ、起きたかい? なかなかの名演だったよ、新人くん!」
隔離病室の外に密かに設置されたモニター室では、チーム・ルクシオ隊長・織田と、その副官である土門が内部カメラの映像を食い入るように見つめていた。
「おいおい、マジかよ冗談だろ」
織田は腕を組み、深いため息と共に額に手を当てながら低くうなった。
画面の向こうで、頭を抱えて落ち込んでいる少女の姿が映し出されている。
「ジャニス極東支部に収容されたあの少女。見た目はどう見ても、普通の女の子だが」
織田の視線の先にあるウインドウには、先刻、市街地に出現した『巨大魔法少女』のデータが表示されている。
その装飾、色合い、シルエットのすべてが、今まさにモニターの中で縮こまっている少女のものと寸分違わず一致している。
「どう考えても、無関係とは思えないですね」
副官の土門は眼鏡のブリッジを押し上げ、目を細めながら難しい表情でモニター越しに頭を抱える少女の姿を見据えた。
「あの子が、本当にさっきの・・・あの巨大魔法少女なんですかね?」
「ああ。もしそれが事実だとしたら、一体どうやってあんな物理法則を完全無視した巨大化を引き起こしたんだ? 熱量の保存則も、質量保存の法則も完全に無視されている。科学の常識じゃ説明がつかん」
次々と湧き上がる疑問の数々。
次回予告
ジェニス基地に確保された俺は、チームルクシオのメンバーと
対面。このまま拘留されるのかと思った時、救いの手が・・・
次回「ファーストコンタクト」でFuture Go!!




