魔獣が眠る山
ジェニスの万能ビーグル――その名は『ヴェーダ』
一見すると無骨な高級大型SUVに見えるが、その車体にはジェニスの最先端テクノロジーが惜しみなく注ぎ込まれている。
車体装甲には対異形獣用の超硬質合金が採用され、通常兵器の攻撃を完全にシャットアウトする。
さらに、エネルギー探知レーダーや光学迷彩によるステルス機能、いざという時には空戦モードへのトランスフォームすら可能な超高性能特殊車両だ。
ガコン、ガコン、ガコン……と、地鳴りのような重低音を響かせながら、何台もの大型工事用重機が鋭い爪で固い地面を無慈悲に採掘し続けていた。
土煙が舞い上がり、静寂だった山は重機の騒音で完全に塗りつぶされている。
そんな採掘現場の一角にあるプレハブの現場事務所では、今まさに揉め事が起きていた。
「だから、ここを掘り進めるのは危険なんだ! 工事を今すぐ中止してくれ!」
必死に声を荒らげているのは、地元の歴史研究家を名乗る白髪交じりの老齢の男だった。
彼は汗を拭うのも忘れて、テーブルの上にボロボロで古びた古文書をバサリと広げる。
そこに描かれているのは、おぞましい異形の魔獣と、それを古代の封印で抑え込んでいるかのような不気味な図絵だった。
「ここには古来より、恐ろしい魔獣が封印されている! この以上を刺激すれば、取り返しのつかない災いがこの街を襲うんだ!」
しかし、現場責任者とおぼしき屈強な男は、煙草の煙をふっと吐き出しながら、鼻で笑って古文書を一瞥すらしない。
「じいさん、ここは民間企業が正当な手続きを経て開発を進めてる現場なんだよ。そんなボロボロの落書きみたいな紙切れ一枚で、何億もかかる工事を止められるわけないだろ。あいにくオカルトにつき合ってる暇はないんでね、お引き取り願おうか」
「なっ、話を聞いてくれ! 本当なんだ!」
「おい、誰かこのじじいを外につまみ出せ」
冷淡な一言で、若い作業員たちに両腕を掴まれた研究家は、「頼む、考え直してくれ……!」と叫び声を上げながら、事務所の外へと強引に追い返されてしまった。
閉められたドアの向こうで、再び重機の駆動音がけたたましく鳴り響く。
一方その頃――。
騒動から少し離れた高台のロードサイド。
ジェニスの万能ビーグルの助手席で、ジャニスの制服姿(ようやく支給された)の俺は、ぐったりとシートに背中を預けていた。
「はぁ・・・まさかクラスメイトに正体がバレるなんて・・・」
「クラスメイトたちの記憶の改竄や口止め工作は、ジェニスの方で一応手配しておいたから安心して」
「安心していいのか?ちょっと怖いんだけど・・・」
「ねえ、ルリちゃん。あれを見て」
運転席の玲がふと視線を向けた道の脇で、何やら揉めている一団が目に入った。
車を寄せると、そこでは先ほどプレハブ事務所からつまみ出されていたはずの老齢の歴史研究家が、屈強な作業員風の男たち数人に取り囲まれて詰め寄られているところだった。
「おじいさん、さっきはよくもウチの親父に余計な真似してくれたな。工事の邪魔をする気か?」
「だから、あそこを掘り進めるのは本当に危険なのだ! 魔獣の封印が解かれれば、この街全体が――っ!」
「うるせえんだよ、老いぼれの妄言につき合ってられっかよ!」
男の一人が乱暴に老人の胸倉を掴み、地面に押し倒そうと腕を振り上げる。
「っ、危ない!」
車が完全に停止するのを待つまでもなく、助手席のドアを勢いよく開けて飛び出す。玲もそれに続くように素早く車のエンジンを切り、現場へと走り出した。
「そこまでよ、おじさんたち!」
玲が凛とした声を張り上げながら、男たちの間へと割り込む。
俺もその後ろに立ち、一般人のふりをしながらも鋭い眼光で男たちを睨みつけた。
「なんだお前ら、女やガキが首突っ込むんじゃねえよ!」
「見ず知らずの老人に集団で暴力なんて、大人のやることじゃないでしょ。離れなさいよ!」
一触即発の緊迫した空気の中、男たちはジロジロと俺たちを値踏みするように見つめ返すのだった。
玲は一歩も引かず、冷ややかな視線を男たちに向ける。
その背後で、地面に押し倒されかけていた白髪の老人は、ハッとした表情で俺たちの顔を見上げた。
「きみたちは?」
「おじいさん、怪我はないですか?」
俺が声をかけると、老人は震える手でボロボロの古文書を抱え直し、切実な瞳で訴えてきた。
「あ、ああ・・・ありがとう。だが、そんなことより、あの山を掘り進めるのは本当に止めさせなければならんのだ! あの地下には、かつて世界を滅ぼしかけた魔魔の封印が眠っている! 人間の手でそれを解いてしまえば、この世界は取り返しのつかないことになる!」
男たちは老人の言葉を鼻で笑う。
「おいおい、まだそんな寝言ほざいてやがるのか。頭がおかしくなった老いぼれの相手をしてる暇はないんだよ、さっさと連れて行け!」
作業員風の男たちが再び荒々しく歩み寄り、老人を連れ去ろうと手を伸ばしたその瞬間――。
ズズズズ……ッ!
突如として、先ほどまで作業が行われていた開発予定地の地面が、まるで激しい地震のように大きく揺れ動き、地割れを起こした。
そしてその裂け目から、不気味な声が響いてきた。
「魔獣本物だな」
「なっ!?」
何処からかバロンが現れ、頭の上に乗る。
「魔獣の封印が解けてしまったのか・・・」
老人はその場に座り込み、力無く呟いた。
「お終いだ・・・何もかも・・・」
次回予告
現場で調査を開始した、チームジェニスを妨害する人々。
その人々のくだらないエゴが魔獣を呼び覚ました。
次回「砕けた封印」でFuture Go!!




