星の守り手
まばゆい光の中で巨大化した俺は、校舎をも見下ろすほどのスケールで校庭に仁王立ちしていた。
目の前には、禍々しい威圧感を放つ護衛異獣・ガルサスが、容赦なく襲いかかろうと牙を剥いている。
普通なら、こんな怪獣を目の前にしたら、恐怖のあまり腰を抜かして気絶するところだ。
だが――不思議と、今の俺に恐怖はなかった。
(この感覚……!)
脳内に流れ込んでくるのは、桁違いの質量を持つ肉体を完全にコントロールするための超常的な戦闘知識、そして圧倒的な肉体のスペック。
反射神経は極限まで研ぎ澄まされ、相手が次にどこへどう動くのか、その軌跡がスローモーションのように鮮明に視える。
さらに、右手でしっかりと握りしめているのは、星のエネルギーを込めたマジカルブレードだ。
「・・・」
その手元を見た瞬間、俺の脳裏によみがえったのは、泥臭く、そして熱かった青春の記憶だった。
この時ほど、中高で剣道部に所属していて良かったと思ったことはない。
夏の容赦ない日差しの中、カビと汗臭い防具に身を包み、竹刀を振り続けたあの地獄のような日々。顧問の怒声、竹刀の重み、足捌きの基本、そして相手の隙を突く呼吸。
まさか人生の折り返し地点を過ぎて、巨大怪獣相手にその経験がフル活用される日が来るとは誰が予想しただろうか。
「暑くて、カビ&汗臭い防具で頑張った甲斐があるってこういうことかよ!!」
心の中で盛大にツッコミを入れつつ、俺は巨体を軽やかに沈め、剣道で培った中段の構えをとった。
相手の巨体から放たれる凄まじい一撃が迫る。
しかし、今の俺のスペックならすべて見切れる。
ガルサスが巨大な斧で、俺を両断しようと渾身の一撃を放つ。
「おそい!それに隙だらけだ!!」
俺はマジカルブレードで、敵の重い一撃を鮮やかに弾く。
そして、バランスを崩したガルサスの懐へと踏み込み、剣道部時代に叩き込まれた足捌きで地面を爆発させる。
すれ違いざまに放つのは、完璧な軌道を描く「抜き胴」。
眩い青光の刃が、ガルサスの硬質な装甲をバターのように滑らかに切り裂き、鮮烈な火花を散らす。
「がああっ!?」
異形の巨人がたじろぐ。
だが、攻撃の手を緩めるつもりは毛頭ない。
すかさず体を回転させ、振り返りざまに渾身の力を込めた一撃を叩き込む。
「マジカルゥスラッシュッ!!」
ブレードに込めた星光エネルギーが、敵の巨体を完全に捉え、校庭の地面を大きく揺るがすほどの凄まじい大爆発を引き起こした。
「爆発でか!校庭に穴空いちゃってるし・・大丈夫かな?」
巨大な魔法少女――星宮ルリは、マジカルブレードの光をスッと消し、ふう、と大きく息を吐き出すのだった。
「ふぅ・・なんとか勝った。いや、本当に疲れた・・・」
体中の緊張がほどけ、元おじさんのメンタルにどっと疲労が押し寄せてくる。
ふと足元を見下ろすと、そこには命からがら避難したクラスメイト達がポカーンと口を開けたまま、言葉を失ってこちらを見上げていた。
正体を知ったクラスメイトたちの「これ、どうリアクションしたらいいんだ?」という複雑な視線が、遥か上空の俺の肌にヒリヒリと突き刺さる。
(気まずい! めちゃくちゃ気まずいぞこの空気!!)
お約束なら、怪獣を倒した後のヒーローはここで華麗に飛び去るんだろうな。
「バロン、一応聞くけど・・飛べないよな?」
「無理!」
「だよなぁ・・・こうなったら、強制縮小だぁ――っ!」
飛び立つことが出来ない俺が、心の中で叫んだその瞬間、全身を包んでいた星の光が内側へと急激に収束していく。
シュワァァァ……ッと、巨大なエネルギーが急速に萎んでいくような独特の効果音が脳内に響き渡る。
ビルをも凌駕していた巨体は、眩い光の粒子に包まれながらみるみるうちに縮小していった。
校舎の屋根の高さから、電柱の高さへ。
そして電柱の高さから、元の女子高生サイズへと一気にダウンサイジング。
ピカッと最後の強い閃光が瞬き、トン、と着地したのは――ついさっきまで戦っていた校庭のど真ん中だった。
周囲に立ち込めていた爆煙がゆっくりと晴れていく中、元のサイズに戻った俺――セーラー服姿の星宮ルリは、両手を膝につきながら、ゼーゼーと荒い息を吐き出してその場にへたり込んだ。
「はぁ、はぁ・・・死ぬかと思った・・・」
静まり返った校庭。
クラスメイトたちや、ジェニスベースのモニター越しに様子を見守っていた面々は、あまりの展開のシュールさと目まぐるしい変身劇に、完全に言葉を失っていた。
「そうくるのか・・・」
巨大化したかと思えば、光を放ちながらその場で縮んで元に戻るという、何処かしまらない結末。
戦い終えた圧倒的な疲労感で、俺は地面に突っ伏したまま遠い目を向けるのだった。
次回予告
工事現場に日参する謎の老人。
彼は言う、この山には魔獣が封印されていると
次回「魔獣が眠る山」でFuture Go!!




