第10話 赤き女王
「……貴様が霧島ひよりか?」
赤髪の女性が、私を見下ろしていた。
「は、はい……」
声が裏返った。
何なんだ、この人。
怖い。
別に怒鳴られたわけでもない。
睨みつけられているわけでもない。
ただ名前を聞かれただけだ。
なのに、身体が勝手に緊張する。
背筋が伸びる。
さっきまで私を囲んでいた能力者たちも、全員黙っている。
一人なんて、明らかに視線を逸らしていた。
「あ、あの……」
誰ですか。
そう聞こうとして。
「焔城ギルドマスター……」
横にいた男が、小さく呟いた。
私は固まった。
ギルドマスター。
この人が?
改めて女性を見る。
燃えるような長い赤髪。
黒いジャケット。
高い身長。
立っているだけなのに、周囲の空気がそこだけ違って見える。
そして今さら、その半歩後ろにもう一人女性がいることに気づいた。
いつからいたんだろう。
全然気づかなかった。
黒に近い紺色の髪をきっちりまとめた、細身の女性。
手には数枚の書類。
表情はほとんど動かず、静かにこちらを見ている。
赤髪の女性が目立ちすぎて、完全に背景になっていた。
「え、焔城……さん?」
私が恐る恐る確認すると、周囲の何人かが息を呑んだ。
何か間違えた?
赤髪の女性――焔城アマネは、私ではなく、先ほどまで私を囲んでいた男たちへ視線を向けた。
「で」
低い声。
「貴様らは何をしている」
「いや、その……」
一番最初に絡んできた男が、急に歯切れを悪くする。
「ちょっと新人と話してただけですよ」
「ほう」
アマネさんが周囲を見る。
一人。
二人。
三人。
いつの間にか、私の周りには六人くらいいた。
「六人がかりでか?」
「……いや」
「随分と人数が必要な会話だな」
誰も答えない。
さっきまであんなに好き勝手言っていたのに。
「暇なのか?」
「いえ!」
「なら依頼掲示板を見ろ。昨日から人手の足りん案件が三件残っている」
「はい!」
「散れ」
一言だった。
本当に散った。
蜘蛛の子を散らすように。
つい数秒前まで私を囲んでいた能力者たちが、誰一人として文句を言わず離れていく。
すごい。
私も散りたい。
できれば一緒に。
こっそり後ろへ一歩下がる。
「霧島ひより」
「はいっ!」
逃げられなかった。
アマネさんが私を見る。
「二十二歳。能力登録から日が浅い。等級F」
「はい」
「登録上は水系統」
「……い、一応」
眉が動いた。
「一応?」
しまった。
「い、いえ、水です。水が出ます」
「それは報告書を見れば分かる」
ですよね。
アマネさんは後ろへ手を伸ばした。
すると、控えていた女性が何も言わず書類を渡す。
連携がすごく自然だ。
アマネさんが紙へ目を落とした。
「初回任務で指名手配犯三名を制圧」
「偶然です」
「次いで昨夜、広域窃盗事件の容疑者二名を制圧」
「それも偶然です」
「五人だな」
「……はい」
「偶然で五人」
「はい……」
言葉にされると苦しい。
アマネさんが書類から顔を上げる。
「昨夜の現場写真も見た」
嫌な予感。
「通路一帯が水浸しだったそうだな」
「一帯ってほどでは……」
「床に置かれていた資材が十メートル近く流されている」
「すみません」
「叱っているわけではない」
そうなの?
全然そう聞こえない。
「問題はそこではない」
アマネさんが書類を指で叩く。
「Fランク」
「はい」
「現場一帯を押し流す水量」
「はい……」
「そして本人は、発動方法すら説明できない」
「…………」
午前中の事情聴取を思い出す。
恐怖。
緊張。
脱力。
気づけば足元から水。
それ以上は何も言えなかった。
言えるわけがなかった。
アマネさんが小さく息を吐く。
「私は矛盾が嫌いでな」
「はあ」
「書類と現実が噛み合っていない」
目が細くなる。
「故に、この目で確かめる」
「……何をでしょうか」
「貴様だ」
帰りたい。
猛烈に帰りたい。
「えっと、正式な能力測定なら管理局じゃ……」
「等級を決めるつもりはない。それは管理局の仕事だ」
アマネさんはあっさり言った。
「私は、このギルドに所属する能力者が何をする人間なのか知っておきたいだけだ」
それは。
言われてみれば、もっともだった。
制御できない大量の水を出す人間に、狭い屋内の仕事を任せたら大変なことになる。
というか私自身が困る。
「少し確認するだけだ」
少し。
その言葉に嫌な予感しかしない。
「あの……拒否権は」
「ない」
即答。
「ついて来い」
やっぱり。
アマネさんが歩き出す。
後ろの女性も当然のようについていく。
私はその場に残った。
三秒くらい。
アマネさんが振り返る。
「何をしている」
「今行きます!」
私は走った。
案内されたのは、ギルド本部の地下だった。
エレベーターを降り、長い廊下を進む。
厚い扉。
その上に、
『第一訓練場』
と書いてある。
嫌だ。
文字からして嫌だ。
扉が開く。
中は体育館よりさらに広い空間だった。
高い天井。
強化された床。
壁も分厚い。
あちこちに焦げた跡や、何かがぶつかったような傷が残っている。
絶対に普通の運動をする場所ではない。
「入れ」
「はい……」
私は中央まで歩いた。
アマネさんは少し離れたところで立ち止まる。
もう一人の女性は壁際へ。
書類を開いている。
「あの」
私は小声で聞いた。
「そちらの方は……」
女性が顔を上げた。
アマネさんが答える。
「白凪ユキ。私の副官だ」
ユキさんが軽く頭を下げた。
「白凪です」
「あ、霧島です」
知ってると思うけど。
私も頭を下げる。
それだけ。
ユキさんは再び書類へ目を落とした。
静かな人だ。
アマネさんとは正反対に見える。
「さて」
アマネさんが腕を組む。
「出せ」
「何をですか?」
「水だ」
ですよね。
「今ですか?」
「いつ出すつもりだ」
「いや、その……」
私は周囲を見る。
誰もいない。
安全。
明るい。
敵もいない。
怖くない。
絶対出ない。
「昨日のものと同じでいい」
「それができたら苦労してないんですけど……」
「何?」
「何でもないです!」
私は深呼吸した。
やるしかない。
目を閉じる。
昨日のことを思い出す。
指名手配犯。
腕を掴まれた。
連れていかれそうになった。
怖かった。
ものすごく怖かった。
その時の感覚を再現する。
緊張。
脱力。
「…………」
何も起きない。
もう一度。
「…………!」
何も起きない。
アマネさんは黙っている。
ユキさんも黙っている。
やめて。
その沈黙。
非常にやりづらい。
「もう少し待ってください」
「待っている」
「そうじゃなくて……」
集中。
水。
水。
出ろ。
昨日はあんなに出たんだから。
少しくらい。
コップ一杯でいい。
いや、ペットボトル一本でもいい。
何でもいいから出て。
「…………」
出ない。
ただ緊張してきた。
別の意味で。
二人の偉い人に見られながら、
『能力出して』
と言われて何もできない。
公開処刑だった。
しかも私は知っている。
無理に出そうとすると。
別のものが出る可能性がある。
それだけは避けたい。
私は下腹部に力を入れた。
「……出ません」
とうとう諦めた。
アマネさんが首を傾げる。
「昨日は出た」
「はい」
「一昨日も?」
「出ました」
「その前も?」
「……出ました」
「では何が違う」
「それが分からないから困ってるんです」
思わず本音が出た。
怒られるかと思った。
でもアマネさんは怒らなかった。
むしろ少し楽しそうに目を細めた。
「事情聴取の記録では、恐怖を感じたと答えている」
「…………はい」
嫌なところを読んでいる。
「強い緊張」
「はい」
「その後の脱力」
「……はい」
アマネさんが口元をわずかに上げた。
嫌な笑い方だった。
「なら簡単だ」
簡単じゃない。
絶対に簡単じゃない。
「条件を作ればいい」
「え」
アマネさんが一歩前へ出た。
その瞬間。
空気が変わった。
熱い。
「え?」
頬に熱を感じる。
次の瞬間。
ボッ、と音がした。
アマネさんの周囲に炎が灯った。
赤い。
いや。
中心部は黒い。
燃えるような赤と、光を吸い込むような暗い炎。
一つではない。
背後。
足元。
肩の横。
いくつもの炎がゆっくりと浮かび上がっていく。
室温が一気に上がった。
「え、待って」
炎が大きくなる。
私は後ずさる。
「待ってください」
アマネさんは答えない。
こちらへ歩いてくる。
一歩。
炎が膨らむ。
二歩。
熱風が顔へ当たる。
「ちょっと!」
怖い。
本当に怖い。
何これ。
訓練だよね?
確認だけだよね?
この人、本気じゃないよね?
でも。
分からない。
私は数日前まで普通のコンビニ店員だ。
強い能力者同士がどのくらいの距離なら安全なのかなんて知らない。
目の前で人間一人を包めそうな炎が燃えている。
怖くないわけがない。
「焔城さん!」
「マスターでいい」
そこ!?
今それ!?
「いや、そうじゃなくて! これ危なくないですか!?」
「私がいる」
「あなたが一番危ないんです!」
アマネさんの口元が少しだけ上がった。
「まだ喋れるか」
何その確認。
炎がさらに広がった。
床を這う。
私の進行方向を塞ぐ。
「ひっ!」
逃げ道がない。
背中に壁。
正面に炎。
右にも。
左にも。
熱い。
怖い。
嫌だ。
無理。
死ぬ。
死にたくない。
「や、やだ……」
声が震える。
足も震えている。
逃げたい。
でも逃げる場所がない。
アマネさんが手を上げる。
炎が一斉に揺れた。
「無理無理無理無理!」
私は頭を抱えた。
「死にたくない!」
その瞬間。
身体の奥で何かが緩んだ。
「あ……」
温かい。
下着の中へ広がる。
太ももを伝う。
足元へ落ちる。
ぽた。
ぽた。
「…………」
私は固まった。
違う。
これ。
普通の方だ。
まただ。
また普通に漏らした。
しかも。
今回は。
ギルドマスターと副ギルドマスターの目の前で。
死んだ。
社会的に。
完全に。
私は顔を上げられなかった。
消えたい。
燃やして。
いっそその炎で私を消して。
足元へ小さな水溜まりができる。
静かな訓練場。
隠しようがない。
絶対に気づかれる。
いや。
もう気づかれている。
アマネさんの靴が止まった。
炎の勢いも、少し弱くなる。
「…………」
何も言わないで。
お願い。
何も言わないで。
アマネさんが足元を見る。
そして。
「……拍子抜けだな。恐怖で失禁か」
終わった。
頭の中が真っ白になった。
バレた。
一番知られたくなかったことを。
よりにもよって。
ギルドマスターに。
しかも副官までいる。
見られた。
聞かれた。
はっきり言葉にされた。
失禁。
その二文字が、頭の中で何度も反響する。
恥ずかしい。
消えたい。
今すぐ地面に穴が開いて、そのまま地下百メートルくらいまで落ちたい。
いや。
この訓練場なら、本当に穴くらい開きそうだ。
そんなことを考えている場合じゃない。
でも。
何も考えられない。
全身から力が抜けていく。
さっきまで張り詰めていたものが、一気に切れた。
炎も弱まった。
殺されない。
もう終わった。
そう思った。
ぽた。
足元に雫が落ちた。
ぽた。
また一滴。
「…………」
私は俯いたまま動けなかった。
まだ出るの。
最悪。
本当に最悪。
もう十分でしょ。
これ以上、私から何を奪えば気が済むの。
ぽた。
ぽた。
雫が落ちる。
足元の水溜まりが、少しずつ広がっていく。
アマネさんがそれを見ていた。
「……まだ出るのか」
お願いだから実況しないで。
私は答えなかった。
答えられなかった。
今、口を開いたら泣くかもしれない。
というか。
何で止まらないんだろう。
さっき結構出たはずなのに。
じわ。
靴の周りへ水が広がる。
じわじわ。
足元だけだった水溜まりが、さらに大きくなる。
アマネさんの眉が、わずかに動いた。
「…………」
私も気づいた。
多い。
さすがに。
こんなに残っているはずがない。
でも。
まだ私は。
能力だとは思わなかった。
ただ。
今日の私は、本当にどうかしている。
そのくらいにしか思えなかった。
水が広がる。
一歩分。
二歩分。
さらに。
「……?」
アマネさんの目が細くなる。
水の勢いが増した。
ぽたぽた。
ではない。
もう、流れている。
細い水の筋が、私の足元から何本も伸びていく。
「え……」
ようやく声が出た。
何これ。
アマネさんも、水面を見つめている。
さっきまでの退屈そうな目ではない。
「違う」
低い声。
「え?」
「こいつは――」
その瞬間だった。
ドンッ!!
床が揺れた。
そう思った。
実際には。
水が爆発した。
「……え?」
私の足元から。
いや。
私を中心に。
大量の水が一気に膨れ上がった。
さっきまで床を這っていた水が、壁のように立ち上がる。
一メートル。
二メートル。
もっと。
「な……」
声が出ない。
何。
何これ。
私がやってるの?
どうやって?
知らない。
こんなの。
水は待ってくれなかった。
一気に前へ倒れ込む。
巨大な津波。
向かう先は。
アマネさん。
「危な――」
言い終わる前に。
アマネさんが笑った。
本当に。
笑った。
それも。
ものすごく楽しそうに。
「面白いッ!!」
次の瞬間。
炎が爆発した。
轟音。
熱風。
赤。
黒。
目の前が全部、炎に染まった。
その炎へ。
私から出たらしい水が正面からぶつかる。
ドォンッ!!
空気が震えた。
身体が押される。
「きゃっ!」
私は腕で顔を庇った。
大量の蒸気が一瞬で広がる。
真っ白。
何も見えない。
熱い。
でも足元は冷たい。
耳が痛い。
水の音。
炎の音。
蒸気が弾ける音。
何が起きているのか全然分からない。
私はただ。
立っているだけだった。
「ははっ!」
白い蒸気の向こうから、アマネさんの笑い声が聞こえた。
何で笑ってるの。
怖い。
この人。
本当に怖い。
「そうか! これか!」
炎がさらに強くなる。
白い蒸気が吹き飛んだ。
一瞬。
アマネさんの姿が見える。
赤い髪。
炎。
笑っている。
完全に楽しんでいる。
「報告書の数字が間違っていたわけではない!」
私は何もしていない。
本当に。
何も。
両手は下がったまま。
何かを操っているわけでもない。
それなのに。
水は止まらない。
むしろ。
増えている。
炎にぶつかって。
蒸発して。
白い蒸気になって。
それでも。
また次の水が押し寄せる。
「蒸発させても、まだ湧くか!」
アマネさんの目が輝いていた。
いや。
だから。
湧くかって。
私に聞かれても。
……なにこれ。
また。
それしか出なかった。
水が増える。
炎が焼く。
蒸気が広がる。
私はその真ん中にいる。
何なの。
私の能力。
Fランクじゃなかったの。
ゴミ掃除くらいにしか使えないんじゃなかったの。
そもそも。
こんなの。
どうやって止めるの。
「もっと来い!」
アマネさんが叫んだ。
来いじゃない。
私は何もしてない。
来なくていい。
むしろ止まってほしい。
でも。
声にできない。
身体も動かない。
怖い。
もう。
怖いという感覚すら少し遠くなってきた。
あまりにも現実離れしすぎて。
自分のことじゃないみたいだった。
赤い炎。
大量の水。
真っ白な蒸気。
そして。
その向こうで。
ギルドマスターが楽しそうに笑っている。
何これ。
夢?
私は本当に。
ここにいるの?
「ふはははははははッ」
アマネさんが高笑いしながら両手を上げる。
何この人超怖い。
炎がさらに膨らむ。
さっきとは比較にならない熱量。
床が赤く照らされる。
空気が歪む。
水も負けるように荒れ狂った。
押し寄せる。
燃える。
蒸発する。
それでもまた溢れる。
赤と白と透明が、ぐちゃぐちゃに混ざっていた。
私はその中心で。
ただ、立っていた。
もう何が怖いのかも分からない。
何が起きているのかも分からない。
ただ。
すごい。
そんな、他人事みたいな言葉しか浮かばなかった。
「もっとだ!」
アマネさんが笑う。
その声と同時に。
炎が爆発的に膨らんだ。
――その瞬間だった。
「そこまでです」
ユキさんの声。
そして。
世界が凍った。
「……え」
音が消えた。
本当に。
一瞬だった。
荒れ狂っていた水。
燃え盛っていた炎。
立ち込めていた蒸気。
全部。
白く。
凍りついた。
巨大な波が、アマネさんへ襲いかかる直前の形のまま止まっている。
炎すら。
赤い光を閉じ込めた氷の塊みたいに、動かない。
さっきまで灼熱だった訓練場に。
冷たい静寂が落ちた。
「ユキ!」
アマネさんの怒声が響く。
「何故邪魔をする!」
ユキさんは表情を変えなかった。
「霧島さんは戦っていません」
「何?」
「先ほどから一度も」
ユキさんが私を見る。
つられて。
アマネさんもこちらを見た。
私は。
何もしていなかった。
構えていない。
手も上げていない。
能力を操ってもいない。
ただ。
立ち尽くしているだけ。
水だけが。
勝手に暴れていた。
「…………」
アマネさんの顔から、少しだけ笑みが消えた。
ユキさんが続ける。
「それと」
「……なんだ」
「このまま続けていたら、施設がなくなっていました」
「第一訓練場だぞ」
「第一訓練場だから申し上げています」
アマネさんが凍りついた炎を見る。
そして。
巨大な氷の波を見る。
「……私はまだ本気ではない」
ユキさんは一拍置いた。
「でしたら、なお悪いです」
静かだった。
さっきまであれほど騒がしかったのに。
水の音もない。
炎の音もない。
蒸気もない。
冷たい空気だけが残っている。
その静けさに引っ張られるように。
私の頭の中も。
少しずつ。
冷えていった。
ああ。
終わったんだ。
もう。
何も来ない。
燃えない。
水も出ない。
殺されない。
そう思った瞬間。
身体の力が全部抜けた。
「……霧島さん」
ユキさんの声がする。
返事をしたかった。
でも。
声が出なかった。
「マスター」
「分かっている」
アマネさんの声。
さっきまでの熱に浮かされたような響きは、少し消えていた。
「……しかし」
まだ何か言っている。
「後にしてください」
「…………」
何の話だろう。
もう。
どうでもいい。
怖かった。
恥ずかしかった。
秘密もバレた。
水も暴れた。
炎も怖かった。
そして。
寒い。
全身びしょ濡れだから余計に寒い。
膝から力が抜けた。
身体が傾く。
視界が暗くなる。
最後に見えたのは。
凍りついた巨大な波と。
その向こうで。
まだ少し不満そうな顔をしているアマネさん。
その横で。
何事もなかったように立っているユキさん。
だった。
――この二人。
絶対。
どっちも普通じゃない。
そう思ったところで。
私の意識は、完全に途切れた。




