29. こてんぱん
「王家は、教皇の選挙の時に共謀し、賄賂となる資金源を渡していたはずです」
イザベルさんの情報に、私もあることを思い出します。
「ああ、今の教皇って、前教皇を精神攻撃して、辞めさせて、賄賂で次の教皇枠を勝ち取りましたからね」
聖女として迎えられた私がまず驚いたのは、教会の内情でした。孤児からすればお恵みをくれる救いのような場所が、ものすごく腐敗した信仰心のかけらもない場所だったのですから。
「もっと早く言ってくれないか?」
「あまりにも当たり前すぎて忘れていました」
ライアン様は信じられないという風に私を見ていますが、本当なのです。
「賭博が大好きで、金のサイコロを常に持ち歩いていて、暴飲暴食で、夜には教皇の部屋に怪しげな男女が入れ替わり立ち替わり。この世の全ての罪を体現してる人です」
王家も抱き込んではいましたが、実は王家よりも権威が上だと思っていましたし、実際に王家を蹴落とす方法を模索していました。見せしめで破門にしようと工作していたこともあります。
「……世も末だな」
「でも実力は確かなんですよ。私を拾ったのもあの人ですし、利用も上手かった。教皇になってからの政策はほとんどが当たりです」
「タチが悪いな」
噂ではありますが、使用人に「お前は教皇に向いていない」っていう言葉を前教皇の寝室の雨どい越し吹き込ませ、あたかも神の言葉のように信じ込ませ、そこに心配しているように相談に乗って、本当に辞めさせるなんて、陰湿も陰湿。その策略で善人は蹴落とし、名家生まれの利を活かして内部は縁故採用だから、誰も逆らわず。
「ハッ!」
そこで思いつきました。私はやはり聖女ではありません。
「ライアン様、全面戦争はなるべく避けたいですよね?」
「それはもちろんだが……」
同じ方法で、やり返しましょう。
王家には、教会の秘密を。教会には、王家の秘密を。二つを争わせ、一番上には我々のお仕置きを。
教皇のおかげで民衆は良く暮らせていますから、両陣営以外に被害は出ないはずです。
「ほぉ……因果応報だな」
ライアン様に説明し、お互いに問題点や改善案を出し合い、作戦を練りました。
「エステル、妖精に指示は出せるか」
「もちろん。出せるか出せないかじゃないです。指示を聞かせます」
「うん、そうだったな」
その様子を、イザベルさんは首を傾げて見ていました。ジュールさんが遠い目をしています。
「お嬢様、こいつら変です」
「ジュール、辺境伯にこいつらなんて口を利いてはダメよ」
私に対するライアン様の反応も大概な自覚はありますが、そちらも十分ズレています。
妖精を呼びつけ、イザベルさんに紹介しました。
「何かがいる気配はするのですが……どこにいるのですか?」
見えていないようなので、ここにいるのだと教えようとしてお互いの手が触れ合った時、癒しの力が溢れ、部屋は淡い光に包まれました。
「……これが、妖精、なのですね」
部屋にいる全員が妖精が見えるようになったところを見るに、顕現した時に同じ場所にいることが条件なのかもしれません。
見えても見えなくても、癒しの力を持つ二人が辺境伯に集まり、未知の力で牽制してくるのは恐怖でしょう。
作戦をまとめ、共有し、王家と教会からの私の身柄についての手紙が送られてきたところで、実行しました。
「いい? これをばら撒くのよ」
「えー」
「……ん?」
「はい」
後日、早馬よりも早く妖精たちが戻ってきたので、報告を聞きました。
随分と阿鼻叫喚なようで、私は上機嫌にほくそ笑みます。
「えっと、宰相は『なんだと!? ふざけるなぁっ!!』って怒ってたし、王様は『なぜだ。なぜだなぜだなぜだ』って布団被って震えてた」
怒鳴り、物を壊し、慌てふためいていたようで、いい気味です。
「教皇は、『女神を信じず、堕落したからだと!? 女神なんてなんの役にも立たないくせに、何が信仰だ! 己が欲望に忠実で何が悪い!』……だって。難しい言葉だからよくわかんない」
教皇の全てが出ている台詞でした。
「あとなんか怒って倒れてた」
そりゃあの立派なお体ですから、怒り狂えば血管のどこかが切れてしまうなんてこともあり得るでしょうが。
「まさか、死んだりしてないですよね?」
次回は明日の朝更新の予定です。ブクマ、リアクション、コメントなど励みになります。
せっかくなので短編段階で迷っていた、辺境領に来る前のイザベル視点の短編を出しました。一番下にリンクあります。




