30. サービス開始です
結局、教皇は憤死とか行かずとも、精神的負荷と強欲ボディが相まって、歩けないほどに体調を崩し、教皇を退任しました。
王家は教会との関係を一から作り直すことになり、私たちに手を出す余裕もなければ、出そうとも思えないでしょう。証拠に、今まで渋っていた軍備費があっさりおりました。
二つの陣営が崩れたことで、侯爵家も力を失いつつあり、妖精たちは嬉しそうです。
『ここを定住地として、国内を回ろうと思うのです』
イザベルさんは、本人の希望で湖畔の近い森の中に小屋を建て、そこに住むことになりました。国外追放も取り消されましたから、ここを拠点として癒しの力を使う旅に出るのだと言います。ジュールさんが付いてくるのには不服そうでしたが、私とライアン様は安心していました。
そして私は、もはや妖精使いのようになりながらも、毎日拳を振るっています。妖精たちは結局、文句を言いつつも私の言うことを聞いていますし、聖女として許容値を増やしたせいで、破壊神として暴走しそうになるので発散しなければなりません。結局、癒すよりも殴る方が性に合っています。
空気を読んでいた二人による国を揺るがす騒動は、妖精に始まり、妖精に終わったのでした。
*
朝日の中で、ぱっちりと目が覚めます。夏の朝の心地よい風で、カーテンが揺れていました。目の前には、光を浴びて穏やかな寝息を立てているライアン様がいます。私はまた、ライアン様のシャツを着ていて……昨夜は遅くまで起きていたせいかもしれませんが、まるでいつかの日のようです。
思い出すだけで笑えて、袖の長い服で口元を隠します。まだ、寝ていて欲しいのです。
「ん……」
でも、ライアン様にはそんなことも伝わってしまうようで、よく見ると長いまつ毛が震えました。ライアン様はパチパチと瞬きをして、私に触れます。
「……おはよう」
「おはようございます」
低く掠れた朝の声に、疲労は感じません。夜通しの看病は必要ありませんから、当然です。
ベッドの中で横になって向かい合ったまま、ライアン様に擦り寄りました。
「ねぇライアン様」
「ん?」
寝起きでもなんでも、私が声を掛ければ、ライアン様は必ず聞いてくれます。私はこれが好きです。
「前に、私の強さが好きって言いましたよね?」
「柔らかい強さが好きだ」
「それです」
もっと適切な表現があるのではと思うのですが、そこもライアン様なのでしょう。
「私も、私を優しく見つめてくれるその眼差しが好き」
朝焼けみたいなあかがねの瞳は、いつも私を照らしてくれる。
「私を掴んで離さない大きな手が好き」
剣だこだらけでガサガサした手は、私に触れる時は繊細で、安心する。
「私を、一人の人間として扱ってくれるライアン様が、好き」
最初に会った時から変わらない、尊重してくれる姿勢が、私には一番愛を感じる。
「好きなんですよ、ライアン様」
顔に触れて、そっと口付けました。もう、キスひとつで悩んだりしません。ちゃんと自覚して伝えるまで、随分と時間がかかってしまいました。
ライアン様を見上げれば、なぜかダメージを受けていました。
「……それはズルい。俺よりもたくさん言わないでくれ」
「好きなところがたくさんあるんだから、しょうがないでしょう。形勢逆転させるって、宣言したじゃないですか」
今まで私ばかり振り回されていましたから、いい気味です。慣れた私は負けません。もう、初めてばかりの聖女ではないのです。
「これから、どんな人生になっていくんでしょうか」
「わからない。だが、幸せは保証する」
美味しいものを食べて、よく寝て、着たい物を着て、好きな人と一緒に過ごす。そういう契約の、永年雇用ですから。何かあっても、二人で乗り越えていく。
「その話、お受けしましょう」
────旦那様を愛する妻は、本日がサービス開始です。
ここまで読んでいただきありがとうございました。完結です。ブクマ、リアクション、コメントなど励みになりました。
| ᐕ)お疲れー、エステルよかったな、ライアン相変わらずズレてるけどイケメンだぞー、脳筋だろー、改めて結婚祝いだぞーくらいの軽い感じでポチッと評価していただけると喜ぶ秋色だったりします。
ではでは、またどこかでお会いできたら嬉しいです〜(- ⩌⩊⩌ -)/~~~




