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君と刻む4度目の春  作者: 時任 朔


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第三章 最適解のダンス

「……淳? どうしたの? ぼーっとして」

 ハッと目を開けると、柔らかい春の風が頬を撫でた。

 舞い散るピンクの桜の花びらの中、目の前には十五歳の唯が立っていた。病気の影など微塵もない、健康的な肌の張り、生命力に満ち溢れた大きな瞳。

 三度目の世界。

 淳の目から、溢れ出る涙が止まらなくなった。

「えっ、ちょっと淳!? なんで泣いてるの? どこか痛いの!?」

 狼狽する唯を、淳は折れよとばかりに強く抱きしめた。

「うわっ、ちょっと……淳!?」

 唯の温もり、鼓動、髪の匂い。生きている。唯が、生きている。

(ただ延命させるのも、命を燃やし尽くさせることも違う……僕が探すべきは、命の長さと生きる輝きが綺麗に交差する『最適解』だ)

 淳の決意に満ちた闘いが始まった。

 淳は高校に通いながら、狂ったように医学書を取り寄せ、循環器内科の専門知識と最新の運動生理学を独学で叩き込んだ。唯の病気が発覚すると、取り乱す両親を落ち着かせ、自ら主治医のもとへ通い詰めた。高校生とは思えない専門知識と情熱で主治医をねじ伏せ、独自の「唯専用リハビリプログラム」を提示したのだ。

「先生、彼女からダンスを完全に奪えば、心の免疫力が落ちて逆効果になります。低負荷で、心拍数を120以上に上げない、特殊なストレッチと低負荷表現ダンスなら、心筋への負担を最小限に抑えられます!」

 淳は唯にコンテストのような過酷な舞台は諦めさせた。その代わり、ゆったりとしたテンポの楽曲に合わせ、指先、首の角度、表情のすべてを使って感情を表現する「新しいスタイルのダンス」を二人で手作りした。

「淳……これ、すごいよ。胸が苦しくならない。私、踊れてる……!」

 病院の中庭で、木漏れ日を浴びながらしなやかに腕を伸ばす唯の瞳に、あの眩しい輝きが戻っていた。

 病状を厳重にモニタリングし、1秒単位で活動量を管理する淳の徹底したケアと、生きる喜びを取り戻した唯のメンタルの充実。その相乗効果は、医学の常識を覆した。

 年を追うごとに、唯の心臓の数値は驚異的な回復を見せ、ついには「寛解」と診断されたのだ。

「淳! 私、病気に勝ったよ! 退院できるって!」

 抱きついて喜ぶ唯を、淳は万感の思いで受け止めた。

 退院後、唯の才能は一気に開花した。低負荷ダンスで養われた繊細な表現力と美しさは唯一無二のものとなり、彼女はオーディションを次々と突破。モデル、舞台女優、テレビ番組と、瞬く間にスターダムを駆け上がっていった。

「淳! 今日の舞台、見てくれた!? 私、今、生きてるって感じがするの!」

 テレビの向こうで、そして遠く離れた客席から見上げる舞台の上で、弾けるような笑顔を見せる唯。

 その輝きを見つめながら、淳は物陰で静かに涙を払った。

(よかった……唯。君の人生に、色を取り戻せて本当に良かった)

 ――しかし、運命は残酷だった。

 唯が華やかな世界で脚光を浴び、多忙を極めて淳とすれ違うようになっていった裏で。

 淳の体は、原因不明の激しい倦怠感と、手足の痺れ、そして急速な衰弱に蝕まれ始めていたのだった。


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