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和風ファンタジー&現代恋愛

恋の天使のひと騒ぎ

掲載日:2026/08/14

「ごめんなさい! 貴女(あなた)の左目、俺のせいです!!」


 帰宅途中の道で、学ラン青年に勢いよく頭を下げられ、しかも内容が意味不明だったことで私は固まった。


(……は?)

 どゆこと?


 目の前に立つのは、うちの学校(ガッコ)じゃ有名な3年生、春山(はるやま)元気(げんき)先輩だ。

 サッカー部所属のイケメンで、男女から人気が高く、転校間もなく学校事情に(うと)い私ですら名前を知っている。

 先日、額に目立つアザをこしらえて、学校で噂になっていた。

 

(打ち身かな?)

 いまだ痛々しい色をした肌が、明るめの髪の隙間からのぞいてる。


 ──てなことは置いといて。


「あの……人違いじゃないでしょうか?」


 戸惑いながら、返事した。


 私の左の眼帯(・・)は、"ものもらい"だ。

 細菌性の炎症。なかなか治らなくて困ってるけど、先輩のせいではない。だって私たちは今この瞬間まで面識なかったもの。


「人違い、ではないです。南田 瀬里奈(みなみだせりな)さんですよね?」


(えっ、なんでフルネーム知ってんの? こわ!)

 思わず引いた私を見て、春山先輩が苦笑する。とたんに人懐こい印象に変わる。


(……。顔がイイ……)

 ただでさえ整った容姿が、笑うと甘やか。なるほど、周囲が()かされるわけだ。これは見惚れる。そう納得してると、彼が言葉を継いだ。

 

「あ、すみません、いきなり。黒ワンピに黒タイツ。南田さんは目立ちますから。そのうえ守護霊が()えるとか」


(きゃああ! そんな話になってるの?)

 "ものもらい"のせいか、このごろ視界に、おかしなものが映ってた。


 人の後ろにぼやけた(モヤ)


 なんだろう? と思って、級友(クラスメイト)に話したのは、ひとりかふたりくらいだったのに……。

 変なものが見えるのは気持ち悪いから、問題の左目を眼帯でふさいでいた。


 衣替えのタイミングで、と、前の学校の制服をまだ着てるから、私は目立ってる。

 それがさっき、先輩の言っていた黒ワンピ黒タイツだ。


 そのうえ"霊"が()えるなんて広まってたら、完全にイタイ転校生。


(だからなかなか友達が出来なかったの……?)

 内心大きく嘆息する私に、春山先輩が再び謎な発言をした。


「南田さんが()えてるそれ(・・)、守護霊じゃないです。()えて言うなら、"恋の精霊"です」


「は!?!?」

(どうしよう!! おかしな先輩に絡まれちゃった!!)

 

 体どころか頭の中までフリーズして、なのに何故(なぜ)か私は、春山先輩に誘われるまま、道から公園へと場を移していた。


 だって私が()てるものが、"恋の精霊"だなんて言うから!

 じゃあじゃあ、灰田君(・・・)の背に浮かんでたあのモヤも、"恋の精霊"だってこと??


 気になる男子(・・・・・)の後ろに見えてたボヤボヤの(かたま)りが"恋の精霊"なら、それはどんな意味を持つの?


(もしかして、灰田君には好きな人がいるの──……?)


 春山先輩の話を信じてないのに、続きを聞かずにはいられなくて、フラフラ着いていった私。

 誰もいない公園で、先輩は突拍子のない説明を重ねてくれた。


「えっと、まず俺なんですけど。俺の正体は、恋愛担当の"天使"です」

(──!) 


「天界への報告に戻る途中、次元の切り替えをミスってしまって、現世回路のまま飛行機と接触しちゃったんです。その時、思い切り額を打ち付けて」

(──!!)


「ぶつかった衝撃で、つけてた"恋眼鏡"のレンズが地上に落ちたんですよ。で、慌てて追跡したんだけど、キャッチする前に、あなたの左目に落ちてしまって──」

(──!!!) 


「だから南田さんの左目、本来は人間に()えない"恋の精霊"が視えちゃってる状態なんです。でもレンズのピントは俺仕様で、南田さんの目には合ってない。だもんで、精霊の姿が、"モヤ"として映ってるんだと思います」

(!!!!!!)


 もし今、私に画像加工が出来るなら、カミナリ効果を背負(しょ)ってると思う!

(ないわ──……。飛行機にぶつかって、額にアザじゃ済まないよ)


 それ以前に自分を"天使"とは!!


(どこからどう、ツッコんだらいいの? 人気の先輩が、まさかこんなアブない人だったなんて。秘密を知っちゃって私、大丈夫(ダイジョブ)? 消される?)


 冷や汗流しながら呆然としてる私の視線を、先輩はどう受け止めたのか。


「この際、確かめてみますか? 左目、ちょっと失礼しても? ピントを合わせます」

「えっ?」


 気づくと私が答える前に、彼は私の眼帯をずらして軽く触れてた。なんつーナチュラルさ。


 そして途端に!!


 私の左目は、とんでもないものを映していた。


「あああっ! 羽! 先輩の背中に羽が!!」


 キラキラした白い羽が、春山先輩の背中から生えてる!! そのうえ神々しい後光なんかも()してるんですが?


「あ、()えました? ピント合いましたね」


 のん気に笑顔な先輩なんだけど。

 ええっ、これって特殊なんちゃらじゃなくて、本当に……? 


 混乱する私に、すっかり天使にしか見えない先輩が言う。元の美形度も相まって、まぶしい!


「本当は、そっとレンズだけを取り除かせて貰えたらと思っていたんです。でもそれには貴女(あなた)に触れないといけませんし、ご迷惑をおかけしたお詫びもしないとと思って。名乗り出ちゃいました」


「"名乗り出ちゃいました"ってそんな軽く……。いいんですか? 重要機密とか、そんなんじゃ??」


「もちろん、絶対厳守の秘密ですよ? だから申し訳ないんですが、このことは忘れてもらうつもりです」


「え? 忘れる……?」

「そう。夢を見たみたいに」


「なら、なんで(はな)したんですか?!」

「だから、お詫びをしようと思って」


「お詫びって一体どんな──」

「モヤが見えて、気になったことはなかったですか?」


 まさに。それが気になって先輩について来ちゃったんだった。

 灰田君の後ろに見えるボンヤリした影。


 聞いていいの?

 でも、聞きたくない内容だったら。


 灰田君に告白する前に、失恋しちゃうような話だったら。

 ためらっていると、天使な先輩が微笑んだ。


灰田忍君(・・・・)の後ろに視えてたもの(・・)なら、間違いなく"恋の精霊"ですよ」

 

 まだ何も! 聞いてないのに!

 なんで私の片思い相手を!!


 転校してすぐ、校内で迷子になった私を助けてくれて以来、何かと気遣ってくれる優しい灰田君。彼のことが気になって、いつの間にか目で追って、彼が嬉しそうにしていると、私の心まで温かくなって。

 それが恋だと気づいたのに、勇気がなくて、ずっと何も出来てなかった。その灰田君に、恋の精霊……?


 思わず先輩の目を見ると、彼はスッと私の後ろを()す。

 

貴女(あなた)の"恋精霊"と(つい)になる相手なのですが……」


 驚いて振り返ると、半透明に輝くまぁるいゆるキャラみたいなタマゴが、つぶらな瞳でモジモジしていた。


(私の後ろにもいた! "ツイ"って……二つで一組みたいな意味の? 灰田君の精霊と?)


 私の頭いっぱいに浮かんだ疑問符に対し、耳から先輩の柔らかな声が滑り込む。


「どちらの精霊も相当奥手(・・)で数年待ちのようなので、ちょっと後押ししておきますね。それで俺からのお詫びに代えさせてください」

「え?」


 耳元で先輩の声が(ささや)いた後、左目に一瞬のぬくもりを感じ。

 思わず閉じた目を開けると、ゆるキャラタマゴも先輩も消えていた。


(何……? 今の?)


 真昼に見た夢のように、淡く揺らめく現実に。

 公園に取り残された私だけが、ぽつんと(たたず)み。

 (きびす)を返すと、なんで自分がこんな寄り道してたのかさえ、思い出せなかった。


 

 そして、いつの間にか私の"ものもらい"はキレイに治ってて。

 翌月、衣替えした新しい制服姿で、私は灰田君に告白したのだった。


 突然湧き出た勇気は謎だったけど。

 同時に告白しあったタイミングは奇跡で、私たちは両想いに喜んだ。


(でも最近、空飛ぶ飛行機見たら春山先輩が思い浮かぶのは、なんでかなぁ? 話したこともない(・・・・・・・・)のに)



 秋晴れの飛行機雲は伸びやかに、白い線を描いていた。



 ―おしまい―




 お読みいただき有難うございます!


 このお話は2022年、ノベルアップ七海美桜様の個人企画「登場人物固定企画」第二回目に参加した作品です。

 七海様が用意された、たくさんのキャラクターから2名以上を選び、お話を作るというご企画でした。


 詳しくは、七海美桜様のhttps://novelup.plus/story/949739262/717860615 ですが、使用キャラはこちら。

---------

南田みなみだ 瀬里奈せりな


 黒ワンピセーラー、黒タイツ、黒ブレスレットで左目眼帯。

 前世や守護霊が視えるという高校2年生。始終、クラスメイトの「灰田忍」を見つめてる。一人称「私」

---------

春山はるやま 元気げんき


 王子様タイプでサッカー部。男女に人気の高身長キャラで高校3年生。

 明るめの茶色に近い髪。学ラン・スニーカー、額にアザあり、詩と読書が好き。一人称「俺」

---------



 いま私、アルファポリス様の「第1回児童書大賞」に参加してて。各サイトに散らばったお話を集めているのですが、これは……、他の方の企画でキャラなので、「短編集」https://www.alphapolis.co.jp/novel/790065991/31073779に収録するとややこしくなるかなぁと……。

 でもせっかくなので、こちらに転載しました。

 流行り関係なしの物語構成ですが、楽しんでいただけましたら嬉しいですヾ(*´∀`*)ノ


 ジャンルがね…、"ローファン"か"その他"か"童話"だと思うのですが、ローファンっていま異世界ばかりで、悩んだ末にとりあえず現実恋愛で。恋愛相手が名前しか出てきてない問題に唸りつつ。

 …灰田君を追記しちゃう??? 実は南田さんのことが気になって、何かと声かけてた灰田君!☆(*ゝω・*)/ でも灰田君も確かキャラ企画のひとりなので、うかつに書けない(涙)


-----

 千葉の皆様、大丈夫ですか? 豪雨のニュース映像に驚きました。

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普段は異世界恋愛が多いです!

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『実は身を引くつもりです。』
『余命一日。婚約破棄なら、ご勝手に!』
『求婚理由は、知りたくなかった』
― 新着の感想 ―
なんて素敵なラブストーリー、コメディ、そしてロマンスでしょう!彼女の目の由来がとても独創的だと思います。
拝読させていただきました。 恋する少女の前に現れたのはびっくりするほど不思議な天使。 しかし、なんとなく春山先輩の失敗後の事後処理が妙に手なられているような、
ほのぼの☆
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