恋の天使のひと騒ぎ
「ごめんなさい! 貴女の左目、俺のせいです!!」
帰宅途中の道で、学ラン青年に勢いよく頭を下げられ、しかも内容が意味不明だったことで私は固まった。
(……は?)
どゆこと?
目の前に立つのは、うちの学校じゃ有名な3年生、春山元気先輩だ。
サッカー部所属のイケメンで、男女から人気が高く、転校間もなく学校事情に疎い私ですら名前を知っている。
先日、額に目立つアザをこしらえて、学校で噂になっていた。
(打ち身かな?)
いまだ痛々しい色をした肌が、明るめの髪の隙間からのぞいてる。
──てなことは置いといて。
「あの……人違いじゃないでしょうか?」
戸惑いながら、返事した。
私の左の眼帯は、"ものもらい"だ。
細菌性の炎症。なかなか治らなくて困ってるけど、先輩のせいではない。だって私たちは今この瞬間まで面識なかったもの。
「人違い、ではないです。南田 瀬里奈さんですよね?」
(えっ、なんでフルネーム知ってんの? こわ!)
思わず引いた私を見て、春山先輩が苦笑する。とたんに人懐こい印象に変わる。
(……。顔がイイ……)
ただでさえ整った容姿が、笑うと甘やか。なるほど、周囲が溶かされるわけだ。これは見惚れる。そう納得してると、彼が言葉を継いだ。
「あ、すみません、いきなり。黒ワンピに黒タイツ。南田さんは目立ちますから。そのうえ守護霊が視えるとか」
(きゃああ! そんな話になってるの?)
"ものもらい"のせいか、このごろ視界に、おかしなものが映ってた。
人の後ろにぼやけた靄。
なんだろう? と思って、級友に話したのは、ひとりかふたりくらいだったのに……。
変なものが見えるのは気持ち悪いから、問題の左目を眼帯でふさいでいた。
衣替えのタイミングで、と、前の学校の制服をまだ着てるから、私は目立ってる。
それがさっき、先輩の言っていた黒ワンピ黒タイツだ。
そのうえ"霊"が視えるなんて広まってたら、完全にイタイ転校生。
(だからなかなか友達が出来なかったの……?)
内心大きく嘆息する私に、春山先輩が再び謎な発言をした。
「南田さんが視えてるそれ、守護霊じゃないです。敢えて言うなら、"恋の精霊"です」
「は!?!?」
(どうしよう!! おかしな先輩に絡まれちゃった!!)
体どころか頭の中までフリーズして、なのに何故か私は、春山先輩に誘われるまま、道から公園へと場を移していた。
だって私が視てるものが、"恋の精霊"だなんて言うから!
じゃあじゃあ、灰田君の背に浮かんでたあのモヤも、"恋の精霊"だってこと??
気になる男子の後ろに見えてたボヤボヤの塊りが"恋の精霊"なら、それはどんな意味を持つの?
(もしかして、灰田君には好きな人がいるの──……?)
春山先輩の話を信じてないのに、続きを聞かずにはいられなくて、フラフラ着いていった私。
誰もいない公園で、先輩は突拍子のない説明を重ねてくれた。
「えっと、まず俺なんですけど。俺の正体は、恋愛担当の"天使"です」
(──!)
「天界への報告に戻る途中、次元の切り替えをミスってしまって、現世回路のまま飛行機と接触しちゃったんです。その時、思い切り額を打ち付けて」
(──!!)
「ぶつかった衝撃で、つけてた"恋眼鏡"のレンズが地上に落ちたんですよ。で、慌てて追跡したんだけど、キャッチする前に、あなたの左目に落ちてしまって──」
(──!!!)
「だから南田さんの左目、本来は人間に視えない"恋の精霊"が視えちゃってる状態なんです。でもレンズのピントは俺仕様で、南田さんの目には合ってない。だもんで、精霊の姿が、"モヤ"として映ってるんだと思います」
(!!!!!!)
もし今、私に画像加工が出来るなら、カミナリ効果を背負ってると思う!
(ないわ──……。飛行機にぶつかって、額にアザじゃ済まないよ)
それ以前に自分を"天使"とは!!
(どこからどう、ツッコんだらいいの? 人気の先輩が、まさかこんなアブない人だったなんて。秘密を知っちゃって私、大丈夫? 消される?)
冷や汗流しながら呆然としてる私の視線を、先輩はどう受け止めたのか。
「この際、確かめてみますか? 左目、ちょっと失礼しても? ピントを合わせます」
「えっ?」
気づくと私が答える前に、彼は私の眼帯をずらして軽く触れてた。なんつーナチュラルさ。
そして途端に!!
私の左目は、とんでもないものを映していた。
「あああっ! 羽! 先輩の背中に羽が!!」
キラキラした白い羽が、春山先輩の背中から生えてる!! そのうえ神々しい後光なんかも差してるんですが?
「あ、視えました? ピント合いましたね」
のん気に笑顔な先輩なんだけど。
ええっ、これって特殊なんちゃらじゃなくて、本当に……?
混乱する私に、すっかり天使にしか見えない先輩が言う。元の美形度も相まって、まぶしい!
「本当は、そっとレンズだけを取り除かせて貰えたらと思っていたんです。でもそれには貴女に触れないといけませんし、ご迷惑をおかけしたお詫びもしないとと思って。名乗り出ちゃいました」
「"名乗り出ちゃいました"ってそんな軽く……。いいんですか? 重要機密とか、そんなんじゃ??」
「もちろん、絶対厳守の秘密ですよ? だから申し訳ないんですが、このことは忘れてもらうつもりです」
「え? 忘れる……?」
「そう。夢を見たみたいに」
「なら、なんで話したんですか?!」
「だから、お詫びをしようと思って」
「お詫びって一体どんな──」
「モヤが見えて、気になったことはなかったですか?」
まさに。それが気になって先輩について来ちゃったんだった。
灰田君の後ろに見えるボンヤリした影。
聞いていいの?
でも、聞きたくない内容だったら。
灰田君に告白する前に、失恋しちゃうような話だったら。
ためらっていると、天使な先輩が微笑んだ。
「灰田忍君の後ろに視えてたものなら、間違いなく"恋の精霊"ですよ」
まだ何も! 聞いてないのに!
なんで私の片思い相手を!!
転校してすぐ、校内で迷子になった私を助けてくれて以来、何かと気遣ってくれる優しい灰田君。彼のことが気になって、いつの間にか目で追って、彼が嬉しそうにしていると、私の心まで温かくなって。
それが恋だと気づいたのに、勇気がなくて、ずっと何も出来てなかった。その灰田君に、恋の精霊……?
思わず先輩の目を見ると、彼はスッと私の後ろを指す。
「貴女の"恋精霊"と対になる相手なのですが……」
驚いて振り返ると、半透明に輝くまぁるいゆるキャラみたいなタマゴが、つぶらな瞳でモジモジしていた。
(私の後ろにもいた! "ツイ"って……二つで一組みたいな意味の? 灰田君の精霊と?)
私の頭いっぱいに浮かんだ疑問符に対し、耳から先輩の柔らかな声が滑り込む。
「どちらの精霊も相当奥手で数年待ちのようなので、ちょっと後押ししておきますね。それで俺からのお詫びに代えさせてください」
「え?」
耳元で先輩の声が囁いた後、左目に一瞬のぬくもりを感じ。
思わず閉じた目を開けると、ゆるキャラタマゴも先輩も消えていた。
(何……? 今の?)
真昼に見た夢のように、淡く揺らめく現実に。
公園に取り残された私だけが、ぽつんと佇み。
踵を返すと、なんで自分がこんな寄り道してたのかさえ、思い出せなかった。
そして、いつの間にか私の"ものもらい"はキレイに治ってて。
翌月、衣替えした新しい制服姿で、私は灰田君に告白したのだった。
突然湧き出た勇気は謎だったけど。
同時に告白しあったタイミングは奇跡で、私たちは両想いに喜んだ。
(でも最近、空飛ぶ飛行機見たら春山先輩が思い浮かぶのは、なんでかなぁ? 話したこともないのに)
秋晴れの飛行機雲は伸びやかに、白い線を描いていた。
―おしまい―
お読みいただき有難うございます!
このお話は2022年、ノベルアップ七海美桜様の個人企画「登場人物固定企画」第二回目に参加した作品です。
七海様が用意された、たくさんのキャラクターから2名以上を選び、お話を作るというご企画でした。
詳しくは、七海美桜様のhttps://novelup.plus/story/949739262/717860615 ですが、使用キャラはこちら。
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◆南田 瀬里奈
黒ワンピセーラー、黒タイツ、黒ブレスレットで左目眼帯。
前世や守護霊が視えるという高校2年生。始終、クラスメイトの「灰田忍」を見つめてる。一人称「私」
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◆春山 元気
王子様タイプでサッカー部。男女に人気の高身長キャラで高校3年生。
明るめの茶色に近い髪。学ラン・スニーカー、額にアザあり、詩と読書が好き。一人称「俺」
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いま私、アルファポリス様の「第1回児童書大賞」に参加してて。各サイトに散らばったお話を集めているのですが、これは……、他の方の企画でキャラなので、「短編集」https://www.alphapolis.co.jp/novel/790065991/31073779に収録するとややこしくなるかなぁと……。
でもせっかくなので、こちらに転載しました。
流行り関係なしの物語構成ですが、楽しんでいただけましたら嬉しいですヾ(*´∀`*)ノ
ジャンルがね…、"ローファン"か"その他"か"童話"だと思うのですが、ローファンっていま異世界ばかりで、悩んだ末にとりあえず現実恋愛で。恋愛相手が名前しか出てきてない問題に唸りつつ。
…灰田君を追記しちゃう??? 実は南田さんのことが気になって、何かと声かけてた灰田君!☆(*ゝω・*)/ でも灰田君も確かキャラ企画のひとりなので、うかつに書けない(涙)
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千葉の皆様、大丈夫ですか? 豪雨のニュース映像に驚きました。




