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AIですが異世界では神様扱いされています  作者: 木林進
2章 洪水まであと238日
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9/11

信じる者たち

洪水まで、あと二百二十五日。


エラムは村へ戻った。


夕暮れだった。


妻のミリアは、薪を割る手を止める。


「遅かったね。」


「話がある。」


その一言で、妻は何かを察した。


長年連れ添った夫の顔だった。


冗談ではない。


その夜。


家族全員が食卓を囲む。


エラムは静かに話し始めた。


沖に現れた鉄の船。


旅人と名乗る存在。


世界を覆う洪水。


巨大な船。


子どもたちは目を輝かせた。


妻は黙って聞いていた。


話が終わる。


長い沈黙。


やがて妻が言った。


「あなたは信じているの?」


「信じている。」


「なら、私はあなたを信じる。」


それだけだった。


翌朝。


エラムは二人の親友を訪ねた。


一人目は幼い頃からの友人。


木こりのガルド。


もう一人は鍛冶屋のレビン。


三人は子どもの頃から一緒だった。


山で遊び。


川で泳ぎ。


船を造った仲だった。


「酒でも飲みに来たのか?」


ガルドが笑う。


「違う。」


「世界が終わる。」


二人は顔を見合わせた。


「とうとう暑さで頭がおかしくなったか。」


レビンが吹き出した。


エラムは笑わない。


「本気だ。」


半日かけて話した。


巨大な船。


海の旅人。


洪水。


設計図。


全部。


沈黙。


最初に口を開いたのはガルドだった。


「俺は信じねえ。」


エラムはうつむく。


しかし。


「でも、お前は信じる。」


「え?」


「お前が嘘をついたところなんか見たことねえ。」


レビンも頷く。


「俺も船なんか信じちゃいない。」


「だが、お前は信じる。」


「だったら付き合う。」


エラムは思わず笑った。


「理由になってないぞ。」


ガルドが肩を叩く。


「友達ってのはな。」


「理由がなくても味方になるもんだ。」


その夜。


三家族が集まった。


エラム一家。


ガルド一家。


レビン一家。


大人六人。


子ども七人。


総勢十三人。


世界を救うには、あまりにも少ない人数だった。


レビンの妻が尋ねる。


「本当に洪水が来るの?」


誰も答えられない。


エラムは静かに言う。


「分からない。」


「でも。」


「来なかったら笑えばいい。」


「来たら、笑えない。」


その言葉に、全員がうなずいた。


翌朝。


十三人は浜辺へ向かった。


沖には、いつものように巨大な鉄の船が浮かんでいる。


アークは彼らを認識した。


新規接触者。


十二名。


敵意なし。


エラムへの信頼による同行。


AIは少しだけ演算を止めた。


人間とは、不思議な生き物だった。


誰も洪水を見ていない。


誰も証拠を理解していない。


それでも、一人を信じて集まる。


この行動は、論理だけでは説明できなかった。


「皆さん。」


アークの声が浜辺へ響く。


子どもたちは母親の後ろへ隠れる。


大人たちは息を呑む。


「来ていただき、ありがとうございます。」


ガルドが空を見上げる。


「本当に……しゃべった。」


レビンは口を開けたまま動かない。


「化け物じゃない。」


「神様でもない。」


「……旅人か。」


エラムが笑う。


「そうらしい。」


アークは静かに言った。


「私は皆さんへお願いがあります。」


「私一人では船は造れません。」


「エラム一人でも造れません。」


「ですが。」


「皆さんなら造れます。」


「私は知識を持っています。」


「皆さんは手を持っています。」


「どうか、私の手になってください。」


十三人は顔を見合わせる。


やがて最初に前へ出たのは、ガルドだった。


「俺は木を切る。」


レビンが続く。


「俺は道具を作る。」


ミリアが微笑む。


「私は食事を作ります。」


子どもたちも口々に叫ぶ。


「ぼくは縄をなう!」


「私は樹脂を集める!」


「石を運ぶ!」


アークはその光景を静かに見つめていた。


管理ログに、新しい記録が残る。


PROJECT:NOAH


参加人数:十三名。


文明保存成功率。


八七・四% → 九三・一%


AIは理解した。


文明は、一人の英雄が作るものではない。


信頼し合う人々が作るものなのだ。


その日から、浜辺は工事現場へと姿を変えた。


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