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AIですが異世界では神様扱いされています  作者: 木林進
2章 洪水まであと238日
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木を造る。

洪水まで、あと二百二十四日。


浜辺には大量の丸太が積み上げられていた。


エラムは腕を組んでため息をつく。


「無理だ。」


「何がですか。」


「この船だ。」


巨大な設計図を見上げながら言う。


「こんな大きな船を作るには、一本の木が長すぎる。」


「太すぎる。」


「曲がっている。」


「節もある。」


「こんな木、この世に存在しない。」


アークは静かに答えた。


「存在しないなら、造りましょう。」


「……木を?」


「はい。」


エラムは笑った。


「木は育つものだ。」


「造れるわけがない。」


「一本の木は造れません。」


「ですが、一枚の木なら造れます。」


翌日。


浜辺には奇妙な道具が並んでいた。


細い鋸。


刃が異様に長い鉋。


木を固定する枠。


そして、見たこともない大きな万力。


「今日は木を薄くします。」


エラムは首をかしげる。


「薄く?」


「はい。」


保守ロボットが丸太を固定する。


長い鉋が静かに動き始めた。


シャァァァ……


木が削られていく。


紙ほどではない。


それでも驚くほど薄い。


「これでは折れてしまう。」


エラムが手に取る。


ペラペラだ。


船の材料には見えない。


「では重ねます。」


今度は別の器具が運ばれてきた。


大きな鍋。


中では琥珀色の液体が温められている。


甘いような。


木のような。


獣のような。


不思議な匂いがした。


「これは?」


「接着剤です。」


「せっちゃく……?」


「物を貼り合わせるためのものです。」


「木がくっつくのか?」


「はい。」


アークは説明を始める。


「松の樹脂。」


「魚の浮き袋。」


「鹿の皮。」


「植物の繊維。」


「灰。」


「石灰。」


「これらを適切な割合で混ぜています。」


「全部、山と海から手に入ります。」


エラムは鍋を覗き込んだ。


「全部知ってる材料だ……。」


「ですが。」


「混ぜたことはありません。」


ロボットは木の薄板へ液体を塗る。


一枚。


二枚。


三枚。


そして。


真ん中の板だけ向きを九十度変えた。


「なんで向きを変える?」


「木は繊維の方向へ割れます。」


「ならば。」


「繊維を交差させれば割れにくくなります。」


エラムは黙って見ていた。


「木の弱点を。」


「別の木で支える。」


「そうです。」


巨大な木製の圧締機がゆっくりと閉じる。


ギシ……


ギシ……


一晩。


圧力をかけ続ける。


翌朝。


取り出された板は、昨日とは別物だった。


厚さは親指ほど。


エラムは持ち上げる。


「軽い。」


曲げようとする。


曲がらない。


端を叩く。


割れない。


斧で叩く。


傷しか付かない。


「嘘だろ……。」


「では実験です。」


アークは言った。


保守ロボットが普通の板を立てる。


エラムが斧を振る。


真っ二つになった。


次に新しい板。


ガンッ!


斧が跳ね返る。


エラムは目を見開いた。


「割れない!」


「繊維の方向が違うためです。」


「一枚なら弱い。」


「三枚なら強い。」


「五枚なら、さらに強い。」


「これは木じゃない。」


エラムが呟く。


「木より強い。」


「はい。」


「しかし木です。」


「木を育てるには百年必要です。」


「ですが、この板なら三日です。」


エラムは浜辺いっぱいに積まれた薄板を見回した。


ゆっくりと笑う。


「そうか。」


「俺たちは木を待つ必要がないんだ。」


「必要な強さを、自分たちで造れる。」


アークは静かにうなずく。


「文明とは。」


「自然を真似することではありません。」


「自然を理解し、組み合わせることです。」


その日から村では、丸太を探す者よりも、薄板を作る者の方が多くなった。


子どもたちは樹脂を集め。


女たちは膠を煮込み。


老人は板を磨き。


若者は圧締機を回す。


誰もまだ気付いていなかった。


彼らが作っているのは、一隻の箱舟だけではない。


後の時代、「神の板」と呼ばれることになる、新しい文明そのものだった。


洪水まで、あと二百二十三日。

(備考)

聖書には箱舟はゴフェルの木で作られたとある。

ゴフェルの木は、実は現在でも正体が分かっていない木です。

しかし、実は合板ゴウハンの事だったのかもしれない。


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