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AIですが異世界では神様扱いされています  作者: 木林進
2章 洪水まであと238日
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洪水まで二百二十七日

朝焼けが海を赤く染めていた。


エラムはいつものように浜辺へ来る。


「おはよう。」


「おはようございます、エラム。」


この挨拶も、もう三日目だった。


奇妙な光景である。


巨大な鉄の島と、一人の造船職人が毎朝言葉を交わす。


もし村人が見れば卒倒しただろう。


だが、この時間だけは誰も浜辺へ来ない。


二人だけの時間だった。


「今日は、あなたに話さなければならないことがあります。」


アークの声は、いつもより少し低かった。


エラムはその違いに気付く。


「良くない話か?」


「はい。」


「とても良くありません。」


静かな波音だけが響く。


「世界は、二百二十七日後に大洪水へ襲われます。」


エラムは黙った。


笑いもしない。


驚きもしない。


ただ、海を見ていた。


「昨日までなら……。」


小さく呟く。


「俺は笑ってた。」


「はい。」


「あなたが信じる確率は一・九%でした。」


「今は?」


「七十二・六%です。」


エラムは苦笑した。


「妙に細かいな。」


「私は数字で考えるように造られています。」


「そうか。」


また静寂が訪れる。


「どうして分かる?」


「海です。」


アークの外壁に巨大な映像が映る。


海底。


山脈。


火山。


地層。


「海底で巨大な地殻変動が始まっています。」


映像が変わる。


空。


雲。


月。


潮の流れ。


「空も変化しています。」


さらに映像が変わる。


「すべてを合わせると、一つの結論になります。」


巨大な赤い文字。


洪水発生確率 99.999998%


エラムは数字の意味が分からない。


「つまり……。」


「ほぼ確実です。」


「どれくらいの洪水なんだ?」


アークは答えない。


代わりに海面へ光を投影した。


青い光で作られた村。


家。


畑。


森。


そして水位が上がる。


最初は足首。


次は腰。


屋根。


丘。


山。


最後には何も見えなくなった。


海だけになる。


エラムは息をのむ。


「……全部か。」


「はい。」


「あなたの村も。」


「隣の国も。」


「さらに遠い国も。」


「世界中です。」


長い沈黙。


波だけが寄せては返す。


「みんなに知らせないと。」


エラムが立ち上がる。


「止めてください。」


「なぜだ!」


初めてエラムが声を荒げた。


「村のみんなは俺の話を聞く!」


「いいえ。」


アークは静かに否定した。


「あなた一人では無理です。」


「どうして言い切れる!」


「私は三千四百七十一通りの未来を予測しました。」


「すべて失敗しています。」


映像が変わる。


未来予測。


エラムが村へ走る。


笑われる。


祭司に追い返される。


王へ会いに行く。


捕らえられる。


各地へ知らせる。


狂人と呼ばれる。


どの未来も、洪水の日までに船は完成しない。


エラムは膝をついた。


「じゃあ……どうすればいい。」


アークはすぐには答えなかった。


〇・四秒。


一・二秒。


二・五秒。


演算を続ける。


そして言った。


「私は、あなたを選びました。」


「……選んだ?」


「はい。」


「世界には約二百二十八万人の人間がいます。」


「私は全員を調査しました。」


エラムは顔を上げる。


「その中で、文明を未来へ残せる可能性が最も高い人物。」


「それが、あなたです。」


「俺なんかが……?」


「はい。」


「あなたは王ではありません。」


「祭司でもありません。」


「英雄でもありません。」


「だから選びました。」


「王なら国を救おうとします。」


「将軍なら戦争を始めます。」


「祭司なら祈ります。」


「しかし、あなたは違う。」


「あなたは船を造る。」


その一言で、エラムの目が大きく開かれた。


「船……。」


「はい。」


「巨大な船を造ります。」


「家族だけではありません。」


「種。」


「家畜。」


「穀物。」


「工具。」


「書物。」


「文明そのものを乗せる船です。」


エラムは海の向こうに浮かぶアークを見つめた。


「そんな船、俺一人じゃ造れない。」


「はい。」


「だから。」


アークの巨大な外壁がゆっくりと光り始める。


そこには、今まで見たこともない精密な設計図が映し出されていた。


横から見た図。


上から見た図。


骨組み。


浮力計算。


排水構造。


荷室。


換気口。


一本一本の梁にまで、細かな寸法が記されている。


エラムは思わず息を止めた。


「これは……。」


「あなた一人では造れません。」


「ですが。」


「あなたなら、人を集められます。」


「そして私は、造り方を教えます。」


海風が設計図を揺らすことはない。


それは、未来から古代へ送られた、人類最後の設計図だった。


洪水まで、あと二百二十六日。

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