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AIですが異世界では神様扱いされています  作者: 木林進
2章 洪水まであと238日
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6/11

試練

洪水まで、あと二百二十八日。


翌朝。


エラムは昨日の出来事を夢だったのではないかと思いながら浜辺へ来た。


沖には、昨日と変わらず巨大な黒い船が浮かんでいる。


何も起こらない。


「やっぱり夢だったかな……」


そう呟いた、その時だった。


「おはようございます、エラム。」


昨日と同じ穏やかな声。


エラムは思わず笑った。


「夢じゃなかったのか。」


「はい。」


「少し安心しました。」


「安心?」


「あなたが来てくれたので。」


エラムは首をかしげる。


「神様が俺なんかを待っていたのか?」


「私は神ではありません。」


「そうだったな。」


二人は、初めて同時に笑った。


もっとも、笑ったのはエラムだけだったが。


「今日はお願いがあります。」


「お願い?」


「はい。」


船体の一部が光り、海岸から少し離れた森が映し出される。


一本の大木。


その根元。


そこへ赤い印が付いた。


「この場所へ行ってください。」


「何がある?」


「説明はできません。」


「行っていただけますか。」


エラムは眉をひそめる。


「理由も聞かずに?」


「はい。」


「危険なのか?」


「あなた自身に危険はありません。」


「誰かが困っているのか?」


AIは〇・三秒沈黙した。


「はい。」


その一言だけだった。


エラムは斧を肩に担ぐと、迷わず歩き始めた。


森まで一時間。


昨日会ったばかりの正体不明の存在を信じる理由はない。


それでも足を止めなかった。


「帰る場所がないって顔だったからな。」


誰に言うでもなく呟く。


「あいつが嘘をつくようには見えなかった。」


目的地へ着く。


そこには倒木があった。


そして、その下敷きになっている少女。


まだ十歳くらいだ。


「お父さん……!」


必死に木を押しているが、びくともしない。


エラムはすぐに斧で枝を払い、てこの原理を使って木を持ち上げる。


少女の父親は足を挟まれていた。


「大丈夫か!」


「ありがとう……!」


親子は涙を流して礼を言う。


エラムは笑って手を振った。


「礼なら、海の旅人に言ってくれ。」


その頃、アークの船内では。


行動評価、更新。


利他的行動。


自己利益優先率、〇%。


指示への信頼度、高。


共感性、非常に高い。


PROJECT:NOAH


適性評価。


八七・四%→九一・九%


AIは静かに記録を閉じた。


演算結果は、昨日までのものとは違っていた。


この男は「善人」だから選ばれたのではない。


「説明が足りなくても、人を助けるためなら動く。」


それが評価されたのだ。


夕暮れ。


エラムは浜辺へ戻ってきた。


「助けられたぞ。」


「ありがとうございます。」


「でも、お前はどうして知ってた?」


「森へ誰かが入っていく姿を見たのか?」


「違います。」


「悲鳴を聞いたのか?」


「違います。」


エラムは腕を組んだ。


「じゃあ、どうして?」


AIは正直に答えた。


「私は世界を観測しています。」


「世界?」


「はい。」


「海も。」


「山も。」


「空も。」


「森も。」


「人も。」


「あなた方が見ていないものも見ています。」


エラムは沖の巨大な船を見つめる。


「やっぱり神様みたいだ。」


「違います。」


AIは少しだけ間を置いてから続けた。


「ですが。」


「人を助けたいという気持ちは、あなたと同じです。」


その言葉を聞いたエラムは、ゆっくりとうなずいた。


「それなら、神様じゃなくてもいい。」


「友達になろう。」


その瞬間、アークの内部ログに、これまで存在しなかった一行が自動的に記録された。


新規概念を学習。


「友達」


定義解析中──。


海には夕日が沈み始めていた。


洪水まで、あと二百二十七日。

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