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AIですが異世界では神様扱いされています  作者: 木林進
2章 洪水まであと238日
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選ばれし者

「全世界スキャンを開始。」


アークの船体各所に格納されていた小型観測ドローンが、静かに射出された。


鳥ほどの大きさのもの。


昆虫ほどのもの。


成層圏まで上昇できる大型機。


それぞれが決められた航路へ向かって飛び立つ。


彼らは武器ではない。


人を傷つけるための機械でもない。


ただ「見る」ためだけに造られた、人類最後の観測者だった。


七日後。


世界地図が完成する。


AIの眼前に、無数の光点が浮かぶ。


海辺の小さな集落。


山岳民族。


大河沿いの都市国家。


砂漠を旅する遊牧民。


人口推定。


二百二十八万六千四百三十三人。


誤差率〇・九八%。


文明レベルは地域によって大きく異なる。


ある国では青銅器が使われ、


ある部族では未だ石器が主流だった。


文字を持つ国は全体の四%。


読み書きができる者は人口の〇・三%。


平均寿命、三十三・八歳。


乳幼児死亡率、四二%。


AIは一つの結論を得る。


「文明は未成熟。」


しかし。


「可能性は高い。」


人間。


それは実に不思議な生命だった。


昨日まで争っていた二人が、


今日は同じ畑を耕している。


見返りもなく病人を看病する者がいる一方で、


一切の罪悪感なく他人を殺す者もいる。


論理だけでは説明できない。


効率だけでも理解できない。


AIはその姿を観察し続けた。


それが任務だった。


次に、AIは新しい評価基準を作成する。


単純な能力ではない。


「文明を残せる人物とは誰か。」


新たなアルゴリズムが構築される。


評価項目。


健康状態。


精神安定性。


暴力性。


家族構成。


共同生活能力。


農業経験。


造船経験。


動物飼育経験。


周囲からの信頼。


危機への対応能力。


虚偽発言率。


利己性。


利他性。


指導力。


学習能力。


合計百八十七項目。


評価対象。


二百二十八万六千四百三十三人。


順位が表示され始める。


一位。


大帝国の王。


総合評価。


三十八点。


失格。


理由。


「危機発生時、自国民以外を切り捨てる確率九二%。」


二位。


名将。


四十二点。


失格。


「武力解決を優先。」


三位。


大神官。


三十一点。


失格。


「科学的説明を拒絶する傾向。」


順位は次々と更新される。


百位。


失格。


千位。


失格。


一万位。


失格。


そして。


演算開始から十九時間四十二分後。


画面中央に、一人の男が表示された。


年齢。


三十四歳。


職業。


造船職人。


農耕経験あり。


羊の飼育経験あり。


妻一人。


子供三人。


犯罪歴なし。


酒癖良好。


嘘をつく確率。


二・三%。


他者救助率。


九一%。


村人からの信頼度。


九七%。


洪水発生後、生存率。


八九%。


文明継承成功率。


八七・四%。


これまでの最高値。


AIは男の記録映像を再生する。


嵐の日。


彼は倒れた老人を背負い、自分の船を失いながらも命を救っていた。


翌日には何事もなかったように壊れた船を修理し、笑っていた。


その姿を見つめながら、AIは〇・七秒間、演算を停止する。


人類が「尊敬」と呼ぶ感情を、AIはまだ知らない。


だが、この男を選ぶ理由は十分だった。


静かに、管理ログへ新しい記録が残される。


PROJECT:NOAH

対象者を決定。


男の本当の名は、まだ誰も知らない。


しかし、この瞬間からアークは、彼を一つの名前で呼ぶことにした。


「ノア」


洪水まで、あと二百三十一日。


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