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ある時後ろから転生令嬢  作者: 釈 余白


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7.令嬢は万能ではないらしい

 清田はニコニコしながら僕の自己紹介を聞いていた。飛び込みでやってきた初めての客が、わざわざ名乗るなんてことあるのか? と気づいてからの僕は、その失態を取り返したくて仕方ない。


 だが当然のようになにも起きず、なにもひらめかないまま時間は流れていく。


「井坪君に御幸(ごこう)さんですね。ちなみに僕は『きよた』ではなく『せいた』と読むんだ。良く間違われるから気にしないでくれたまえ。ちなみにこう見えてもまだ四十四で若いつもりなんだよ?」


 そう言われても高校生から見れば四十台も五十台もさほど変わらない印象だ。髪の毛が真っ白だから普段大分年取って見られるのだろうか。だが短めに整えられた銀髪はなんと言うか清田という男性の魅力の一つのように思える。


「なるほど、ネジを巻いても動かないと。確かに巻いた感触がないから壊れているのは確かだろうね。時間が平気なら中を開けて少し見てみるけどいいかな?」


「はい…… お願いします……」


 相変わらず三重の視線は清田の顔を見据えたままである。しかもこんな色気のある表情をすることがあるのかってくらい今まで見たことの無い幼馴染の姿に、僕は動揺を表に出さないよう取り繕うのに精いっぱいだ。


『ねえみーちゃん、この空間おかしいと思わないこと? 違和感と言うのか不快感と言うのか、そのような空気が室内を支配しているのだわ』


『それは僕も感じてるよ。特にあの人自身と名刺の繋がりが希薄と言うのか、まさか店主を騙って居座ってるなんてことないだろうけどなぁ』


『わたくしの見立てでは、あの店主憑りつかれていると感じるのだわ。古物に宿った霊に浸食されているのではないかしら』


『ええっ!? そんなことあるの? もしかして三重が危ないんじゃないのか?』


『霊と言っても様々なのだから即危険と判断はできないわ。けれど普通ではないものや悪意のこもった物に触れ続けていると意識を持っていかれてしまう。それが原因で社会的な障害、たとえば交通事故に遭遇することは十分考えられるのだわ』


『ローズも霊の仲間だよな? それで僕は浸食されているってこと? そう聞くとなんだか微妙な気持ちになってくるよ……』


『まったく失礼なこと言うのだわ。わたくしはどうみても悪意など持っていないでしょう? 言うなれば善性の精霊と捉えてほしくてよ?』


『じゃあその精霊様の力で悪霊をやっつけてくれよ。そうしたら全て解決ってもんだろ?』


『あなたはわたくしをなんだと思っているのかしら。どう見ても高貴な貴族令嬢ではなくて? それが悪霊とどう戦うことができると言うのか、考えを聞かせて下さらないかしら』


 まったくこの令嬢ときたら偉そうに振舞っているわりに役立たずである。出来ることと言えば所構わず僕に話しかけてくることと、悪霊だか精霊だかを感じ取れることくらいとは。それじゃこれからどうしたらいいんだろう。


 そんな話をしているうちに、懐中時計について何か進展があったようだ。店主の清田氏が三重へと話しかけている。


「それでは御幸さん、この時計の出どこはわからないのですね? 代々受け継いできたと言うことは相当古いものであるのは間違いないだろう。しかしこれは懐中時計が産まれたとされる十七世紀前後よりまだ古い可能性があるよ」


「なんでそんなことがわかるんですか? まだ中を見たわけではないですよね?」


 ぼーっとしたまま受け答えが出来そうにない三重の代わりに僕が尋ねてみた。もちろん専門家の解説を理解できるかと言えばそれは怪しい。だがそんなことは別として、疑問点はその場で聞いておきたい性分なのだ。


「この電子顕微鏡で見る限りだけど、金の組成が近代の物と大きく異なるからだね。こういった強度が必要なものに純金が使われないのは何となくわかると思うけど、その為に金を生成して純金にした後、用途に応じた不純物を混ぜていくんだ。しかしこの懐中時計のケースに使われているのは精密に管理された工法ではなく自然採掘した金をそのまま溶かして使ったような形跡があるのさ」


「つまり……? 難しくてよくわかりませんが、現代とは作り方が違うってことですかね? でもそれだけじゃ断定はできないんじゃ?」


「わかりやすく言えばそうなるね。もちろんもっと詳しく調べるなら、それなりの研究施設へ依頼するとか本格的な解析が必要になるだろう。もしかしたら世紀の大発見、なんてことにもなりかねない!」


 清田氏はやたら興奮し始めて拳を握りしめ力説している。だがそんな大仰なことになったら三重の手元からこの懐中時計は取り上げられてしまうだろう。僕はそれが良いことのようには思えず考え込んでしまった。


「だけどね、それを決めるのは私ではない。持ち主である御幸さんが良く考えて決めることだと思うんだ。ちなみに残念だが修理はほぼ無理だと思ってもらいたい。このケースは一体成型で裏蓋が無くムーブメントを取り出すことが出来ないんだ。全て組み上げられた後に水晶で蓋をして、合わせ目に金を流し込んで埋めてあるからね」


「と言うことは分解するには壊さないといけないと言うことですね。三重、理解できてるかい? 残念だけど諦めるしかなさそうだね」


 三重はコクリと頷き、僕たちは『精密堂』を後にした。



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