14.令嬢の推理は良く当たるらしい
そう広くない店内を物色し始めてからすぐ、カウンターのほうからカシャカシャと音が聞こえてきた。どうやら撮影を始めたようだ。
ということは時間に余裕はない。もちろん撮影が終わってからも店内に残って調べることも可能だろう。でも三重がおかしくならないうちに精密堂を後にしたい。
今はとにかく急がなければ。そう考えて店内を見て回るが特にそれっぽいものは見つからない。
そうは言っても実際に探しているのはローズなので僕はただ歩いているだけ。こんなんで解決になるんだろうかと疑問に思い始めていた。
そうこうしているうちに撮影は終わったらしく、清田からカウンター越しに声がかけられた。
「御幸さん、お待たせしました。懐中時計をお返ししますね。いやあ貴重な資料をありがとうございました」
「いいえ、なにかのお役にたてるなら良かったです。それでその…… やっぱり貴重と言うかすごく古いものと言うのは確かですか?」
「現時点で絶対にとは言い切れませんが、僕の知識の中では非常に貴重なものの可能性が高いとだけ言っておきましょう。もしかしたら写真の解析結果いかんで、再度連絡を取らせていただくかもしれません」
「はい、わかりました。その時はまたお願いします」
そんな当たり障りのない会話をしている三重と清田だが、先日と違って様子はいたって普通だ。この間、三重がおかしく見えたのは気のせいだったのだろうか。
『ボーン、ボーン――――――』
ここで売りものらしき柱時計が正午を知らせるように鐘を十二回鳴らした。
『みーちゃん! 注意しなさい。様子がおかしいのだわ』
『え!? どういうこと? 別におかしくなかったと思うけど?』
突然ローズが反応を見せたため僕は緊張しながら三重の様子を再確認する。するとたった今、ごく普通に接していたはずなのに高潮する頬が目に入る。
「三重? 大丈夫か?」
「うん、大丈夫だけどどうかしたの? みーちゃんこそ急にそんなこと言うなんて大丈夫?」
振り向いた三重の表情は明らかにさっきと違っていて、トロンとまぶたが少し重そうで頬は真っ赤に染まっている。
清田にちらりと目をやりその様子を確認するが、こちらはおかしな様子がない。いったいどういうことだろうか。
『どうやら先ほどの時計の音、あれがきっかけのようだわ。十二時の鐘が鳴ると効果が表れるのかもしれない。そう思わなくて?』
『僕には何の知識も能力もないんだ。ローズが言うことを信じるしかないよ。つまりあの柱時計が怪しいってこと?』
『おそらくは、ね。効果のある時間が限定されているのではないかしら。たとえば正午から深夜零時までとかいかがかしらね』
『確かにそれはあるかもしれない。でもそれをどうしたらいいんだろう。このままだと三重が危ないなんてこともありそうだし……』
『そうね。さすがに売り物を勝手に壊してしまうのは問題でしょうけれど、この午後の時間に近寄らなければいいのではないかしら。彼が悪霊に憑りつかれていても関わり合いにならなければ済むのだしね』
『確かにそうかもしれないけど、この先もまた連絡があるかもしれないし、もしかしたら三重から訪ねてしまうかもしれないだろ? ここでどうにかやっつけたりできないものなのか?』
『では試しにあの時計を攻撃してみましょうか。わたくしのように誰かに見える形で顕現しているならいくらでもやりようはあるけれど、目標がないので効果も約束できませんわよ?』
『それでも頼むよ。頼れるのはローズだけなんだ』
僕は思わず神頼みじゃなく霊頼みをしてしまった。でもほかに頼れる相手がいないのは事実である。
そんなやり取りが一息ついた瞬間、ローズはこの間見せてくれたように甲冑姿に変わりレイピアを構えた。
ローズが僕を促し柱時計のところへ進んでいくと突然攻撃を始める。まるでフェンシングをするように何度も何度も時計を突いた。
そんな様子を見ているだけとは言え、なにかが起こったようには見えない。悪霊が飛び出してくるとか、断末魔が聞こえるわけでもない。
しかしその効果は確実にあると、僕は直後知ることになった。




