13.令嬢は探偵のまね事も好きらしい
その週の土曜日、僕と三重は再び精密堂を訪れていた。本当は三重の両親も一緒に来るつもりだったのだが――
父親は仕事で不在、母親は写真を撮ることくらい構わないでしょうとのんきなもんだ。第一、それくらいのためにわざわざ同行する必要はない僕らを送り出していた。
「三重? 本当に不安はないんだな? 僕はどうもあの清田って男が信用できないんだ。いや、あの人と言うより骨董屋とか学者自体をだけどね」
「なんでそんなに警戒してるの? 私にはそんな悪い人には思えないよ?」
「なんとなくだからうまく説明できないけど、その懐中時計が貴重なものや学術的な新発見がありそうだなんて話してた時の目を見たらそりゃね。なんだかんだ言いくるめて取り上げられたら困るじゃないか」
「そうならないようにみーちゃんが一緒に来てくれてるんでしょ? お母さんじゃ頼りにならないから、私はホッとしてるの―― あっ、あれ!?」
「ん? どうした? なにかおかしなことでもあったのか?」
「ううん、なんでもない。うふふ」
三重は突然機嫌を良くして笑顔になっている。まったくわけがわからない。
『どうにもわからないと言った様子ね。まったく女心に気づけないなんて鈍い殿方ってこれだから困るのだわ。彼女は思わずみーちゃんと言ってしまったのに、あなたから咎められなかったことを喜んでいるのよ? それくらい察しても良くてよ?』
そう言われてみると確かにそうだ。ローズに毎日みーちゃんと呼ばれ続けていることですっかり慣れてしまってもはや抵抗する気持ちは失せている。
それは三重に対しても同じことで、もうなんと呼ばれようがどうでもいい。ただし深山と名前そのままで呼ばれるのだけは絶対勘弁、みーちゃん呼びならまだマシだ。
そんなどうでもいいことを考えているうちに店内から察知されたようで、不健康そうな白髪姿がぬっと顔を出した。
「どうもキミたちは店の前にたむろするのが好きらしいね。それとも遠慮だったり入りづらい理由でもあるのかい?」
「そう言うわけではないですけど、積極的に入りたいとも思いませんね。でも付添だから仕方ありません」
僕は少々のイヤミをこめて清田を牽制してみたのだが、そのことに反応を見せたのは別の人だった。
『あら、随分とはっきりと言い切るのね。みーちゃんでも男気を見せるときがあると言うことかしら。なんといっても愛する女性を伴っているのだもの』
『それは今関係ないだろ! あの清田って男が怪しいのは確かだし、ローズの言うように得体のしれないなにかに憑りつかれているってのも信じているからね』
『素直に信じてくれてうれしく思うのだわ。問題はそれが何なのか、そしてそれがどこにあるのかをなるべく早く明らかにすることかしら』
ローズの言うことはもっともだし僕も早めに何とかしたいとは思っている。でもそれを他人の家と言うか店の中で探すのは正直難しいんじゃないだろうか。
だがこちらにとって都合のよすぎる展開が待っていた。
「今日は例の懐中時計の写真を撮らせてもらうんだけど、スマホでパシャリなんてもんじゃないから多少時間がかかるんだ。それまで店内でも物色していてくれ。骨董屋なんて敷居が高そうに思うかもしれないけど、意外に小遣い程度で買えるものもあるんだよ?」
「はあ、それじゃ適当に見ながら待っていますね。三重はどうする?」
「私は…… ううん、みーちゃんと一緒に見てみようかな」
どうやら今日はあまりおかしい感じになっていないようだ。目元がわずかに下がっているようにも見えるけど、こないだのようにうっとりした感じではなかった。
清田はと言うと三脚に据えた大きなカメラをいじっていて準備に余念がない。作業台の上にはシーツが敷かれて懐中時計が置いてあるのが見える。
今のところ怪しい動きはないし、夜中にあったときのような攻撃的な雰囲気も感じない。これなら心配する必要はなさそうだ。
それよりもこの隙になにかしら手がかりを見つけたい。
『もしなんらかの反応があったら教えるから、手に取るか、せめて触れるかしていただけるかしら? そうすれば何かつかめるかもしれないわ』
『わかった。でも今のところはなにも感じないんだよね? いったいどんなものなんだろう。せめてそれくらいわかればいいんだけどなあ』
『今は彼から感じる怪しげな気配が減っているのも少々不思議なのだわ。そこになにかしらの鍵があるかもしれないわ』
『とにかくこの短時間で全部見てみるしかないな』
僕はそんな決意を胸に店内を物色し始めるのだった。




