12.令嬢は嘘が嫌いらしい
全くもってやつの言うとおりだ。今はもう日付が変わろうかと言う時間になる。そんな深夜に高校生が繁華街に近い街中で何をしているのか?
どう考えてもまともではないし、まして他人の行動を咎めるように尋ねられる立場でないことは明らかだ。
「いえ、僕は、その、ジョギングしてただけですけど……」
我ながら苦しすぎる言い訳だとは思うが、今はこれでごまかすしかない。今日はここを乗り切ってさっさと帰るのが得策だろう。
「へえ、ジョギングねぇ。なにもこんな遅い時間でなくてもいいんじゃない? 警官に見つかったら補導されかねないよ?」
「思いつきで今日から始めたので…… それよりも清田さんは――」
僕はどさくさに紛れて聞き返そうとした。しかし全てを言い終わる前に、その問いへ答えるはずの清田の姿が突然視界から消えてしまった。
ハッとしてキョロキョロと左右へ首を振ると、いつのまにか少し離れた右側にやつは移動していた。明らかに人の動きではない、ように感じる。
「ちょっとキミ? もしかして今僕に危害を加えようとしなかった? でも無駄無駄、僕には不思議な力があるから誰も近づけやしないのさ」
「ちょっと待ってください? なんで僕が危害を加えると思ったんですか? たかが高校生が大人の男へ向かってケンカを売るような真似するはずありませんよ」
「それは僕にもわからないな。なにせこの力は制御不能なんだ」
『みーちゃん? その力を得たのがいつごろなのか。さらに言えば何を取り扱った辺りからそうなったのか、さらにさらに聞けるのなら白髪になったのもそのころなのか問い詰めてみなさいな』
『随分と注文が多いんだから…… でも確かに気になるところではあるね』
「清田さん、失礼だとわかっていながらうかがうんですけど、その髪の毛と不思議な力って関係あるような気がしませんか? それになにかきっかけになる骨董品を手に入れた覚えがあるとか?」
「なんでそんなことを聞くんだい? まさかキミはなにかを知っていてこの力を奪いに来たのかね? それともただ単に大切な彼女が奪われてしまわないようくぎを刺しに来たとか?」
「三重のことは今関係ないです。いや、関係なくはないけど関係ない!」
「やれやれ、いったいどっちなんだい? だが心配する気持ちもわかるよ。僕にもよくわからないんだが、この頭になってからやけに女性にモテるようになってね」
「やっぱり…… 自覚があるなら話は早い。あなたには悪霊が憑りついているんですよ。このままだと早く歳をとってしまって取り返しのつかないことになるかもしれない!」
『ちょっとみーちゃん? わたくしはそこまで言っていないわよ? ウソも方便と言うけれどいくらなんでも命にかかわるような嘘は褒められないのだわ』
『でも実年齢よりも歳をとってしまっているのは事実だろ? 推測だけど悪霊ならそれくらいのことがあってもおかしくないよ』
『まあ相手が悪霊とは限らないのだけれどね。ただの副作用かもしれないし、彼を守ろうとしているのだから必ずしも悪意がすべてではないと考えられるのだわ』
『もう…… いったいどっちなんだよ。僕だってなにもわからないままに来ちゃってるんだからさ。考えがまとまってないのに行動へ移せと言ったくせに無責任が過ぎるよ……』
そんなやり取りをしているところへ嫌なことが重なってしまう。今一番あいたくない相手、つまり警察官のパトロールが来てしまったのだ。
「キミたち? そこで何しているんだ? ケンカならやめなさい。ん? キミはまだ高校生くらいじゃないか? こんな時間に何をしているんだ」
「いえ、別に…… ジョギングしてただけですし、この人は知り合いです」
「高校生がジョギングするにはだいぶ遅い時間だな。親御さんは知っているのか?」
「もちろん知ってますよ。塾へ行ってからジョギングだとこのくらいの時間になってしまうんです。ついでだから知り合いの骨董屋さんに歴史のことでちょっと話を聞こうと思って……」
「そ、そうなんです。ですが説明に時間がかかって遅くなってしまいましてね? だからこれから送って行こうと思ったんですが一人で大丈夫だと言われて押し問答です」
「いくら高校生と言ってももう子供じゃないんですから一人で大丈夫なんですよ。それなのに子ども扱いするからつい逆らってしまいました」
口から出まかせがよく出るもんだと自分でも感心する。もしかしてローズのせいで僕はおしゃべりになってしまったんじゃないだろうか。
結局、清田に送られて僕は家の近くまでやってくることになってしまった。しかし自宅を知られるのはなんとなくはばかられたので、僕は適当な辺りで走りだし帰ったのだった。




