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第96話 湯気の向こう
山村。
夜。
囲炉裏。
湯気。
味噌の香り。
小さな椀。
子どもが笑っていた。
女が火を見る。
老人が息を吐く。
「今年は、まだ生きてるな」
誰も笑わない。
戦国では。
それが重い言葉だった。
去年は。
病が近かった。
腹が減った。
雪が深かった。
だが。
今年は少し違う。
薬が届く。
塩が届く。
橋の話が来る。
若者がぽつりと言う。
「遠い城の人って、何してるんだろな」
老人は火を見る。
長い沈黙。
そして。
小さく言った。
「……多分、寝てねえ」
囲炉裏の周りで。
少しだけ笑いが起きた。
外は寒い。
だが。
火の周りだけは暖かかった。
生きる。
その小さな積み重ねが。
今日も静かに続いていた。
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