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第94話 遠い噂
関東。
宿場。
雨が屋根を叩いていた。
旅人たちが酒を飲む。
湯気。
濡れた足袋。
疲れた顔。
「上杉の魔王」
また誰かが言った。
最近。
その名を聞くことが増えた。
「戦か?」
「違う」
男が笑う。
「橋だ」
静かな笑い。
「またか」
「今度は堤らしい」
誰かが眉を上げる。
「……戦より怖えな」
ぽつり。
小さな声。
笑いが止まる。
皆。
何となく意味が分かった。
住める国。
飢えぬ国。
逃げなくていい国。
そういう国は。
兵より厄介だった。
酒の匂い。
湿った空気。
雨音。
噂は。
少しずつ形を変えていた。
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