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愛を捨てし軍神の娘は、魔王に堕つ ―十一歳、上杉兼継 覚醒―  作者: 竜太郎


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第89話 朝靄の橋

朝。


越後。


川に靄がかかっていた。


濡れた木。


湿った縄。


川辺では、男たちが橋を組んでいる。


木を削る音。


縄を引く声。


濡れた土を踏む音。


「急げ」


怒号ではない。


低い声だった。


兼継が立っている。


濡れた裾。


眠れていない目。


それでも。


視線だけは止まらない。


橋が遅れれば。


荷が遅れる。


荷が遅れれば。


人が削れる。


兵が木を担ぐ。


村人が杭を押さえる。


若い者。


老いた者。


皆、少し無口だった。


春だというのに寒い。


指が動かない。


だが。


誰も帰らぬ。


兼継が歩く。


それだけで。


少しだけ手が速くなる。


怖さではない。


この人は。


本当に最後まで立っている。


そんな空気だった。


朝靄の向こう。


橋が、少しだけ形になり始めていた。


(次話へ)


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