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愛を捨てし軍神の娘は、魔王に堕つ ―十一歳、上杉兼継 覚醒―  作者: 竜太郎


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第88話 夜の帳面

夜。


越後。


城の灯が、静かに揺れていた。


昼の泥は、まだ乾いていない。


濡れた足袋。


冷えた指。


兼継は、座していた。


前には帳面。


墨。


積まれた報。


北村。


荷、到着。


南。


堤、補修途中。


山村。


病、少し減少。


小さな文字。


小さな報。


だが。


どれも、人の暮らしだった。


外では風が鳴る。


春とはいえ。


越後の夜は、まだ寒い。


兼継は紙へ指を置いた。


戦なら。


もっと分かりやすい。


敵がいる。


勝ち負けがある。


血が流れる。


終わりもある。


だが。


国は違う。


少し放れば崩れる。


少し積めば、生きる。


終わりがない。


家臣が静かに入る。


「北村より」


文だった。


兼継が開く。


短い字。


“荷、届く”


それだけ。


だが。


兼継は少しだけ目を閉じた。


誰かが今日、生き延びた。


たぶん。


それでいい。


灯が揺れる。


墨の匂い。


冷えた夜。


兼継はまた帳面を開いた。


まだ終わらない。


国は、明日も続く。


(次話へ)


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