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愛を捨てし軍神の娘は、魔王に堕つ ―十一歳、上杉兼継 覚醒―  作者: 竜太郎


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第57話「越後の商隊」

越後の山道。


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雨上がり。


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泥は、まだ深い。


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「止まるなー!!」


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商人が、怒鳴る。


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荷車。


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米。


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塩。


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布。


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越後へ向かう商隊だった。


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「最近、上杉領は道が良くなったな」


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若い商人が、驚いた顔をする。


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以前は違った。


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山道。


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泥。


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崩落。


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最悪だった。


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だが。


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最近は。


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妙に整備されている。


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「兼継様が変えたらしいぞ」


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別の商人が、笑う。


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「戦ばっかやる人かと思ってたけどな」


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周囲が、少し笑った。


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噂は、広がっていた。


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火輪銃。


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魔王。


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川中島。


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だが。


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最近は別の話も増えている。


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“道を直した”


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“村を残した”


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“商隊を守った”


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少しずつ。


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上杉兼継の見え方が変わり始めていた。


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その頃。


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兼継は、倉を見ていた。


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米俵。


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塩。


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兵糧。


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「北側は」


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家臣が、即座に答える。


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「まだ不足しております」


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兼継は、静かに頷く。


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戦。


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だけではない。


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兵糧が切れれば。


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国が死ぬ。


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最近。


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ようやく。


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その重さを理解し始めていた。


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「……商人は」


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「増えております」


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その言葉に。


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兼継の目が、少しだけ動く。


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金が動けば。


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国も動く。


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それを。


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信長は、もっと先で見ている。


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「……尾張か」


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ぽつりと呟く。


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まだ遠い。


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だが。


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確実に。


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あの男は、時代を変え始めている。


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兼継は、少しだけ笑った。


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「負けられんな」


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静かな声だった。


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(次話へ)


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