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愛を捨てし軍神の娘は、魔王に堕つ ―十一歳、上杉兼継 覚醒―  作者: 竜太郎


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第58話「武田の冬支度」

甲斐。


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山風は、冷たい。


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「薪が足りねえぞ!!」


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兵が、叫ぶ。


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武田領は、豊かではない。


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越後ほど米はない。


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尾張ほど金もない。


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だから。


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備える。


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「信玄様!」


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若い兵が、駆け寄る。


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「今年の冬は厳しいかと!」


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信玄は、鍬を持ったまま笑った。


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「毎年だ」


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即答。


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周囲が、少し笑う。


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武田信玄。


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戦場では怪物。


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だが。


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甲斐では。


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普通に土を触る。


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「堤は」


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「補強中です!」


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「なら問題ねえ」


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簡単に言う。


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だが。


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兵たちは知っている。


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この男。


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戦だけじゃない。


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“生き残り方”を知っている。


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その頃。


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越後。


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兼継は、武田の報を聞いていた。


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「信玄、自ら治水工事参加」


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兼継は、少しだけ目を閉じる。


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「……らしいな」


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戦場で。


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あれだけの怪物。


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だが。


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民の前では違う。


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そこが。


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武田信玄の強さ。


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「簡単には崩れんな」


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ぽつりと呟く。


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武田は。


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まだ終わらない。


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だから。


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戦国も、まだ終わらない。


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(次話へ)


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