第51話「名も無き城」
越後の端。
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小さな山城。
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名前すら。
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戦国の地図には、ほぼ載らない。
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だが。
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そこでも。
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戦は起きていた。
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「上杉が来るぞ!!」
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地方豪族たちが、慌てる。
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兵数は、少ない。
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百。
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二百。
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その程度。
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だが。
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彼らにとっては、生き残りの戦。
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「どうする!」
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老豪族が、震える。
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その時。
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若い男が、静かに言った。
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「降るべきです」
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空気が、止まる。
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「何だと!?」
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当然だった。
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戦国。
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降伏は、恥。
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だが。
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若い男は、静かだった。
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「上杉兼継は、必要ない殺しをしない」
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沈黙。
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川中島の噂。
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民への対応。
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補給。
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統治。
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少しずつ。
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広がり始めていた。
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「……本当か」
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老豪族が、震えながら問う。
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若者は、頷く。
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「少なくとも」
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「武田や北条より、生き残れる」
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その言葉。
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全員が、黙った。
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戦国。
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“どこへ付くか”。
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それだけで。
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家が生きるか死ぬか決まる。
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数日後。
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上杉軍が来る。
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だが。
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戦は起きなかった。
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小城は、門を開いた。
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兼継は、静かにそれを見ていた。
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「……賢いな」
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ぽつりと呟く。
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血を流さず。
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城を得る。
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理想。
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その瞬間。
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老臣が、少しだけ笑った。
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「兼継様も、変わられましたな」
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以前なら。
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恐怖で支配していた。
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だが。
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今は違う。
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“生かして従わせる”。
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少しずつ。
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魔王は。
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“国”を学び始めていた。
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