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愛を捨てし軍神の娘は、魔王に堕つ ―十一歳、上杉兼継 覚醒―  作者: 竜太郎


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第50話「春の越後」

雪解けが、進んでいた。


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越後。


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田畑。


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水路。


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人。


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戦は続く。


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だが。


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民は、生きる。


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「今年は、水が良いな」


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農民たちが、空を見る。


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戦国。


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それでも。


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春は来る。


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兼継は、静かに堤を見ていた。


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川。


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流れ。


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土。


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「……弱いな」


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ぽつりと呟く。


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家臣が、慌てて頭を下げる。


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「申し訳ございません」


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兼継は、首を横に振る。


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「違う」


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土を見る。


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「戦ばかり見ていた」


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静かな声。


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堤が崩れれば。


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民が死ぬ。


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つまり。


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国が死ぬ。


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「補強しろ」


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即答。


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「今すぐ」


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家臣たちが、一斉に動き出す。


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兼継は、少しだけ空を見る。


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戦だけでは。


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天下は取れない。


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その感覚が。


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少しずつ、生まれ始めていた。


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その頃。


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甲斐。


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信玄は、農民と話していた。


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「今年はどうだ」


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百姓が、笑う。


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「水が足りませんな」


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信玄は、頷く。


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「なら掘るか」


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即答。


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周囲が、少し笑う。


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武田信玄は。


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こういう男だった。


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戦場では怪物。


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だが。


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民の前では、普通に座る。


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その姿を。


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若い兵が、じっと見ていた。


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「……だから皆、信玄様についていくのか」


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ぽつりと呟く。


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遠く。


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尾張。


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信長は、鉄を見ていた。


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「足りねえな」


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火縄銃。


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鉄。


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流通。


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全部、まだ足りない。


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「急ぐな」


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珍しく。


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自分へ言い聞かせるように呟く。


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戦国は、長い。


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まだ。


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壊すには早い。


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その目。


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少しだけ。


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静かだった。


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(次話へ)


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