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愛を捨てし軍神の娘は、魔王に堕つ ―十一歳、上杉兼継 覚醒―  作者: 竜太郎


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第44話「第六天」

尾張。


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夜。


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静かだった。


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だが。


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織田信長だけは、笑っていた。


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「ははっ……」


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机の上。


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越後戦の報。


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武田軍損耗。


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火輪銃配置。


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包囲戦。


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全部が並んでいる。


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「いいな」


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ぽつりと呟く。


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「最高だ」


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家臣たちは、黙っていた。


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最近の信長は。


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異様だった。


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武田と上杉の戦を聞くたび。


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機嫌が良くなる。


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「信長様」


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側近が、慎重に口を開く。


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「本当に、止めなくてよろしいので」


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当然だった。


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今の二人は危険。


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放置すれば。


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戦国そのものが変わる。


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だが。


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信長は、笑った。


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「だからいいんだろ」


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即答。


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「武田信玄」


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「上杉兼継」


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指で、地図をなぞる。


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「どっちも、時代を壊してる」


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そして。


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自分の胸を、指差す。


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「なら」


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笑う。


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「俺も混ざらねえとな」


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空気が、凍る。


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家臣たちが、理解する。


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この男。


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本気で。


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“怪物側”へ行く気だ。


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その時。


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報告が届く。


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「比叡山、抵抗継続」


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信長の目が、細くなる。


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寺。


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権威。


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腐敗。


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古い時代。


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全部。


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嫌いだった。


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「……焼くか」


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ぽつりと呟く。


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空気が、止まる。


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「信長様」


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家臣の声が、震える。


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寺。


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聖域。


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普通なら。


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手を出さない。


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だが。


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信長は、笑った。


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「関係ねえよ」


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「腐ってるなら、壊す」


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即答。


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そこに。


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迷いはない。


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その頃。


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越後。


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兼継は、静かに空を見ていた。


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雪。


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夜。


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静かな世界。


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だが。


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胸の奥だけが、熱い。


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武田信玄。


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あの男との戦。


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思い出すだけで。


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身体が熱くなる。


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「……厄介だな」


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ぽつりと呟く。


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戦を、楽しいと思い始めている。


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それは。


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危険。


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その時。


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家臣が、報告を持ってくる。


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「織田信長」


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「寺勢力と衝突激化」


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兼継の目が、細くなる。


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「……始める気か」


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理解した。


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織田信長は。


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“聖域”を壊す。


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武田信玄は。


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戦を壊す。


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そして。


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自分は。


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支配を壊している。


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「怪物ばかりだな」


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初めて。


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兼継が、少しだけ疲れたように笑った。


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その頃。


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尾張。


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信長は、一人で酒を飲んでいた。


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「第六天、か」


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ぽつりと呟く。


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仏敵。


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魔王。


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破壊者。


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だが。


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信長は、笑った。


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「悪くねえ」


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その目。


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完全に。


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狂気。


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「古い時代なんざ、全部燃やしてやる」


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静かな声。


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だが。


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そこにあったのは。


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本気。


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戦国。


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三人の怪物。


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武田信玄。


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上杉兼継。


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織田信長。


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ついに。


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全員が。


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“普通の大名”を辞め始めていた。


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(次話へ)


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