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愛を捨てし軍神の娘は、魔王に堕つ ―十一歳、上杉兼継 覚醒―  作者: 竜太郎


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第43話「軍神」

雪が、舞う。


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血が、混ざる。


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死体が、積み上がる。


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その中心。


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上杉兼継と。


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武田信玄だけが、立っていた。


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轟音。


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槍が、振り抜かれる。


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兼継が、避ける。


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一瞬。


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遅れる。


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「っ!!」


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頬が、裂ける。


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血。


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武田兵たちが、歓声を上げる。


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「信玄様!!」


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届いている。


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魔王へ。


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信玄は、笑っていた。


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「どうした」


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槍を、構える。


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「避けきれてねえぞ」


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兼継は、静かに血を拭う。


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熱い。


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血。


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痛み。


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呼吸。


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全部が。


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“生”だった。


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「……なるほど」


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ぽつりと呟く。


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「これが、軍神か」


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その瞬間。


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空気が、止まる。


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武田兵。


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上杉兵。


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全員が、凍る。


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軍神。


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その言葉を。


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上杉兼継が、武田信玄へ使った。


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信玄が、笑う。


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「今さらか」


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踏み込む。


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速い。


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兼継も、踏み込む。


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真正面。


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轟音。


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槍。


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短刀。


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雪が、吹き飛ぶ。


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周囲の兵が、後退する。


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近づけない。


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死ぬ。


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「ははっ!!」


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信玄が、笑う。


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「楽しいなァ!!」


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その目。


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完全に。


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戦を楽しんでいる。


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兼継は、黙っている。


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だが。


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その目も、変わっていた。


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冷たさが、消えている。


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熱。


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闘争。


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歓喜。


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武田信玄だけが。


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魔王から、“戦国”を引き出している。


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その時。


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武田騎馬隊が、再び咆哮する。


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「信玄様ァァ!!」


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死にながら。


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血を流しながら。


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それでも。


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前へ出る。


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兼継は、それを見る。


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理解していた。


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これは。


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信玄の軍。


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信玄が折れない限り。


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武田は、折れない。


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「……美しいな」


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ぽつりと呟く。


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家臣たちが、息を呑む。


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敵軍へ。


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“美しい”。


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だが。


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兼継は、本気だった。


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武田騎馬隊。


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武田信玄。


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戦国でしか生まれない。


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“戦そのもの”。


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その瞬間。


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兼継が、短刀を逆手に持ち替える。


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空気が、変わる。


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信玄の目が、細くなる。


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「来るか」


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次の瞬間。


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兼継が、消えた。


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「っ!?」


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武田兵が、目を見開く。


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見えない。


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速すぎる。


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信玄が、咄嗟に槍を回す。


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轟音。


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火花。


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止めた。


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だが。


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遅い。


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兼継の短刀が。


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信玄の胸を、浅く裂く。


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血。


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武田軍が、凍る。


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だが。


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信玄は、笑った。


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「いい!!」


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さらに前へ出る。


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狂っている。


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胸を裂かれて。


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なお。


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前へ。


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「……化物め」


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兼継が、初めて笑いながら言った。


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その瞬間。


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信玄も、笑う。


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「お互い様だろ」


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雪。


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血。


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咆哮。


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その中心で。


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二人の怪物だけが。


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生きていた。


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戦国。


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それはもう。


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人間の時代ではなくなり始めていた。


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(次話へ)


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