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愛を捨てし軍神の娘は、魔王に堕つ ―十一歳、上杉兼継 覚醒―  作者: 竜太郎


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第42話「武田騎馬隊」

武田軍が、動いた。


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咆哮。


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地鳴り。


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雪を砕く音。


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「来ます!!」


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上杉側の兵が、叫ぶ。


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見える。


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赤備え。


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騎馬。


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槍。


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武田騎馬隊。


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一直線。


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迷いなく。


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突っ込んでくる。


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「止まれぇぇぇ!!」


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上杉兵が、叫ぶ。


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火輪銃。


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一斉射。


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轟音。


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何人も落ちる。


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馬が崩れる。


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血が飛ぶ。


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だが。


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止まらない。


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「っ……!」


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上杉側の顔が、凍る。


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普通なら。


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崩れる。


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だが。


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武田騎馬隊は、進む。


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前へ。


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ただ前へ。


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「信玄様ァァァ!!」


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咆哮。


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それだけで。


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軍が、生き返る。


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信玄は、笑っていた。


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「押し潰せ!!」


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槍を、掲げる。


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その瞬間。


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騎馬隊が、さらに加速する。


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速い。


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異常なほど。


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上杉兵が、飲まれていく。


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「止まらん!!」


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火輪銃隊が、後退する。


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兼継は、高所からそれを見ていた。


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「……なるほど」


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ぽつりと呟く。


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武田騎馬隊。


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これは。


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“武田信玄そのもの”。


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恐怖で止まらない。


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損害で折れない。


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ただ。


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前へ出る。


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「美しいな」


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初めて。


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兼継が、敵軍へそんな言葉を使った。


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家臣たちが、凍る。


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だが。


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兼継の目は、本気だった。


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武田信玄。


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そして。


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武田騎馬隊。


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戦国でしか生まれない怪物。


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その時。


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騎馬隊が、ついに火輪銃隊へ届く。


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「食い破れぇぇ!!」


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轟音。


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上杉前線が、崩れる。


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武田軍が、歓声を上げる。


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「突破した!!」


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だが。


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信玄だけは、笑っていなかった。


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「……浅い」


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ぽつりと呟く。


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次の瞬間。


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地面が、崩れた。


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「なっ……!?」


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騎馬隊の前列が、落ちる。


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巨大な空堀。


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雪で隠されていた。


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その瞬間。


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左右。


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高所。


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後方。


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全部から。


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火輪銃。


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轟音。


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地獄。


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騎馬隊が、次々に吹き飛ぶ。


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「ぐぁぁぁ!!」


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馬。


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血。


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絶叫。


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完全包囲。


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だが。


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信玄は、笑った。


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「そうだ!!」


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槍を、振り上げる。


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「それでいい!!」


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狂っている。


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普通なら。


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絶望する。


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だが。


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武田信玄は。


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“強敵”ほど燃える。


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兼継が、高所から降りる。


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雪。


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血。


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死体。


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その中心へ。


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静かに歩く。


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武田軍が、震える。


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来る。


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魔王が。


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信玄が、笑った。


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「待ってたぞ」


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次の瞬間。


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二人が、再び激突する。


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槍。


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短刀。


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轟音。


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周囲の兵が、吹き飛ぶ。


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別格。


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「はははっ!!」


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信玄が、笑う。


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兼継は、何も言わない。


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だが。


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その目。


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完全に。


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熱を帯びていた。


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武田信玄。


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あの男だけが。


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魔王を、“生き物”へ変えている。


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戦国。


---


怪物たちは。


---


まだ、止まらない。


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(次話へ)


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