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愛を捨てし軍神の娘は、魔王に堕つ ―十一歳、上杉兼継 覚醒―  作者: 竜太郎


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第41話「怪物」

雪原。


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血。


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火。


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死体。


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その中心。


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二人だけが、立っていた。


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上杉兼継。


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武田信玄。


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周囲の兵は、近づけない。


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近づけば。


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死ぬ。


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それほどまでに。


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二人の戦が、異常だった。


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轟音。


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槍が、振り抜かれる。


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兼継が、避ける。


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地面が、砕けた。


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「っ……!」


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武田兵が、息を呑む。


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人間の戦ではない。


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兼継が、踏み込む。


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短刀。


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最短。


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最速。


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信玄が、防ぐ。


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火花。


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衝撃。


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だが。


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兼継は、止まらない。


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次。


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また次。


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一切、無駄がない。


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「ははっ!!」


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信玄が、笑う。


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「いいな!!」


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槍を、さらに強引に振り抜く。


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暴力。


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技量。


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速度。


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全部が、異常。


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兼継が、後ろへ飛ぶ。


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その瞬間。


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地面へ、火輪銃弾。


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爆ぜる雪。


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煙。


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信玄の目が、細くなる。


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「まだ使うか」


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兼継は、答えない。


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だが。


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次の瞬間。


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武田兵側から、咆哮。


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「信玄様を守れぇぇ!!」


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騎馬隊が、突撃する。


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兼継へ。


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真正面から。


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普通なら。


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あり得ない。


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魔王へ突っ込む。


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だが。


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武田兵は、行く。


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信玄がいるから。


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兼継の目が、少しだけ動く。


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「……忠義か」


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ぽつりと呟く。


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その瞬間。


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火輪銃。


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一斉射。


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騎馬隊が、崩れる。


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だが。


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止まらない。


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死にながら。


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前へ出る。


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「……なるほど」


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兼継の目が、細くなる。


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武田軍は。


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信玄の軍。


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だから。


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壊れない。


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その時。


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信玄が、踏み込む。


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速い。


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兼継が、反応する。


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だが。


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遅い。


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「っ!!」


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槍が、兼継の脇腹を掠める。


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血。


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上杉側が、凍る。


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信玄が、笑った。


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「届くな」


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兼継は、自分の脇腹を見る。


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血。


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熱。


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そして。


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少しだけ。


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笑った。


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「……そうだな」


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その瞬間。


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空気が、変わる。


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兼継の動きが、変化する。


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今まで以上に。


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鋭い。


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信玄の目が、見開かれる。


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「まだ上がるか!!」


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歓喜。


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兼継は、何も言わない。


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だが。


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その目。


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完全に。


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戦を楽しんでいる。


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武田信玄だけが。


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魔王の“人間”を引き出している。


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遠く。


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尾張。


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信長は、報告を聞きながら笑っていた。


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「怪物だなぁ」


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酒を飲む。


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「どっちも」


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家臣が、慎重に問う。


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「どちらが勝つと思われますか」


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信長は、少しだけ考える。


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そして。


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笑った。


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「知らねえ」


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即答。


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「でも」


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その目が、細くなる。


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「勝った方が、もっと怪物になる」


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沈黙。


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それが。


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一番、恐ろしい。


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雪原。


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兼継と信玄は、再び激突する。


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轟音。


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雪。


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血。


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戦国が。


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壊れていく音が、響いていた。


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(次話へ)


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