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愛を捨てし軍神の娘は、魔王に堕つ ―十一歳、上杉兼継 覚醒―  作者: 竜太郎


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第40話「突破」

武田軍は、止まらなかった。


---


包囲。


---


火。


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悲鳴。


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全部を突き抜けるように。


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前へ。


---


前へ。


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「進めェェ!!」


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---


武田信玄の咆哮が、響く。


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兵たちの目が、変わる。


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恐怖はある。


---


だが。


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それ以上に。


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“信玄が前へ出ている”。


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それだけで。


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軍が動く。


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「っ……!」


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上杉側の兵が、息を呑む。


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止まらない。


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完全包囲。


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普通なら壊れる。


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だが。


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武田軍は。


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むしろ加速している。


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「……化物め」


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上杉家臣の一人が、震えながら呟く。


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---


その時。


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爆音。


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火輪銃。


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前列の武田兵が、吹き飛ぶ。


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だが。


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止まらない。


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倒れた兵を飛び越え。


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さらに前へ。


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「まだ来るか」


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高所。


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兼継が、静かに呟く。


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その目。


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少しだけ。


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熱を帯びている。


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武田信玄。


---


あの男は。


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“死地”へ入るほど強くなる。


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「……なら」


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兼継が、手を上げる。


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「第三線」


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空気が、変わる。


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家臣たちの顔から、色が消える。


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まだある。


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「開放」


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次の瞬間。


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山の上。


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隠されていた旗が、一斉に立つ。


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武田軍が、凍る。


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「まだいたのか……!?」


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火輪銃隊。


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百。


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さらに百。


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「撃て」


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轟音。


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地獄だった。


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左右。


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前。


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高所。


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全部から弾丸が降る。


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「ぐぁぁぁっ!!」


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武田軍が、崩れる。


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馬が落ちる。


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旗が折れる。


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血が雪を染める。


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普通なら。


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終わり。


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だが。


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その中心。


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武田信玄だけは。


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笑っていた。


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「そうだ!!」


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槍を掲げる。


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「それでいい!!」


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咆哮。


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「上杉兼継!!」


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空気が、震える。


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「もっと来い!!」


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狂っている。


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武田兵たちですら、震える。


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だが。


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その背を見た瞬間。


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再び前へ出る。


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「信玄様ァァ!!」


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軍が、蘇る。


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兼継は、それを見ていた。


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静かに。


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そして。


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初めて。


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完全に。


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笑った。


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「……最高だ」


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家臣たちが、凍る。


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魔王が。


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心から。


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戦を楽しんでいる。


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その瞬間。


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兼継が、高所から降りた。


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空気が、止まる。


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「兼継様!?」


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止める声。


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だが。


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聞いていない。


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雪。


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血。


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死体。


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その中心へ。


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上杉兼継が、歩いていく。


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武田軍が、震える。


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来る。


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魔王が。


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信玄は、笑った。


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「待ってたぞ」


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二人の怪物。


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再び。


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真正面からぶつかる。


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次の瞬間。


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地面が、爆ぜた。


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激突。


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槍。


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短刀。


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轟音。


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周囲の兵が、吹き飛ぶ。


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別格。


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戦そのものが、変わっている。


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「ははっ!!」


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信玄が、笑う。


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「もっとだ!!」


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兼継は、何も言わない。


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だが。


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その目。


---


完全に。


---


熱を帯びていた。


---


---


戦国。


---


二人の怪物は。


---


互いを喰らい合いながら。


---


さらに先へ進んでいく。


---


(次話へ)


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