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愛を捨てし軍神の娘は、魔王に堕つ ―十一歳、上杉兼継 覚醒―  作者: 竜太郎


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第37話「進化する魔王」

越後。


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夜。


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静かだった。


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だが。


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本陣の中だけは違う。


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地図。


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駒。


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火輪銃配置。


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補給線。


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全部が並んでいる。


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「武田は、学んだ」


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兼継が、静かに言う。


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家臣たちが、黙る。


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事実だった。


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落とし穴。


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伏兵。


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火輪銃。


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武田信玄は。


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全部を、“戦場で理解”してきた。


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「次は、同じでは通じない」


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兼継の目が、細くなる。


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「だから」


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駒を動かす。


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「こちらも変える」


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その瞬間。


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家臣たちの空気が、変わった。


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魔王が。


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さらに先へ進もうとしている。


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「……どう変えるので」


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兼継は、静かに地図を見る。


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そして。


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ぽつりと呟いた。


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「武田を、“勝たせる”」


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沈黙。


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誰も、意味を理解できない。


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「兼継様……?」


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兼継は、静かに続ける。


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「武田信玄は、突破を狙う」


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「なら」


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駒を動かす。


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「突破できる場所を、与える」


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空気が、凍った。


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理解した。


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誘導。


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だが。


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以前とは違う。


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今回は。


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“勝ったと思わせる”。


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「……恐ろしい」


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家臣の一人が、思わず呟く。


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だが。


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兼継は、止まらない。


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「武田は、前へ出るほど強い」


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静かな声。


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「なら、前へ出させ続ける」


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つまり。


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深く。


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深く。


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“檻”へ誘導する。


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その頃。


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武田軍。


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進軍速度は、異常だった。


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「速い……」


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敵側の斥候が、震える。


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止まらない。


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疲れない。


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いや。


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疲れている。


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それでも。


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進む。


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「信玄様がいる!!」


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咆哮。


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それだけで。


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軍が動く。


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信玄は、笑っていた。


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「越後が見えてきたな」


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槍を肩に担ぐ。


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「今回は、食うぞ」


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家臣たちが、笑う。


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恐怖はない。


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あるのは。


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高揚。


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「上杉兼継」


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信玄の目が、熱を帯びる。


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「次は、正面から勝つ」


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その時。


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斥候が、駆け込んできた。


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「信玄様!」


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「上杉側、後退しております!」


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空気が、変わる。


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「……後退?」


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信玄の目が、細くなる。


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上杉兼継が。


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退く?


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あり得ない。


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「罠か」


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即答。


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だが。


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笑った。


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「いい」


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槍を握る。


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「乗ってやる」


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その瞬間。


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武田軍の空気が、爆発する。


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進む。


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もっと前へ。


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遠く。


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尾張。


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信長は、その報を聞いて笑っていた。


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「ははっ」


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酒を置く。


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「始まったな」


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武田信玄。


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上杉兼継。


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二人とも。


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変わっている。


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戦うほど。


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進化している。


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「最高だ」


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信長の目が、狂気じみた光を帯びる。


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「もっと壊れろ」


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ぽつりと呟く。


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「戦国ごとな」


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そして。


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越後。


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兼継は、静かに目を閉じていた。


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武田が来る。


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だが。


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今回は違う。


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“勝てる”と思わせる。


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それこそが。


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最も深い檻。


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魔王は。


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さらに恐ろしい場所へ、進み始めていた。


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(次話へ)


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