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愛を捨てし軍神の娘は、魔王に堕つ ―十一歳、上杉兼継 覚醒―  作者: 竜太郎


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第34話「北条」

関東。


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そこは。


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“待つ国”だった。


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北条。


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城。


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道。


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流通。


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守り。


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全部が、固い。


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「上杉」


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男が、静かに名を口にする。


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北条氏康


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関東を支える怪物。


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その目は、静かだった。


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「武田」


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次。


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「織田」


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最後。


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「……時代が、騒がしいな」


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ぽつりと呟く。


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家臣たちは、黙っていた。


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理解している。


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今。


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戦国がおかしい。


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武田信玄。


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上杉兼継。


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織田信長。


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怪物が、多すぎる。


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「氏康様」


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家臣が、静かに問う。


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「上杉は、危険かと」


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氏康は、少しだけ考える。


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そして。


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笑った。


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「当然だ」


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即答。


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「アレは、国を食う」


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部屋の空気が、重くなる。


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「武田は、戦で来る」


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「織田は、時代で来る」


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そこで。


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一度言葉が止まる。


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「だが、上杉は違う」


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静かな声。


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「“気づいた時には終わっている”」


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その一言。


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家臣たちの背が、冷える。


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理解している。


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上杉兼継は。


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“侵略”ではない。


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“浸食”。


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だから、怖い。


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「……戦いたくはないですな」


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誰かが、呟く。


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氏康は、笑った。


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「無理だな」


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「いずれ来る」


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断言。


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関東は、豊か。


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つまり。


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兼継が放置しない。


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「なら」


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氏康の目が、細くなる。


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「こちらも準備するしかない」


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その頃。


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越後。


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兼継は、関東地図を見ていた。


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北条。


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静か。


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だが。


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強い。


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武田とも。


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織田とも違う。


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“崩れない”。


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「……面倒だな」


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ぽつりと呟く。


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家臣が、静かに問う。


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「攻めますか」


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兼継は、少しだけ考える。


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そして。


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首を横に振った。


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「まだだ」


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即答。


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「北条は、急いで崩す相手じゃない」


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武田は、戦。


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織田は、時代。


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だが。


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北条は、“国家”。


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つまり。


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崩すには時間がかかる。


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「……先に、他を食う」


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静かな声。


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その言葉だけで。


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家臣たちは、理解する。


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兼継の中では。


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もう。


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“全国統一”が前提になっている。


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その時。


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新たな報が届く。


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「武田、再出兵準備」


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兼継の目が、少しだけ変わる。


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「……早いな」


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普通ではない。


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あの損害。


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あの消耗。


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それでも。


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もう動く。


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そして。


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別の報。


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「織田、京接触開始」


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沈黙。


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兼継が、ゆっくり目を閉じる。


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武田は、前へ進む。


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織田は、時代を壊す。


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北条は、耐える。


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怪物だらけ。


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「……いい時代だ」


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初めて。


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兼継が、自分からそう言った。


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家臣たちが、息を呑む。


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変わり始めている。


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武田信玄。


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織田信長。


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二人と出会ったことで。


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魔王は。


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少しずつ。


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“戦国”を楽しみ始めていた。


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(次話へ)


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