第33話「動き出す戦国」
越後。
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雪は、静かに溶け始めていた。
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長い冬が、終わる。
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つまり。
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戦国が、再び動く。
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「各地、動き始めています」
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家臣が、地図を広げる。
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「武田、兵再編」
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「織田、美濃統治開始」
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「北条、様子見」
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「朝倉、警戒強化」
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報告が続く。
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兼継は、静かに聞いていた。
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「……早いな」
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ぽつりと呟く。
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特に。
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織田。
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美濃侵攻直後だというのに。
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もう。
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次を見ている。
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「信長」
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名前を口にする。
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その瞬間。
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部屋の空気が、少しだけ重くなる。
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家臣たちも、理解していた。
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危険。
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武田信玄とは、別種。
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「尾張では、鉄流通がさらに増加」
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「商人保護により、民流入も増えております」
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兼継の目が、細くなる。
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「国を作っているのか」
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戦ではない。
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国家。
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それを。
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織田信長は、異常速度で進めている。
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「……面白い」
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ぽつりと漏れる。
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家臣たちが、少しだけ驚く。
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最近の兼継は、変わり始めていた。
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武田信玄。
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そして。
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織田信長。
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二人の怪物と接したことで。
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“熱”が生まれている。
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その時。
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外が騒がしくなる。
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兵が、慌てて駆け込んできた。
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「兼継様!」
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「春です!」
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沈黙。
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家臣たちが、顔をしかめる。
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報告としては、意味不明。
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だが。
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兼継だけは、理解した。
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雪が終わる。
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つまり。
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全大名が動ける。
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戦国が、本格的に始まる。
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兼継は、静かに立ち上がる。
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窓の外。
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白が減っていく。
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春。
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命の季節。
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だが。
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戦国では違う。
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死が増える季節。
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「……始まるな」
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静かな声。
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その頃。
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甲斐。
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武田信玄は、笑っていた。
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「雪が終わるぞ!!」
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兵たちが、歓声を上げる。
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酒。
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肉。
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笑い。
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ボロボロの軍。
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だが。
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空気は、生きている。
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「次はどこへ行きますか!」
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家臣が問う。
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信玄は、笑った。
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「決まってる」
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槍を、肩へ担ぐ。
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「勝てる場所だ」
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即答。
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合理。
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単純。
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それが。
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武田信玄。
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そして。
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尾張。
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織田信長は、笑っていた。
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「春か」
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窓の外を見る。
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人。
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金。
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鉄。
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全部が、動いている。
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「いいな」
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ぽつりと呟く。
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「時代が動く音がする」
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家臣たちの背筋が、冷える。
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この男は。
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本当に。
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“戦国そのもの”を楽しんでいる。
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その時。
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信長が、笑った。
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「上杉は、どう動くと思う」
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誰も答えられない。
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だが。
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信長は、楽しそうだった。
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「会いてえなぁ」
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越後。
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甲斐。
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尾張。
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三人の怪物。
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全員が。
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互いを意識している。
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そして。
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戦国は、理解し始める。
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時代が変わる。
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いや。
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もう。
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変わってしまったのだと。
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