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愛を捨てし軍神の娘は、魔王に堕つ ―十一歳、上杉兼継 覚醒―  作者: 竜太郎


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第32話「京を見る者」

京。


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腐っていた。


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貴族。


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寺。


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権力。


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金。


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全部が絡み合い。


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そして。


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何も動かない。


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「……終わってるな」


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織田信長が、つまらなそうに呟く。


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目の前。


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飢えた民が、倒れている。


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だが。


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寺は、閉じている。


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米はある。


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金もある。


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それでも。


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開かない。


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「何故です」


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家臣が、慎重に問う。


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信長は、笑った。


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「欲だろ」


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即答。


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「人間は、溜め込む」


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「権力も」


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「金も」


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「食い物もな」


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軽い口調。


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だが。


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目だけが、冷たい。


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「……くだらねえ」


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その瞬間。


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信長の目に、明確な嫌悪が宿る。


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戦国。


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人が死ぬ時代。


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だが。


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この京だけは、違う。


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“腐って死ぬ”。


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「壊すか」


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ぽつりと呟く。


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周囲の家臣たちが、凍る。


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信長は、本気だ。


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「信長様」


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側近が、慎重に口を開く。


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「京は、まだ早いかと」


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当然だった。


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今の織田では。


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まだ届かない。


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だが。


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信長は、笑う。


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「だから面白い」


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その言葉で。


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全員が、黙る。


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その頃。


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越後。


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兼継もまた、京の報を見ていた。


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「寺勢力、拡大」


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「公家腐敗」


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「飢饉増加」


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報告は、酷い。


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兼継は、静かに目を閉じる。


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「……止まっている」


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ぽつりと呟く。


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京は。


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戦国なのに、動いていない。


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変わろうとしない。


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だから。


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腐る。


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「……気に入らんな」


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家臣たちが、顔を見合わせる。


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兼継が。


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京へ興味を持った。


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その時。


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新たな報。


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「織田信長」


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「京を見た後、異常に機嫌が悪いと」


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沈黙。


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兼継は、少しだけ考える。


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そして。


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初めて。


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ほんの少し。


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笑った。


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「同じか」


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理解した。


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織田信長も。


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京を、“腐敗”として見た。


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だから。


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危険。


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「……あの男」


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兼継が、静かに呟く。


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「本気で時代を壊す気だな」


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武田信玄は。


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戦を求める。


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だが。


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織田信長は。


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“時代の更新”を求めている。


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それは。


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上杉兼継と、近い。


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近いからこそ。


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危険。


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その夜。


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尾張。


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信長は、一人で酒を飲んでいた。


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珍しく。


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笑っていない。


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「……腐ってやがる」


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京を思い出している。


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権力。


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形式。


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古いだけの価値。


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全部、嫌いだった。


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「なら」


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盃を置く。


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「壊すしかねえだろ」


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静かな声。


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その瞬間。


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家臣たちは、理解した。


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織田信長は。


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天下が欲しいのではない。


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“自分が気に入らない時代を壊したい”。


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それだけ。


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そして。


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遠く越後。


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兼継もまた、窓の外を見ていた。


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雪。


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静かな白。


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だが。


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その目は。


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京を見ている。


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「……腐っているなら」


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ぽつりと呟く。


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「作り直せばいい」


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二人の魔王。


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互いに。


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同じ結論へ辿り着き始めていた。


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だから。


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いつか。


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必ず。


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ぶつかる。


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戦国そのものを賭けて。


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(次話へ)


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