315/322
第329話 交差する平穏
京の朝は、何も変わらずに始まっている。
市場の門が開き、商人が声を上げ、通りに人の流れが戻る。
戦の気配はどこにもない。
だが、それは消えたのではない。
形を変えて沈んでいるだけだ。
上杉の記録隊は街道の端で状況を確認している。
織田の兵も武田の兵も同じ空気の中にいる。
かつて敵と呼ばれた存在は、今はただの構造要素として並んでいる。
誰も刃を抜かない。
必要がないからだ。
兼継はその光景を遠くから見る。
これは平和ではない。
だが戦でもない。
その中間の状態が、長い時間をかけて固定されている。
均衡はまだ維持されているのか。
誰かが呟く。
兼継は答えない。
維持しているのではない。
崩壊の理由が消えているだけだ。




