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第328話 新しい朝
翌朝の京は、静かだった。
だがその静けさは空白ではない。
積み重ねの結果だった。
資料室の扉を開ける音が響く。
久世恒一は、いつものように鍵を回した。
机は変わらない。
棚も変わらない。
ただ、その中にある記録だけが増えている。
柿崎が後から入ってくる。
「おはようございます」
「おはよう」
それだけの言葉。
それで十分だった。
受付箱には二つの記録。
『子どもが朝の光をきれいだと言った』
『昨日より風が少し柔らかかった』
それは事件ではない。
異変でもない。
ただの日常だった。
だがその日常こそが、この世界を支えていた。
遠くで鐘が鳴る。
市場が開く。
人が動く。
戦はそこにない。
しかし、消えたわけでもない。
形を変えただけだ。
世界は誰か一人のものではない。
無数の営みが積み重なって続いている。
それが、今の戦国だった。




