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第302話「織田の炉火」
尾張国、清洲城。
織田信長、二十六歳は、広間の巨大な炉の前で、激しく爆ぜる火花を見つめていた。
冬の到来は、機動力を誇る織田の軍勢にとっても、一時的な足止めを意味していた。
しかし、信長の破壊の永久機関は、その回転速度を落とすことはなかった。
楽市によって集まった富は、冬の間も堺や京の職人たちへの発注に変えられ、大量の鉄砲と玉薬が清洲の蔵へと運び込まれていた。
「武田の駿河侵攻、雪によって行軍が遅滞している模様にございます」
丹羽長秀、二十五歳が、炉の傍らで静かに報告した。
信長は鼻で笑い、鉄の火箸で炭を乱暴に叩いた。
「天候に左右される統治など、未完成の証拠よ。俺は天も地も、すべて俺の速度に従わせる」
信長にとって、冬は停止の季節ではなく、次の一撃のための圧力を内に圧縮する期間であった。
敵を全滅させる必要はないが、圧倒的な火力で既存の秩序を破砕する。
その意志が、尾張の冬の空気を焦がしていた。
「北の十四歳は、雪に埋もれて凍えているか」
信長は短く呟いた。
動かない壁の不気味さを意識しつつも、信長は自らの破壊の速度がすべてを凌駕すると確信していた。
炉の炎が、織田の次なる拡張の予兆を赤々と照らし出していた。




