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第294話「島津の潜伏」
薩摩国、鹿児島城。
中央の混沌から完全に遮断された九州の南端で、島津は静かに牙を研ぎ続けていた。
島津貴久、四十六歳は、重臣たちを集めて、中央の大名たちの動向を淡々と語り聞かせていた。
織田の急速な火力増強、武田の南下、そして北の上杉による数字を用いた国家運用。
それらの情報は、確実にこの地にも伝わり、内に圧縮されていた。
「戦国は、天下を取る物語ではない」
貴久の言葉に、長男の島津義久、二十六歳が鋭い視線を返した。
「統治を維持する構造記録。越後の若者は、世界をそう見ているそうだ」
「我らはどう動きますか」
義久が問うた。
貴久は冷たく笑った。
「我らは終盤圧縮装置よ。奴らが精緻な構造を完成させたと過信した瞬間に、一撃でその均衡を崩すトリガーとなればよい。今はただ、牙を研げ」
島津の局地戦における圧倒的な戦闘力は、どのような統治構造をも粉砕する破壊力を秘めていた。
しかし、彼らはまだ動かない。
外周の変数は、暗闇の中で静かに世界の状態を睨みつけていた。
その絶対的な軍事圧力の存在自体が、将来の全面戦争への不確定要素として、世界を均衡前夜の緊迫感に留めていた。




