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愛を捨てし軍神の娘は、魔王に堕つ ―十一歳、上杉兼継 覚醒―  作者: 竜太郎


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286/288

第286話「収穫の計算」

城下の鍛冶場。

秋の冷気の中で、職人たちが黙々と農具を叩いていた。


記録係の若者は、炉の横に立ち、一日に生産される鍬や鎌の数を木札に書き留めていた。

かつての越後では、職人の数は把握されておらず、必要なときに物資が足りないことが常であった。

しかし、兼継の推進する国家運用は、職人の生産力すらも数値化していた。


「今月は例年より鎌の仕上がりが一割早いな」

若者の言葉に、老鍛冶職人が誇らしげに鼻を鳴らした。


「文字を覚えた弟子が、材料の仕入れを帳面に付けるようになってな。無駄な待ち時間が減ったのさ」

ここでも、民の識字能力の向上が経済循環を滑らかにしていた。

数字が政を動かし、民の生活を支える。


戦国は天下を取る物語ではない。

統治を完成させる物語でもない。

ただ、こうして日常の細部が維持され続ける構造記録である。


職人が叩く鉄の音が、城下町に規則正しく響き渡っていた。

誰一人として英雄はいなかったが、彼らの正確な営みそのものが、他国には真似のできない強靭な統治持続力を、越後の地面に深く刻み込んでいた。

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