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愛を捨てし軍神の娘は、魔王に堕つ ―十一歳、上杉兼継 覚醒―  作者: 竜太郎


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285/288

第285話「砦の均衡」

国境の険しい山道。

上杉の守備隊長、三十五歳は、武田方の斥候部隊と至近距離で対峙していた。


お互いに刀の柄に手をかけているが、誰もそれを抜しようとはしない。

戦の即決は禁止されている。

圧力の段階化、小競り合いの維持。

それこそが、勢力の唐突な崩壊を遅延させ、構造を維持するための減速ルールであった。


「引け。これ以上進めば、我らも動かねばならん」

隊長は静かに、しかし断固とした声で告げた。


相手を全滅させる必要はない。

ここに強固な構造体が存在し、防備に一切の隙がないことを見せつけるだけで、統治圧の調整は完了する。

敵武将であっても安易に殺害しないのは、生かしておくことで相手の内の圧力をコントロールするためであった。


武田の斥候もまた、しばらく睨み合った後、静かに馬首を返していった。

国境の緊張は、破壊のためではなく、現状維持のための調停現象として扱われていた。

砦の裏手では、民が何事もないように畑の草を毟っている。


世界は説明されない。ただ進行する。

この減速ルールが機能している限り、戦国という世界は壊れることなく、その状態を維持し続ける。

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