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愛を捨てし軍神の娘は、魔王に堕つ ―十一歳、上杉兼継 覚醒―  作者: 竜太郎


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第28話「二人の魔王」

美濃は、燃えていた。


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煙。


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火。


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叫び。


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その中心で。


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織田信長は、笑っていた。


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「逃がすな!!」


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織田軍が、一斉に前へ出る。


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速い。


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止まらない。


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「なんだ、あいつらは……!」


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美濃側が、恐怖する。


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普通の軍ではない。


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崩して。


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止まらず。


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さらに押し込む。


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戦場に、“間”が存在しない。


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「信長様!」


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家臣が駆け寄る。


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「東側、制圧完了!」


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「遅い」


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即答。


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「次だ」


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地図すら、見ない。


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もう頭の中に、全部ある。


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「兵糧庫を押さえろ」


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「商人は保護しろ」


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「道は壊すな」


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命令が、次々飛ぶ。


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戦の最中なのに。


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もう。


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“戦後”を見ている。


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「……化物め」


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家臣が、小さく呟く。


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聞こえていた。


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だが。


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信長は、笑うだけだった。


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「当然だろ」


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「天下取るんだからな」


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その言葉。


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誰も、否定できない。


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越後。


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兼継は、静かに報告を聞いていた。


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「美濃陥落間近」


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「織田軍、進撃継続」


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「民衆離反、ほぼ無し」


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家臣たちが、険しい顔をする。


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「異常です」


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「普通なら、占領地は荒れます」


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当然だった。


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戦は、奪うもの。


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だから。


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憎まれる。


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だが。


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織田は違う。


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「……奪っていない」


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兼継が、静かに呟く。


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「必要なものだけを取っている」


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つまり。


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“支配”を理解している。


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武田信玄は。


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戦そのもの。


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だが。


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織田信長は。


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“時代”。


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そして。


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上杉兼継は。


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“支配”。


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三つとも、違う。


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「……嫌な時代だ」


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兼継が、ぽつりと呟く。


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家臣たちが、顔を見合わせる。


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兼継が。


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時代を語った。


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その時だった。


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新たな報が届く。


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「織田信長」


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「上杉について調査開始」


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空気が、変わる。


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「……来たか」


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兼継の目が、静かに細くなる。


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「火輪銃」


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「進軍速度」


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「補給線」


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「武田戦」


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全部を、調べている。


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「こちらを見る気だな」


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短い言葉。


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家臣が、恐る恐る問う。


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「……危険でしょうか」


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沈黙。


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そして。


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兼継は、静かに答えた。


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「危険だ」


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即答だった。


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武田信玄とは、違う。


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信長は。


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“理解した上で壊しに来る”。


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それが。


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最も厄介。


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遠く。


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尾張。


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信長もまた、報を聞いていた。


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「上杉兼継」


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「武田信玄を圧倒」


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「火輪銃保有」


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「情報戦特化」


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信長は、笑う。


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「会いてえな」


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家臣たちの背が、冷える。


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嫌な笑い方だった。


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「信玄と、どっちが強いと思う」


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突然の問い。


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誰も、答えられない。


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だが。


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信長は、楽しそうに笑った。


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「どっちも化物だな」


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その目。


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そこには。


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恐怖が、一切ない。


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あるのは。


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興味。


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「いい時代だ」


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戦国。


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怪物が、増え始めている。


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そして。


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誰も、止められない。


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その中心にいる二人は。


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まだ。


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会ってすらいない。


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だが。


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確実に。


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互いを意識し始めていた。


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魔王。


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そして。


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第六天。


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戦国が。


---


最も危険な時代へ、進み始める。


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(次話へ)


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