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愛を捨てし軍神の娘は、魔王に堕つ ―十一歳、上杉兼継 覚醒―  作者: 竜太郎


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第27話「美濃侵攻」

美濃。


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境界の国。


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誰が取っても、戦国が動く。


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だからこそ。


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誰も、簡単には手を出せなかった。


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だが。


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「行くぞ」


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織田信長は、笑っていた。


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尾張。


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織田軍。


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兵数は、まだ圧倒ではない。


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だが。


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空気が違う。


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軽い。


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恐怖がない。


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まるで。


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“戦を遊んでいる”。


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「信長様」


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家臣が、静かに問う。


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「本当に、正面から?」


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普通なら。


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あり得ない。


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美濃は、堅い。


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守りが強い。


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だが。


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信長は、笑う。


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「だから面白い」


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即答。


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「戦はな」


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火縄銃を肩に乗せる。


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「勝てる相手とやっても、つまらん」


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周囲が、黙る。


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狂っている。


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だが。


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だからこそ。


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人がついてくる。


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「……準備は」


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「終わってる」


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短い返答。


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その時。


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遠くで、爆音。


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「っ!?」


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美濃側の見張り櫓が、崩れる。


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煙。


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火。


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混乱。


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「始めろ」


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信長が、笑う。


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次の瞬間。


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織田軍が、一斉に動いた。


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速い。


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異常なほど。


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「なっ……!?」


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美濃側が、混乱する。


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早すぎる。


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普通なら。


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櫓を崩した後、一度止まる。


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陣形を整える。


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確認する。


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だが。


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織田軍は、止まらない。


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「そのまま押し込め!!」


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咆哮。


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火縄銃。


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槍。


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騎馬。


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全部が、同時に来る。


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「ぐぁぁっ!!」


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前線が、一瞬で崩れる。


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信長は、笑っていた。


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「遅い遅い!!」


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火縄銃を奪う。


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そのまま撃つ。


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また前へ出る。


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家臣たちですら、追いつけない。


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「信長様が前に出すぎだ!!」


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叫び。


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だが。


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止まらない。


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織田信長そのものが。


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“突破口”。


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越後。


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報告が届く。


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「美濃前線、一日で崩壊」


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「織田軍、異常速度で侵攻」


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家臣たちが、ざわつく。


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「……早すぎます」


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兼継は、静かに地図を見る。


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「止まらないか」


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武田信玄とは、違う。


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武田は。


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“戦場”を制圧する。


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だが。


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織田信長は。


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“流れ”そのものを壊す。


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「……厄介だな」


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ぽつりと呟く。


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その時。


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別の報。


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「織田軍、略奪禁止令」


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空気が、止まる。


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「……何?」


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家臣たちが、顔を見合わせる。


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戦国では、あり得ない。


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勝った兵は、奪う。


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それが普通。


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だが。


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信長は、禁止した。


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「理由は」


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「民が逃げると、金が死ぬと」


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沈黙。


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兼継の目が、細くなる。


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理解した。


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「……戦だけではないか」


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信長は。


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国を見ている。


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流通。


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金。


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民。


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戦後。


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全部。


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最初から。


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「危険だな」


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二度目だった。


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兼継が。


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織田信長を、危険視したのは。


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「武田信玄は、戦で強い」


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静かな声。


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「だが」


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視線が、尾張へ向く。


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「織田信長は、“終わった後”まで見ている」


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それは。


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上杉兼継と、同じ視点。


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だからこそ。


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危険。


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遠く。


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戦場。


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信長は、血の中で笑っていた。


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「もっとだ」


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火。


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鉄。


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叫び。


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その中心で。


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たった一人。


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“時代そのもの”みたいに笑っている。


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戦国は、気づき始める。


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武田信玄だけではない。


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もう一人。


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怪物がいる。


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しかも。


---


そちらは。


---


“止め方が分からない”。


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(次話へ)


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